三日目
ガタンゴトンと聞き覚えのある音で目が覚める。
もう十二時か。
ここまで寝たのも久し振りだ。
「おはよう」
朝御飯、もとい昼御飯を食べている男が言った。
「君の分はそこにあるから」
指差した先にはいつものおにぎりと缶詰め。私はそれに手をつける。
食べ始めてすぐ気が付く。
男の傍らに見覚えのあるスクラップブックが置いてあった。
「これかい? 床に転がってたから読ませてもらったよ」
こいつは床にあるだけで勝手に読むのか。
「にしても、ここの『元』駅長は物騒だね」
男は元を強調して言う。
「鉈で人の頭を割るなんてね。しかも他に何人も殺してる。そんな事すれば駅も閉まるよね」
私は男を睨み付ける。
「おっと。 そんな怖い顔しないでおくれよ。 君の名付け親を悪く言ったのは謝るから」
こいつは人を馬鹿にしてるのか。
「まあまあ、ご飯でも食べて落ち着いて」
こんな奴の飯など食えるか。
男との睨み合いが続く。
先に動いたのは男だった。
食べ終えた缶を片付け絵の方に向かう。
鞄を漁り赤い絵の具を取り出していた。
私は散歩に出かけた。
時間が過ぎ辺りは暗くなる。
男が寝る時間を見計らい駅に戻る。
案の定、気楽そうに寝ていやがった。
私もいつものベンチで寝る事にする。
急な痛みで目を覚ます。
目の前には男の姿。手にはカッターナイフ。
起き上がろうとするが上手くいかない。
理解した。この男に足を切られたのだ。
「おはよう」
いつもの調子で言う。
「ごめんね。 今日の朝御飯は無いんだ」
ベンチから床に落ちる。
「それにしてもビックリしたよ。僕を殺した子が僕と同じ状態だなんて」
僕を殺した?
「あれ? まだ気がついてない? 僕だよ僕」
首を掴まれる。
「君が殺して名付け親が犯人になったときの」
持ち上げられる。
「君が邪魔しなければもっと殺せたのに」
線路の方に歩いていく。
「でも君がまだここにいてくれて、ありがたかったよ」
ガタンゴトンと音がする。
「はいばい」
投げられる。
地面につく前に電車に跳ねられる。
私の体は飛んでいき、森の中に落ちる。
私の意識は暗転する。
のも束の間、起き上がる。
私は自分の手を見る。
いつかぶりの人の手だ。グーとパーを繰り返す。
ちゃんと動く。
私は立ち上がる。
久し振りの体なのに思う通りに動く。
足元を見ると、元は真っ白だったであろう猫の死骸があった。今は赤く染まり骨も折れてしまっている。
何度も見ると慣れてしまう。
眺めていると死骸は灰になって消えた。
さて、そろそろ行こうか。
私は駅に向かった。
私は森の中を回り男が絵を描いていた場所の方にいる。
駅につくと男は線路の方で伸びをしていた。
駅から必要なものだけ持って行こう。
私は忍び歩きで駅に近づく。
男の描いた絵が目に入る。
そこには赤く染まった駅が描かれていた。
まるであの時の、あいつが皆を殺した時のようだった。
ああ、殺そう。あいつは駄目だ。
駅の入り口にいつからか放置されてる鉈があった。
後ろから静かに近づく。
男はラジオ体操をしている。
大丈夫だ。気がつかれてない。
私は鉈を振り上げ、降り下ろす。
その時、男が振り返り、笑った。
降り下ろされた鉈は止まらず男の頭に刺さる。
男は倒れた。
最後まで気味の悪い男だった。
ニャー
と、後ろから猫の鳴き声。
振り返ると黒猫が座っていた。
思わず顔が引きつる。
黒猫は笑っているように見える。
私は落ちてる鉈を拾い上げる。
男の死体が無いのは気にしない。
「来ないで」
久し振りに声を出した。
私の声ってこんなだったっけ?
黒猫は振り返り何処かへ去っていく。
私はその場にへたり込む。
またやってしまった。
何年、何十年ぶりかの人殺し。
あの時助けてくれたあの人はもういない。
私はこれからどうすればいいのだろう。
無人駅 桜 導仮 @touka319
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