第6話 反省とオレ


(うーん。またちょっと考えないとだな)


 帰る道すがら、俺は今後の事について改めて考える。

 反省すべき点がいくつかあった――まず「口調」だ。

 斉藤のおっさんたちにも驚かれたが、俺と綾乃の口調は、当たり前だがまったく違う。

 あいつは少し大人びた喋り方をしていたが、それでも俺みたいなおっさんとは雲泥の差だ。

 幸いにも真似をするのは苦にならない喋り方だったから、先生相手にもそこまで違和感なく喋れたと思う。

(自分が女だと意識して喋るのは、凄い違和感があるけどな……)

 まあ、どうせ女子高生として生きていくなら必須の事なので、今のうちから慣れていくべきだろう。

 そして、もう一つの反省点は「言い訳」だ。

 入学式から今まで不登校だった理由を考えておくべきだった。

 話の流れとして、先生には「どうやって借金問題を解決したのか」を語る必要があるだろうから、それを元にした言い訳を考えておいて、誰にでも説明できるようにしておきたい。

 一介の女子高生が力づくでヤクザを返り討ちにした後、論理的な説得(刃物付き)でお引取りいただいた――。

(というのは、まあ無理があるから、変えるとして……)

 あと、母親である霧島冬実を助ける気が全くない事については、事情さえ説明すれば問題ないだろう。

 さすがに、自分を借金のカタに売り飛ばそうとした母に「情を持て」というのは無理な話だ。――故にその事実を利用しない手はない。

 シナリオとしてはこうだ。

 まず、母が自分の借金返済のために娘である自分をヤクザに売ろうとする。

 しかし幸いにも相手方が理解ある人だったおかげで難を逃れることができ、自分は母の借金とは無関係になれた。だが母が債権者である事に変化はないので、引き続きヤクザに追われている。

 そして自分を売ろうとした母に、綾乃は親としての情は持てなくなったので、彼女がどうなろうと知ったことじゃないし、はやくヤクザに捕まれば良いと思っている。

(うん。悪くないんじゃないか?

 話の筋は通っているし、手元には斉藤のオッサンの名刺もある。最悪の場合はそれを使えばなんとかなるだろう。たぶん)

 今まで大体の事は何とかしてきたが、最悪、物理的にどうにかしていた。

 今、そのツケが回ってきている気がする。

(これじゃまるで前の俺が脳筋みたいじゃないか……)

 そんな事を考えているうちに家にたどり着いた。

 短パンのポケットに入れていた鍵を取り出し、玄関の戸を開ける。

「姐さん、おかえりなさいやし」

 番犬よろしく巨漢が俺を出迎える。

 外の人間に見られたら間違いなく誤解されそうな構図だが……丁度良い。ノッてみよう。

「ただいま戻りました。お勤めご苦労様です」

 良い練習相手になるかと思い、外面100%で挨拶を返してみる。

 ――さて、どんな反応をするだろうか。

「っ!? す、すいやせん。お、俺、何かしましたか……?」

 ――なぜか必死に謝られた。

「いきなり畏まって、どうされました? 何もされていませんよ?」

 できるだけ優しい声を意識して語りかけるが、巨漢はますます怯えて、泣きそうになっている。

「ヒィイ、ごめんなさい。ごめんなさい」

 ごついオッサンが小動物のように震えながら謝り倒すその姿は、何とも情けないものだった。

「はぁ……いちいち怯えてんじゃねえよ。せっかくサービス対応してやったのによ」

 俺はため息を一つ吐いてから、口調を元に戻す。

「サ、サービスっすか? でも、俺、カッコイイ姐さんの方がすきっす!」

「あぁ、そうかい。ありがとよ」

 頬を赤らめながら告白されたのを適当に流し、自分の部屋へと向かう。

(もう、こいつらに対して外面を使うのはやめよう)

 そんなどうでもいい誓いを胸に抱きながら――と、胸に手を当てた時。


(あれ、なんか、痛い……?)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る