第25話 こんなゲームを楽しめるのか?
その三人パーティーは、全員剣士だった。
剣が一番優遇されているこのアンバランスなゲームにおいて、そのこと自体はさほど珍しいことではない。
勝ちにいくなら僕もそうする。
「どうしたんですか??」
xo魔梨亜oxが心配そうに彼らに尋ねる。
比較的元気そうな剣士が、こちらを振り返って言う。
比較的元気そうと言っても、それなりにダメージは負っているようだった。
「見ての通りだよ……」
その三人パーティーは、比較的元気そうな剣士と、あまり元気じゃなさそうな剣士と、倒れている剣士(恐らく瀕死)というラインナップであった。
倒れている剣士は、心配だ。
「誰かに……やられたの?? 誰に!?!?」
xo魔梨亜oxが、その比較的元気そうな剣士に尋ねる。
彼は剣を鞘に収めた。
ついさっきまでここで戦いがあったのだろう。
ここまでザコモンスターがいなかったのは、剣士たちが倒してくれていたからに違いない。
「スーパーゴブリンたちに……やられたんだ……」
あまり元気じゃなさそうな剣士も剣を鞘に収める。
倒れている剣士は、まだ剣を持ったままだった。
それに気づいたあまり元気じゃなさそうな剣士が、その剣を鞘に収めてあげる。
その瀕死の剣士の剣の柄の部分は、金色にキラキラと光っていた。
なかなか強そうな武器だ。
「それは、今近くにいるの??」
「今、やっと倒したところだったんだ。回復アイテムもなくて……、俺たちはここまでかなっていうところだ」
「でももう、この魔梨亜さまたちがいれば大丈夫だから!!」
何か勝手に大丈夫とか言ってるけど……。
魔梨亜さまたち って、あと僕と鈴木君じゃないか。
僕らに頼ったら困るぞ。
「そうだ、俺たちがいればな……。命拾いしたな、君たち」
急に鈴木君がでしゃばり始めた。
っていうか、「命拾いしたな」ってこういう時に使う言葉か……?
言いたかっただけだろう。
「ぐっ…………!」
「大丈夫だ、もうモンスターはいないぞ!」
瀕死の剣士を励ます、比較的元気な剣士。
スーパーゴブリンか……。
それなりの強さのザコモンスターだ。
一体なら大したことないのだろうが、それが結構な数襲いかかってきてしまったのだろう。
僕は明らかにおかしい数のモンスターをここに配置した覚えがないから、たまたまそうなってしまったのかもしれない。
「カインは……生きている……のか……?」
「ああ、お前の隣で……元気にしているぞ!」
「そうか……、良かった……! あいつに……よろしくな……」
瀕死の剣士は、そう言い残すと、意識を失った。
あまり元気じゃなさそうな剣士が、黙って瀕死の彼の手を握っている。
彼の名前が、カインなのだろう。
「あいつ」が誰なのか、僕には分からない。
でも残りの二人は、それが誰なのか分かっているようだった。
瀕死の剣士にとって、大切な人に違いない。
……今すぐにでもザコモンスターの出現を止めてやりたいくらいだ。
もう難易度が低すぎたっていいんじゃないのか?
僕が間接的に人を殺しているかもしれないなんて、そんな状況はもうたくさんだ。
コンピュータールームだとかで、適当に雲の上の者が世界を変え、地上では人が苦しんでいる。
その地上人を見て見ぬフリができたら、幸せなのかもしれない。
プレイヤーは死んでいき、僕はモンスターとヘラヘラしてればいいのかもしれない。
だが僕はプレイヤー上がりだ。
プレイヤーを見捨てるということはできない。
プレイヤーのことが分かるからという理由で僕はラスボスになったんだ。
切っても切り離せない関係だろう。
しかしプレイヤーのことを考えるということが、結果的に僕を苦しめているのである。
しかも僕は、前のラスボスよりもやっていることが残酷かもしれないのだ。
モンスターは幸せかもしれない。
単に紗彩さんたちは、モンスター天下の世界を作りたかったのか?
ユーリはそれを止めるために……?
「お前たち、最近の噂を知っているか……? 死んだら、この世界に復活できなくなるという話なんだが…………」
比較的元気な剣士はそう言った。
三人いる剣士の中で、喋るのは彼だけだ。
彼がこのパーティーの広報担当なのかもしれない。
……いや、そんな呑気なことを言っている場合ではなかった。
「……復活できなくなる……。何か、そういう噂だよね!! でも、死ななければいいんじゃない??」
xo魔梨亜oxが、魔法銃の手入れをしながら答えた。
……手入れという表現が合っているかは分からない。
僕は魔法銃に詳しくないからだ。
とりあえず、彼女はモンスターが来るのに備えて準備をしていた。
「そうも……いかないだろうよ。だから俺たちは、こいつを必死で守った……。何とか倒したが、次出てきたらもう終わりだろう」
「…………魔梨亜たちも、力になるよ??」
「いつからこのゲームは、こんな殺伐としたゲームになってしまったんだろうな……。俺たちは、ただ、楽しみたくてこのゲームをやってただけなんだよ。こんなゲーム、楽しめるはずないだろう?」
「そこまで深刻に考えなくても……」
「逆に、お前は楽観的に考えすぎなんじゃないか? どうやってこんな生きるか死ぬか分からないゲームを楽しくプレイすることができるんだ? こいつが現に今死にそうになってるんだぞ?」
「強い奴が勝つ、弱い奴が負ける……! ただそれだけのことじゃないかい?」
急に鈴木君が変なことを言い出した。
こいつはマジで空気が読めない。
……楽しみたくてこのゲームをプレイしていた、か……。
僕がこのゲームのラスボスとなった時から、このゲームは大きく変わってしまった。
「で、あなたたちはこれからどうするつもりなの??」
xo魔梨亜oxが剣士たちにそう話しかけた瞬間、僕の腕につけていたブレスレットのようなものが振動した。
…………?
これは……。
最近全くご無沙汰だったが、このブレスレットを操作すると空中にバーチャルな文字盤を浮かび上がらせることができるのだ。
手がどんな角度でも自分の目の前に画面のようなものを出すことができる。
ハイパーアルティメットキングドラゴンと戦った時に、勝手にその名前を表示していたものだ。
振動……しているということは、何かを受信しているのだ。
誰かから通信が来たということになる。
僕はそのままゆっくりと、そこらへんを探索するフリをしながら、彼らから離れる。
そして、彼らが完全に見えなくなった場所で、バーチャルな文字盤を空中に表示する。
そこには何もメッセージは来ていなかった。
……では、何で光っているんだ……?
あ、これは通話だ。
僕は友達がいなさすぎて通話機能を使ったことがなかったのだ。
しかし、これは出ていいものなのか……?
ブレスレットの振動は止まない。
通話ということは、何らかの急用なのだろう。
僕が適当にブレスレットに触れていると、急に振動が止まり、誰かの声が聞こえ始めた。
急いでそれを耳に当てる。
「ナツメグ様でございますかのう……?」
電話の向こうで、ややしゃがれた声。
ブレスレットで通話する際、腕をどのあたりにしておくのがいいかが全く掴めない。
声の発信もこちらの声を拾うのも同じ場所にあるからだ。
耳と口の間くらいにブレスレットを固定し、そこに話しかけた。
「はい。ナツメグですけど……」
「やっと繋がったのう……。もっと近くに来て頂かないと、分からないのですじゃ。そのまま上の階に……」
ですじゃ……?
一体何者なんだ……?
この爺さん(?)が上の階にいるのか。
ナツメグ様と言っていたな……。
ということは、モンスターなのだろう。
まさか、スーパーゴブリンか……?
いや、ザコモンスターは会話ができない。
となると、中ボス。
この月の塔の中ボスということか。
「ワシは、ザ・クレーターマン・ムーンじゃ」
「ザ・クレータームーンさん?」
「いや、ザ・クレーターマン・ムーンじゃ」
「ザ・クレーターマンムーンさんですね」
「いや、ザ・クレーターマン・ムーンじゃ。マンとムーンの間に、少しだけ間を空けて頂けると嬉しいのじゃが」
何だこいつは……?
本格的にヤバいやつだ。
「……で、そのクレーターさんが、僕に何の用ですか?」
「ワシの言うことが聞こえなかったかいのう? ワシは、ザ・クレーターマン・ムーンじゃ」
「すいませんでした……。ザ・クレーターマンさんは、何の用事でここにかけてきたんですか?」
「ザ・クレーターマン・ムーンだと言っておるじゃろう……」
全然話が進まない。
急用でかけてきたんじゃないのかよ……?
もうこれ切ってもいいんじゃないか。
実際、用事とかないんだろう。
「ナツメグ様のUFOを、こちらで預かっているのじゃが」
「…………え?」
「ナツメグ様のUFOじゃよ。もしかして、お主、ナツメグ様じゃなかったかのう?」
「いや、間違い電話じゃないです。これは電話なのか知らないですけど。僕のUFOです。そして僕はナツメグです」
「この塔の上で、ワシはさっきから待っておる。なるべく早く、取りにきてくれると良いのじゃが」
「……いや、なるべく早くって、あなたが勝手にUFOをパクったんじゃないか……。一体どういうつもりなんだ?」
何が起こっているのか全く分からない。
ただ、この老人っぽいモンスターが何かを知っているのは間違いなかった。
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