第4話 廃墟とこれからの方針

 おれは白い廃墟が立ち並ぶ瓦礫の影から、こっそり顔を出して、周囲を確認する。

 ……生き物は、いないな。

 よし。と自分に言い聞かせて頷くと、移動を開始した。


 はじめて異世界の世界を確認してから、十分……十五分ぐらいは、たっただろうか?


 おれが倒れていた台座があった場所は、人工的に作られたような丘の上にあった。いや、丘……というか、頂点を平たくした白いピラミッド?の上みたいな感じだろうか。

 誰も居ないようなので、おれは眼下に見えていた、白い廃墟の群れがある場所に移動してみることにしたのだ。そこまでの道のりとして、近くに廃墟へと続く階段があっさりと見つかったので、思ったより短時間で廃墟群まで移動することが出来た。


 物珍しさにおれは、忙しなく目を動かして、周囲の様子をうかがう。

 白い廃墟群は、どうやら遠い昔に人が住んでいただろう住居が劣化した姿のようだった。

 壁をくりぬいただけの窓から、廃墟の中を覗くと、朽ちた木製の家具と石造りの家具が並んでいる。

 今、おれが歩いているところは、大通りっぽい場所のようで、砂や土で所々埋もれているが、タイルのようなもので舗装されていた。

 さすがに日本のショッピング街などであるような、上薬を塗って焼いたようなピカピカのタイルで舗装されているわけではなく、素焼きっぽいけど……。それでもこれは、昔の人にとってはかなり贅沢な舗装なのではないか? と思う。

 白で統一されたような、廃墟の群れは、今は無き栄華を表しているようで、少し寂しい気分になった。なにより、周囲に異常なほど生き物の気配が全くないのが余計に孤独感を感じさせて、そういう気分になるのだろう。


 そうこう思っているうちに、広場らしきところに着いた。

 広場の中央には、泉らしきものがある。――おれは駆け足で近寄ってみた。

 そんなに深い泉では無いらしい。透明な水が地面から水底の砂を掻き分け、こんこんとわき出ているのが見える。

 泉からあふれた水は、以前に作られたであろう水路をながれている。以前はきっと生活用水として使われていたのだろうなとおれは思った。


 そんなとき、ふと、水面に映った自分の姿に笑ってしまった。


「ひどいかお」

 思わず、言葉がこぼれる。

 短く柔らかい黒い髪に、黒い瞳。どこか幼さを残す顔立ちが、見慣れない伊達眼鏡をかけてこちらを見つめていた。

 すこし青ざめた顔に不安げな顔をしているのが、可笑しくて笑ったら、不自然な笑い方として水辺に反映される。

 頼りなげなその顔に、たまらない気持ちになり、思わずその場にしゃがみ込んで、うずくまった。

「だいじょうぶだ」

 自分に言い聞かせる。こんなの根拠も無い空言にしか過ぎないが、そうとでも考えていなきゃ立っていられない気がした。おれは、しばらくうずくまったまま、不安に押しつぶされそうな心を励まし続けた。


 やっと気持ちが落ち着いてきて、おれはのろのろと顔を上げた。

 もともとネガティブな方なのに、こんな、意味のわからないことが立て続けに起こったら、落ち込むのも無理は無いと自分に言い訳する。

 気持ちを切り替えよう。

 おれは廃墟の探索の続きをしようと立ち上がった。



 その後、あらかた、廃墟が密集した部分は調べたが、特に目立って新しいことがわかることはなかった。

 おれは大通りの端あたりに座って、空を見る。

 少し太陽が傾いてきているところをおもえば、あと一、二時間すれば夕方になるのだろうと目算して、これからどうしたらいいのか考えなきゃいけないなと思った。


 これから、どうするのか? まあ、メールの書いてあったとおり、元の世界に帰れないとするならば、もうこの世界で生きていくしか選択肢はないだろう。

 では、この世界で生きていくには、どうしたらいいのか?

 最低でも生きていく為に必要なものはなにか? おれの足りない頭では衣食住ぐらいしか今のところ思いつかない。


 人間に必要なもの……衣食住。

 衣はこのまま、住は廃墟の比較的きれいなところが使えるとして……、問題は食だよなとおれは考え込んだ。


 飲食できるもの。飲むものに関しては、広場の水が使えそうだとおれは考えている。正直、生水だし、生き物住んでなかったし、水がきれいすぎるのも手伝って、体に良くない成分とかありそうだと思ったけど、それに関しては、いざとなったら、 状態異常効果(無効)があるから問題ないはずだ。ギフトを信用するなら、今のおれは猛毒だって飲み干せるはずなのだ。

 ……なので、目下の問題は、毎日安定して食べられるものを発見しなければいけないということだろう。

 いまのところ、食べるもの一切見かけなかったしな……。


 この場所を移動して他の場所に行くことも考えた。けど、遺跡を出たときに見た景色からして、周囲はうっそうとした森で覆われている。――今のところ、森が安全かはわかっていない。なら、むやみに移動するより、森が安全に通れるかどうか調査してから移動したほうがいいと考えた。


 幸い、遺跡の中は、鑑定の結果だと結界の中であるため、安全地帯のはずだ。

 廃墟群も遺跡に入っているのか、見たところ生き物の気配がしたことは無い。

 ならば、廃墟群も結界の中と考えて良いだろう。


 当分は、この遺跡を拠点として、周辺の森の探索だな。

 おれは、そう結論をだすと、その場から立ち上がる。


 森の方へ行ってみるか。……なんだか危険そうで、すこし怖いけど。

 ゆっくりと歩き出し、不安に思いつつも、行かないという選択肢はなかったので、おれは森の方向へと歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る