魔王の右腕

松竹梅

序章 

第1話プロローグ

 魔王。それは至高の魔族。圧倒的な魔力とカリスマを有する最強の存在。すなわち、魔王とは世襲ではなく当代最強の魔族が名乗る称号である。

 そんな恐ろしく強い歴代魔王だが、強者故に驕り高ぶり、人間達や狡賢い部下に出し抜かれることも多々あった。実際に勇者という特異個体に殺された魔王もいたらしい。

 だが、ある魔王の配下にあって強いだけではなく異常なほど頭の回る魔族がいた。その魔族は魔王に次ぐ実力を有し、高い統率力で兵を指揮し、力のみに頼らず策略を以て人類を打ち破った。その魔族は宰相位に就き、魔王による世界征服を支えた功労者として後の世に魔王に並ぶ程の賞賛と悪名を残すこととなる。




 イーフェルン大陸、ダーヴィフェルト王国辺境のマンセル村は穏やかな気候と肥沃な土地に支えられた農耕が盛んな王の直轄領であった。

 王国と魔王領の接する位置にある村だったが、とある理由から魔族に襲われることはなかった。その理由とは、村の外れに住み着いた白きドラゴンである。

 高い知能と強靭な肉体を有し、空を飛び火を吐くドラゴンは最強の生命体の一柱である。魔王ですら警戒せずにはいられない、と言えばその強さが伝わるだろう。いつから住み着いたかは定かではないが、その存在によって村の安全は保たれて来た。

 また、そのドラゴンは人との交流を好み、村の皆を愛していた。村人も感謝の意を込めて毎年ドラゴンの棲む洞窟まで村人総出で実りの一部を献上しに行く収穫祭が催した。村人は顔を見たこともない王様よりも、美しく、雄々しいドラゴンを何よりも敬愛していた。そしてドラゴンの存在は本人(?)の願いによって伏せられ、村人のみ知る秘密となっていた。

 ドラゴンの加護によって、王国成立以前より長きにわたってマンセル村が魔族の脅威に曝されることはなかったのである。

 王国歴214年、村にとっての転機が訪れる。その事件について、ダーヴィフェルト王国正史にはたったの一行[勇者、辺境にて悪竜を討伐せり]とのみ書かれている。一見すると勇者の偉業を讃えるだけの記述である。しかし、マンセル村の実情を鑑みれば、かの村の者達にとってどれほどの事件であったのか想像に難くないだろう。そして、この事件が恐ろしき魔王の右腕を生み出した事実を知る者はほとんどいないのだ。

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