第7話 ブラジャーとオレ


(あれ、なんか、痛い……?)


 自室に入り、姿見の前でTシャツを脱ぐ。鏡には上半身裸の女子高生の姿が映った。

(相変わらずキレイな体だよなぁ)

 白い肌に細い腕、そして形の良い乳房……の頂の部分が少し赤くなっている。

(あぁ、そうか。そう言えば、ブラジャーを着けてなかったな)

 男と違って胸が膨らんでいる女性は、その分だけ着ているものとの摩擦が激しくなってしまう。

 綾乃の胸はそこまで大きくないが、かと言って決して小さくもない。評するならば美乳と言えるだろう。それを傷つけてしまった事に少し罪悪感を覚えた。だが……。

(いざ着けようとすると、かなりの抵抗があるんだよなぁ)

 一応、朝起きた時に着けようとはしたのだが、その抵抗感から逃げてしまい、結局そのまま直にTシャツをきてしまったのだった。

(ひどくなると出血もありえるらしいし、覚悟を決めるか)

 そんな決意の元、タンスから下着の上下と制服を取り出して、脱衣所へ向かう。

(っと、あぶね)

 部屋から出る寸前で上半身裸のままだった事を思い出し、慌ててTシャツを着なおす。

 ふと、こういう配慮が必要になるなら、男が家にいるのは色々と面倒だなと思えてきた。

(今日の夜には追い出すかな。あいつらウロウロしてると外聞も悪いし)

 これからの段取りを決めつつ、あまり胸を刺激しないようにシャワーを浴びる。

 脱衣所に出て、全身を拭き、髪を乾かし、いざとばかりに制服と下着に向き合う。

 そこで先ほどの決意が少しだけ揺らぐ。

 ――これは一線を越える行為だ。後戻りができなくなる。

 そんな考えが頭をよぎる。だが、俺も元・男。乳房を愛する気持ちはしっかりと持ち合わせている。

(ええい、やったるわいっ)

 勢いに任せて下着を手に取る。

(まずは、下だ。こっちは既に昨日の夜に経験済み。問題ない、はず……!)

 青いストライプ生地の小さな布に両足を通し、ぐいと引き上げる。

(う、うう……これは……)

 股の部分をピッタリと覆い隠す感触が、凄まじい違和感と言い知れぬ背徳感を俺の心に刻んでいく。俺の中で何かが音を立てて壊れていくような気がした。

(くっ、負けねえ。本命の……上だ!)

 下着の時点での思わぬダメージに戸惑いながら、問題のブラジャーを手に取る。

 その形状と昨日身につけていた経験から、カップに胸にあてがい、ホック部分を後ろ手に回す。だが――。

「なん……だと……!?」

(届かない――!?)

 背中に回した両手が、ホックの爪と引っ掛けが、絶妙に届かないのだ。

(いったい、綾乃はどうやってこれを着けていたんだ?)

 混乱する頭で解を探すが、一向に辿り付ける気がしない。他人のを外した経験はあるが、今はその知識も役には立たない。

(やむを得ない、か)

 俺は覚悟を決め、肩の関節を無理やりずらす。

「つっ――!!」

 激痛を耐え、腕の可動域の限界を超えてホックを留める。

 すぐさま関節を元に戻すが、鈍い痛みが残っていた。

(たかが下着をつけるのに、ここまでしなくちゃならないのか!?)

 間接外しなど、敵に捕まって拘束された時くらいしか使わないものだと思っていたが、まさか女子高生の生活で必要になるとは思ってもいなかった。

 あまりの動揺に、いつも行っている事を思わず忘れてしまった程だ。

「姐さん! どうしやした!?」

 脱衣所に飛び込んでくる巨漢。俺の苦痛の声を聞きつけたのだろう。

 だが、よっぽど近くにいて聞き耳を立てでもしていない限り、このタイミングでは飛び込んで来れまい。周囲の警戒が甘かったようだ。

 下着姿の俺を凝視している巨漢に向けて、俺は速やかに行動を起こす。右足を思い切り垂直に振り上げた。その軌道上にはもちろん巨漢の股間がある。

「あぐぁ!?!?」

 俺のシュートがキレイに決まり、巨漢の意識がゴールしたのを確認すると、俺は気絶しているそいつの横で残っていた制服に着替え、自室へと戻った。

(まあ、こいつらを追い出す良い口実ができたな)

 下着姿を見られたのは癪だったが、今後についての思わぬ収穫となったので良しとした。


「えーと、これと、これと、これ……と」

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