影狩り-シャドウハンターズ-

沖彦也

プロローグ

0-1

「キューッツ。キューッツ」

 人気のない郊外。山へと向かう山道に不気味な鳴き声がこだまする。星のない夜道に大きな黒い影が走っていく。その影は人の姿に似ているが人ではない。まるで大きなクモだ。しかし、クモと呼ぶには人に似すぎていた。形容するならば、クモ人間。人とクモが合わさったような姿だった。

 クモ人間は何かに追われるように逃げていく。追っているのは三つの風。ロングコートをはためかせて、疾走する三台のバイク。それらに跨っているのは二人の少年と一人の少女。

 クモ人間はその三人に向かって毒液を放つ。

 三人はバイクから飛び降りて散開。毒液が着弾した場所は地面が溶けた。

「逃がしません」

 少女は着地すると、地面を蹴ってクモ人間との間合いを詰める。金属を打つような重厚な音が鳴り、握り締めた拳が光り輝く。少女の腕はリボルバーと撃鉄が設えられた銀色の鉄甲に覆われていた。

「えいやぁあっ」

 気合いと共に拳を突き出して攻撃。

「キュエエエエエエエエ」

 殴られたクモ人間はバランスを崩して転がる。

「悠馬先輩!」

「任せろ」

 悠馬と呼ばれた少年は追い討ちをかける位置に陣取った。少年の両手には、穂先にドラゴンの翼が付いている、槍が握られている。

「でぃやあああ」

 鋭い眼光で相手を睨み、転がってきた所を槍で突き刺した。

「ギエエエエエエエエエエエエエ」

 ズブリと穂先が突き刺さり、悲鳴が夜の空に響く。

「やまかしいっ」

 クモ人間に一喝すると、槍を引き抜いて蹴り飛ばす。

「隼人! 決めろっ」

「応! 相棒」

 槍の少年は引き下がる。代わりに刀を腰に差した少年が飛び出す。

 刀の柄を握って引き抜く。銀色の刃が煌いた。

 慌てて立ち上がるクモ人間。

「遅ぇ! 燃えろ。悪喰あくじき!」

 振りかざした刃に炎が宿って、一気に振り下ろした。

 一太刀でクモ人間を両断する。切った傷口から炎が出火。

「ギャエアアアアアアアアアアアアアアア」

 断末魔を上げて、クモ人間は灰になった。灰が全て落ちると、小さな黒い種が残った。その種が割れると中から、げっそりとやつれた男が飛び出して、バッタリと倒れてしまった。

 刀を鞘に納めて少年は一息つく。

「よっしゃ、討伐完了」

 首周りをコキコキと鳴らす。

 鉄甲の少女が駆け寄ってきた。

「お疲れ様です。隼人先輩」

 キラキラした瞳で少年を讃える。

 槍の少年が肩に槍を乗せてやってくる。

「お疲れさん。隼人」

「応。お疲れさん」

 手を上げてハイタッチ。そして三人は倒れた男を見る。

「今月に入って四件目。こりゃ、相当ヤバイな」

 刀の少年は厳しい顔をした。

 槍の少年は言う。

「どうやら思ったより事態は進行しているようだな」

 鉄甲の少女は言う。

「これ以上は野放しに出来ません。なんとしても突き止めましょう」

 刀の少年は切り替えた。

「そうだな。とりあえず調査は【チェイサー】に任せて、今日は撤収だ」

「了解です」

「壊れた地面も修復しないとな」

 三人はお互いに頷いて事後処理に動き出した。

 この世には、人の心に巣喰う化け物がいる。悪意をばら撒き、心を喰らう。その化け物の名は「悪喰あくじき」。

 これは、悪喰と戦う「影狩かげがり」と呼ばれる狩人達の物語である。

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