晴山真一

 あれは広樹が大学で論文の資料をまとめるため研究室でパソコンに向かっている時だった。年明け早々、外は寒く、朝から雪がちらついていて室内の空調がとても心地よく、連日の研究の疲れからか広樹は珍しく画面の前でうつらうつらとしていた。その時だった、聞きなれた音が耳に飛び込んでくる。携帯電話の着信音だ。広樹ははっとなり画面の隣に置いてあった携帯電話を手に取ると画面を見る。相手は母親からだ。

「はい、もしもし。」

「広樹!!」

研究室の静けさとは裏腹に、どうやら電話の向こう側は騒がしい。

「どうしよう!早く!ねえお願い早く!もうだめかもしれないの!」

母親は取り乱しているらしい。

「母さん?どうしたの。何かあったの?」

「ねえ、どうにかしてよ!真一は…。もう…いや!」

意味が分からなかったがただ事ではないことは分かった。

「母さん落ち着いて!どうしたの?分からないよ。」

「真一が…真一が…死んじゃう!!」

「え?」

今度は広樹の頭の中の思考回路が停止した。

「母さん…どういうこと?」

「真一が…学校の屋上から……。」

そこから母親は泣いてしまい何も言えなくなってしまった。

「母さん!今どこ?すぐに行くよ!」

「大学…病院…。」

それを聞いた時広樹の思考回路は一気に動き始めた。

「大学…病院…。時雨と一緒だ…。」

広樹は悪い予感しかしなかった。

 広樹は寒空の中走った。大学病院とはまさに広樹の通う大学の大学病院のことだった。そう言えば少し前に救急車の音が聞こえていたが、日常茶飯事のことなのでそれがまさか自分の弟が運ばれてきた合図だとは思いもしなかった。広樹が病院の待合室に行くと、テレビ画面の前、あの時は広樹が居た位置と同じ場所に居たのは今度は公一郎だった。それをお互いが確認すると、広樹は走って公一郎に近づく。

「おい!真一は!真一は!」

すると公一郎は今までに見せたことのないような冷静な表情を広樹にちらっと見せる。

「広樹、ここは学校じゃないんだろ。」

すると広樹は気が付いたのか、息を整えて自分を落ち着かせる。

「公一郎…真一は…真一は…。」

公一郎は顔こそ逸らさないものの、その表情は最悪の事態を物語っていた。

「真一、時雨と同じ部屋に居る。」

その言葉が何を指しているのか広樹には直ぐに分かり、広樹はそこにあった椅子に座り込んでしまった。

 その時点では真一は自ら飛び降りたということになっていたが、その後の調べで真一のクラスメートが屋上から真一を無理やり突き落としたのではないかと言う疑惑も上がったがその証拠もなく、学校側が全否定し、担任までも自殺の兆候があったのだと言い始めたため、この一件は真一がいじめられる苦しさから逃れるために学校の屋上から飛び降りたのだということで収束したが、広樹はずっと真一は自殺したのではないと見ていた。しかし収束してしまった以上それは自分で調べるしかなかった。

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