シュガーレスシュガー

@318orange

第1話 恋愛賞味期限

人の恋心は、三の倍数で消えてしまうらしい。天井の明かりのように、ぱちりと消えるのだろうか。それとも角砂糖みたいに、少しずつ形を崩していくのだろうか。もらった愛は、綿あめみたいに広がっていくのに、ぱちりと消えるのは少し寂しいなと感じた。

「私は、金平糖がいいな。」

「金平糖?」

「うん、夜空に浮いてるの」

そしてふっと、突然落ちてしまう。でも消えるわけじゃない。だから、誰かが受け止めて、また金平糖の甘さを享受できる。

「きっとそういうとこなんだろうね」

紙コップを置いて、まつ毛を伏せて、少し深めの呼吸をして視線を流す。友人はこの行為を愛だと呼んでいた。

「また愛を感じた?」

「うん、愛しいよ」

すこしばかり閉じ込めたくなって、すこしばかりため息が出て、すこしばかり笑いが乾く。そんな愛だ。彼が表していたものとは違った、彼女の愛だ。

「きっとそういうところがあいつも好きでいたんだろうね、きっと。でもたぶん、甘すぎたんだよ。あんたの金平糖」

コツコツと机でリズムをとりながら彼女は言う。なくなったコーヒーを惜しんでいるようだ。

「啓太は、甘いものが好きだと思っていたんだけどなあ」

「あんたの糖度はすこし癖があんのよ。外国の飴みたいな?」

「日本製には敵わないなあ」

香里ぃ、と声が聞こえて彼女は微笑んで手を振った。私が滅多に見ることがなくなった笑顔だ。

「香里はどう思う?やっぱり私のせいかな」

「そのくだり何回目よ。何回聞かれようと私の答えはノーだから」

腕時計を覗いて、彼女は荷物を軽くまとめ始めた。時刻はもうすぐ午後四時、五限目がはじまる。

「何回言われようが、啓太が馬鹿で、もったいないことをしたって結論は変わんないよ。遥香はいい女なんだから」


啓太とは、六年と三か月付き合った。高校一年生の夏に告白されて、そこからずっと、一昨日まで。お互いの進路も固まりだして、あとは結婚だけだと周りから言われていた。私もそう思っていたし、啓太もきっとそうだった。なぜ別れたのか、三日目の今日になってもわからない。理由は一つで「恋愛感情がなくなった」というものだった。真っ先に報告をしたのは香里に対して。電話口に別れようと言葉にされた瞬間、チャットを飛ばした。

『振られたよ』という報告に対して一秒で『だれに?』と返信が来た。高校の時代から私たちを見ていた香里はひどく啓太に怒りを覚えているそうだ。

「あんたみたいないい女振るとか意味わかんないし、考えられない。あいつやっぱり同性愛者なの?」

「香里それは敵が生まれるから」

「高校の時から疑ってたのよ私は」

「やだ奇遇、私も」

「四日前までは普通だったんでしょ?」

「そうだね、片鱗はなかったかな」

「ますます理解不能だわ」

香里は肩をすくめて深い息を吐いた。私も習って少し息を吐く。

恋に賞味期限があるとコラムで見たことはあるけど、他人事だと思っていたことを、認めざるを得ない。

反省の意味でもう一度、息を吐いた。

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