宵闇のサクリファイス
連理
『第一章 ハロー ニューワールド』
第1話 プロローグ
――変わらない毎日が続くと、信じていた。
火葬場の白い煙突から煙が出ている。
遠くに墓が並ぶのが見える、火葬場近くの庭園。
ベンチに座り込み、拡散する煙をぼんやりと見つめて、今、炎の中に居る父と母、そして妹のことを思った。現実味のない感覚のまま、あの煙が自分の家族を焼いているのだと、理解はしても、心が追いつかないまま、天国ってほんとにあるのかなぁと空を見つめて、なんだか目が痛いなとまぶたを閉じた。
季節は四月。ピーコックグリーンの上着に白いシャツ、ベージュ色がベースのチェックのズボンといった、まだ数日しか使ってない高校の制服を着ているものの、まだ残る冷たい風をほほに感じて、上着の下にカーデガンでも着れば良かったと後悔した。肌寒さに震える。
こんなときに「しょうがない子ね」と言いつつ微笑んで、マフラーを貸してくれた、母はもういない。「おにいちゃん、寒いの?」と心配する幼い妹もいない。「はやく暖かい場所に行くぞ」と言って、気づかってくれた父も……みんな、みんな、いないのだ。もう、二度と会えない。
原因は事故だった。酒に酔っ払った運転手がトラックを運転していて、交差点でおれの家族が乗っている乗用車に、速度規制に大きく上回るスピードでぶつかっただけ。
恨もうにも、トラックの運転手も死んでしまったので、行き場のない気持ちが腹の中でぐつぐつ煮えていた。そのことにひどく自分が醜いものになった気がして、嫌になる。
「どうして、生きているんだろう」
思わず言葉がこぼれた。死にたいわけではなかったが、生きていくのも億劫だった。
それくらい、おれにとって家族は今も大切なものなのに、――奪われたのだ。
胸の中が空虚なもので満たされていく。……いっそうのこと、おれが死んで、みんなが生きてくれれば良かったのに。
そう思った時だ。
誰かに腕を掴まれた。それは信じられないような強い力でおれを地面に引き倒す。
何が起こったのかわからず、おれは抵抗する間もなく、地面に叩きつけられる。
最後に見えたのは、青い空と白い煙突から流れる煙。そこで、視界がブラックアウトした。
――いらない命ならば、私がもらい受けよう。
微かに、愉悦ににじむ誰かの声が聞こえた気がした。
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