第15話 魔女と宇宙人とCGと
隊長のソーサに戻って、監視システムを再生する。この建物の周りの立体映像が十分の一サイズで玄関ホールに表示される。
「うわぁ」
その様子に感動したのはカナンさん。CGの精度で技術の差が理解できるんだ。
そのカナンさんが家に来たのは三時二十五分。
エリカさんが帰ってきたのが四時二分。
エリカさんは、わたしが落ち込んでいると勘違いして、カナンさん(エリカさんにとってはわたし)の前に立ったり、しゃがみこんだりしながら六分間も話しかけてくれて、やがて、カナンさんの横に腰掛ける。やさしくいたわるように、わたし(カナンさん)の肩に手を掛けようとして、手がカナンさんの身体をすり抜けたときに、やっと気がついて家の中へ入るのが四時九分。
エリカさんのやさしい慰めの言葉は聞いてみたいけれど、今は残念ながら、ほかに目的があるので早回し再生を続ける。
それからしばらく来訪者はなく、カナンさんがひとりで座っているだけ。目も見えない状態で、ずっと待ってくれていたんだ。
そうして四時二十三分、阿久根さんがやってきて、カナンさんの前で立ち止まる。そこから再生速度を一分の一に戻して、音声も再生した。
『催馬楽?』
阿久根さんが、門の外から家に向かって声を掛ける。
その位置からはまだ、バラが邪魔でカナンさんは見えていない。阿久根さんは、周囲の家(特に園田さんの家)を気にして見回しつつ、誰も見ていないのを確かめて、門を開けて庭に入ってくる。
半分くらいまで進むと、玄関前に座っている人影に気がつき、歩みが慎重になる。
やがて、座っているのがわたしだということを確認し(ほんとうはカナンさんなんだけど)二メートルくらいのところまで歩み寄って話しかける。
『よかった、催馬楽。待っていてくれたのか?』
返事はない。カナンさんは自分だけの世界にこもっていて、時折、自分の手のひらを見るそぶりをしたり、周囲を振り返るしぐさをしたり、自分のひざに眼を落としたりして、止まってはいない。
『実は、さっき呼び出しがあって、今日の時間通信が早まったんだ。もうすぐ始まってしまう。今から案内するからいっしょに来てくれないか?』
悪い予感が当たっていた。
カナンさんには声も阿久根さんの唇の動きも届いていないから、なにも返事がない。阿久根さんを無視して、座ったままだ。
『どうした? 来てくれないのか? 約束してくれたじゃないか。わたしを納得させてくれるんだろう?』
カナンさんは自分の手の動きを目で追っている。両手でお手玉をするようなしぐさをしながら。
『きみに言われたことを、あれから考えてみたんだ。決定的なことはないけれど、たしかにきみが言うことのほうがつじつまが合う。今日、わたしも未来人を問い詰めてみようと思う。きみひとりにやらせないから、サポートしてくれるだけでもいい』
反応がないので、阿久根さんも興奮してきたようだ。
『未来人が実は宇宙人だってことを証明するって言ったじゃないか。うそだったのか? さあ、いっしょに来てくれ』
その、最悪のタイミングで、カナンさんは、庭を見渡すように、首を左右に振った。今その映像をわたしといっしょに見ているカナンさんが、息を呑むのが聞えた。
阿久根さんは、そのしぐさを見て、拒絶と受取ってしまった。
『ちくしょう! やっぱり、インベーダーだったんだな! 信じかけていたのに!』
阿久根さんは走って出て行ってしまった。
わたしは、再生を止めた。
「ごめんなさい。わたしのせいね!」
カナンさんは泣き出しそうだ。
「いいえ、わたしが悪いの。あなたに待ち合わせの時間をうまく伝えられなかったのはわたし。あなたが観測できない場所を待ち合わせ場所に選んだのもわたし。あなたをちゃんと理解していなかったわたしが悪い」
そうだ、これはわたしの責任だ。
行かなくちゃ。約束したんだから。
阿久根さんはひとりででも『未来人』を問い詰めるかもしれないわ。そんなことをしたら、彼の身が危険に晒される。
問題は、そう、阿久根さんが時間通信をする場所をわたしが知らないということ。そして、過ぎてしまった時間。
「カナンさん、ごめんなさいね。急な用事ができちゃったから、今日はこれで帰って。新しい身体に慣れるまで気をつけてね」
「いいえ、恵さん。わたしもなにか力になれるかもしれない。手伝うわ」
「これは危険なの。だめよ」
「危険って、わたし、この身体に何されたって死んだりしないわよ。世界じゅうの一千万台のパソコンが全滅でもしないかぎり」
カナンさんは、どういう状況か良く知らないままに、わたしに協力してくれようとしている。
そうして、エリカさんも歩み出た。
「簡単に死なないのは、ここにもいるわよ。連れて行きなさいな。恵・お・ね・え・さ・ま」
ふたりの申し出は、とってもうれしい。『未来人』と戦うことになったとき、わたしは全力で戦うわけにはいかない。ビレキア星の関与を晒さないようにしなければならないという制約に縛られているから。でも、ふたりの力は、まあ、普通ではないにしろ、地球製ってことになるから、問題が回避できる。
大きく頷いて、ふたりを見ると、二人も力強く頷いてくれた。
まずは、阿久根さんの行方を追わなきゃ。
コマンドソーサーとの遠隔リンクをつないだまま、ふたりといっしょに家を出た。監視システムが記録していたのは、洋館の周囲百メートルほどの範囲でしかない。その範囲での記録によると、阿久根さんは学校の方へ向かっている。
通学路を進んでいく。百メートル地点には、例の隆とわたしが話した公園がある。ここまでが通常の監視システムの範囲。ここから先は、監視システムの記録にはないから、なにかの痕跡を追わなくちゃいけない。なにか阿久根さん特有の反応を見つけて追わなくちゃ。
そうだ、あの頭の装置。ビレキアの催眠波動を防ぐあの装置は、阿久根さんたちしかしていない。しかも、阿久根さんが学校に被ってきている新型なら、ひょっとしたら阿久根さんだけかも。あの装置が駆動した痕跡が観測できたら、阿久根さんの動きを追えるかもしれない。
右手を地面にかざして、キーワードを唱える。
「センサー起動。阿久根さんのヘルメットの駆動痕跡を視覚化」
右手の薬指から円錐状に地面にむかって青い光が発せられ、その円錐の範囲内で、阿久根さんが進んでいった方向に、黄色いリボンのような痕跡がつづいていくのが見える。 やった。これを追っていけば、阿久根さんを追跡できる。
あたりは暗くなりはじめていて、人影もまばら。もしもそうでなかったら、わたしとカナンさんは目立ちすぎる。だけど、薄暗がりのおかげで、高校の制服を着た女の子が3人、懐中電灯を持って小走りしているようにしか見えてないはず。
「車には乗ってないわ。阿久根さんは徒歩で移動してる。追っていけそう」
「恵、気がついてる? つけてきてるわ」
エリカさんが耳元でささやいた。
え? 誰? 阿久根さんの仲間?
わたしは振り返らずに進みながら、後方に注意を向けた。
「後方センサー起動。映像を視覚の一部に投影。望遠。明度調整」
キーワードを小さく口の中で唱えると、脳裏に自分の後方の様子が小さなウィンドウで画像表示される。望遠にして、暗がりを明るく調整すると、わたしたち三人をつけてくる人物が見えた。
「隆?!」
エリカさんも小さく頷く。
隆が心配してついてきているんだ。多分、今夜の、わたしと阿久根との約束っていうのが気になって、自宅からわたしの様子をうかがっていたんだわ。
「後方センサー、アラームモードに移行。映像投影中止。剣崎隆をマーク。彼に異常が生じたり、危険が及んだら脳内アラームを鳴らして」
設定をこうしておけば、隆になにかあったら、わたしの頭の中でアラームが鳴り響くから大丈夫。
ビレキア星の兵士は、身体に無数の超小型チップを埋め込んでいる。だから、装備をなにも身につけたり持ったりしていないように見えても、今のわたしのように、必要な装備をコマンドや仕草で呼び出して使うことができる。
チップはあまりにも小型なので、地球人の科学程度の探知機じゃあ発見はできないし、命令しないかぎり起動しない。
わたしは今も、最前線で白兵戦が行なえるほどの武器のチップも身につけている。でも、それらのすべてを起動するには権限が足りない。わたしがチップをフル稼働で活用して戦闘するには、隊長の承認コードが必要なの。でも、今、隊長は木星軌道に出かけていて地球上にいない。
わたしは戦闘に関しては、限られた能力しか発揮できないということになる。しかし、センサー類はほとんどフルに活用できる。今、阿久根さんを追っているセンサーや、後方の隆さんをマークするセンサーも、わたしの権限で起動できる機能。
阿久根さんは、通学路の踏み切りの前で右にまがっている。毎朝、由梨香がやってくる方向。
こっちは駅前の繁華街。人の流れが多くなり、明かりも多くなる。大きな商店街ではないが、小売り店舗も多くなる。電気屋さんの前を通ると、カナンさんのプロモーションビデオが大画面に映し出されているところだった。
すれ違う人の中には、わたしたちに気がついて振り向く人もいるが、とにかく早足で進む。黄色い光のリボンは、まだ続いている。
光が曲がって路地に入った。そして、もう一度曲がる。でも、そこは路地じゃない。見上げるとそこは、閉館になった古いタイプの映画館の入り口の前だった。両側のバーの明かりは点いていたけれど、映画館の前はもう、暗くなっている。
扉を見ると、鍵がかかっていた。鍵穴があって、おそらく内側にはサムターン。鍵かサムターンをまわすと扉から金属のバーが延びて、柱側の穴に突き刺さるタイプの鍵だ。
後ろから付いて来ている隆の安全を考えたら、この鍵は壊さずに開けて、中から閉めるべきなんだろうけれど、地球製の鍵の開錠キットなんていうのはない。電子錠ならなんとかなったのだろうけど。
レーザーで金属バーを切ってしまうのは簡単だけれどそれでは、鍵が閉められなくなって、後から来る隆が中までついてきてしまう。
「中でしょ。開けないの?」
エリカさんが言った。
「壊しちゃったら、あとからくる隆も入っちゃうわ」
わたしが言うと、エリカさんは魔法を使おうとしたようなんだけど、先にカナンさんが動いた。
「わたしにまかせて」
左右を見て、人目がないのを確かめて(もっとも、隆は遠くから見ているんだろうけど)、彼女はするりと扉をすり抜けて中に入った。知らない人が見たら、幽霊が扉をすり抜けていったようにしか見えない。
すぐに、サムターンがまわる音がして、扉が開いた。内側では、カナンさんが得意げに笑っていた。
「わたしは絶対、どろぼうさんになっちゃダメね。反則だわ」
あたりの視線を気にしながら中に入って、サムターンを回して鍵を閉める。隆が無茶しなきゃいいんだけど。
中には非常灯以外の明かりがない。ロビーに人の気配はなく、売店のショウケースにはなにも入っていない。
おそらく、閉館になる直前に上映されていたと思われる映画のポスターが張りっぱなしになっている。スプラッターホラーのようだけれど、ゾンビの美女が口から血を滴らせながら、人を食べるというストーリーらしい。いやなネタやってるわね。どうせ、地球人にとってビレキア人はホラーのモンスターでしょうよ。
気を取り直して、先へ進む。
正面に劇場の入り口になる両開きのドア。左右に通路があり、通路の突き当たりは劇場横に続いている。トイレと横の入り口があるみたい。また、つきあたりにはそれぞれ上への階段がある。二階席があるんだわ。
わたしは唇に指を一本立てて、ふたりにしゃべらないようにと伝え、その指で、『わたし一人で正面から入るから、二人は上へ回って』と合図した。二人は頷いて、左の階段に向かった。
正面の扉には鍵がかかっていなかった。
ゆっくりと引くと、油切れの蝶番が、大きな摩擦音をたてた。場内にその音が響き渡った。中は、上映時のように、数個の明かりだけがついてほとんど真っ暗だった。一階席は三百席ほどだった。ゆるやかな傾斜があり、正面のステージの奥に、ぼんやりと白く光るスクリーンがあった。
客席には誰もいない。
中央の通路を、用心深く前へ進む。二階席のせり出しは、一階の三分の一ほどまでだった。一階席の真ん中まで進んで、ちらりと振り返ると、二階席の両端にエリカさんとカナンさんの姿が見えた。扉の音はしなかったから、カナンさんはもちろんだけれど、エリカさんも魔法ですり抜けたのかもしれない。
とにかく、わたしが入ってることは、相手にどうせ知れているはずだった。わたしは声を出した。
「誰かいますか? 阿久根さん? 恵です」
あたりはシーンとして人の気配がない。
センサーでスキャンするべきだろうか。まだ、今なら、ただの女子高生ってことで通せるかもしれない。阿久根さんには、宇宙人だと名乗ったけれど、阿久根さんの仲間にとっては……だめね。あの夜襲撃で、エリカさんにコテンパンにやられた人たちにとって、わたしがただの女子高生のはずがないか。
センサーを起動しようとしたとき、舞台のそでから、人が出てきた。
「阿久根はもう、われわれのリーダーではない」
その、背が高くて筋肉質の黒服の男はそう言った。頭には、旧型のヘルメットを被っている。
見たことがない男だ。そもそも、見たことがある男達は、エリカさんが病院送りにしてしまったはずだから、ここにいるのは、見たことがないやつばかりのはずで、人数も不明だけれど。
筋肉質の男に続いて、ふたりの黒服と、ふたりにかかえられてぐったりした阿久根さんが出てきた。阿久根さんは血だらけだ。ふたりは旧式のヘルメットを被っていて、阿久根さんは新式のヘルメットを被ったままだ。
「阿久根さん!」
わたしの声に、彼が弱々しく顔をあげてこちらを見た。
「……催馬楽……」
「阿久根さん、ごめんなさい。あなたが家に来たとき、玄関前にいたのはわたしじゃなかったの。わたしはそのころ、まだ学校に居たのよ」
阿久根さんは、痛々しい笑顔を見せて、また、ぐったりとうなだれてしまった。
「ひどいことをするわね! 仲間なんじゃないの!?」
「彼が被っている催眠波動遮断ヘルメットは不良品だったのだ。彼はすでにおまえたちに洗脳されてしまっている。偉大なる『未来人』に逆らおうとした上、時間通信の環境を破壊してしまおうとしたのだ。おまえたちインベーダーの手先だ。だから、こうして拘束したのだ」
この男は、阿久根さんのように説得可能な相手かしら? 何か様子がおかしいわ。あまりにも狂信的で。
「わたしはインベーダーなんかじゃないわ」
「うるさい! その、ありえない姿と、われわれのアタックチームを攻撃した力が、インベーダーの証拠だ!」
そのとき、一階席の左側の通路に、二階席からカナンさんが舞い降りた。物理法則を無視して、放物線を描くでもなく、等速でまっすぐに着地したの。
「彼女はわたしのオリジナルモデルになった地球人よ。わたしを知ってるでしょう? CGアイドルのカナン」
カナンさんは、その場で、ブレザーの制服から歌番組で着た衣装に切り替えて見せた。
さらに、一階席の右側の通路に、二階席からエリカさんが舞い降りた。こちらも物理法則なんか知ったことじゃないという様子で、ゆっくりと着地した。
「そして、あんたたちのアタックチームとやらを懲らしめたのはわたし。わたしは地球の魔族よ。宇宙人なんかじゃない」
エリカさんは手のひらの上に、紫の炎を起こしてみせた。あの夜の炎の色だ。
筋肉質の男は、わたしたち三人を交互に見比べ、眉をしかめて頭をかかえた。
「うう……ううう。頭が痛い」
悩んでいるにしては、様子がおかしい。やはりなにかあるんだ。
劇場のスピーカーを通じて、低い男の声が響いた。
『惑わされるな! そいつらは、みんなインベーダーだ』
それと同時に、スクリーンに男のシルエットが浮かび上がった。ずいぶん安っぽい『時間通信』ね。
「やっと『未来人』さんのお出ましというわけね」
筋肉質男は頭痛から回復したみたい。わたしに、髭剃り機型の陽子銃の銃口を向けている。
「『未来人』さん、この人たちに何をしたの?」
『ははははは。阿久根の反乱で、疑問を抱いたやつらが多数出てしまってね』
「ヘルメットになにか仕組んだの?」
『わたしの存在に疑問を抱かぬように、自分で記憶を修正しているだけだ。おまえがやっていることと同じではないか?』
あらかじめ、技術提供するときに、わからないようにそういう機能を組み込んでおいたわけね。阿久根さんのヘルメットは高校に転入するために小型化してしまって、その機能が失われたということなんだ。
シルエットに動きはない。あのシルエットは、まったくのダミーだわ。そもそも、光源がどこにあるにしろ、平面のスクリーンに映ったら、人の形は偏平するはずなのにそれがない。あのシルエットの元となる立体がスクリーンに接するほど近くに立っているか、光源が太陽光のように水平にスクリーンに光を当てているか。もしくは、そもそもシルエットの元になるモノなどないか。
『CGと、魔族か。魔族というのはわからんが、AI技術を使用したCGの姿を先に取り入れるとは、よっぽどの情報通か、さもなくば、おまえが未来予測に長けたビレキア星人なのかだな』
ぎくり。いきなり正解ですか? うちって、そんなにバレバレなのかなあ。
「あ~ら、適当に星の名前を並べていたら、明日の朝までにはお互い正解を一度は言うことになるでしょうね」
我ながら苦しいごまかしだわ。
『何を言うか。わたしは未来から、この時代の危機を救うために指導してやっているだけだ。わたしは地球人だ』
旧式ヘルメットを被った男達が、夢遊病者のように頷いていた。この話に納得してしまっているのね。
『わたしは、この海を、侵略者の手から守るために時間を越えて……』
「海?! 語るに落ちたわね!」
『ぬぁにぃ!!』
動揺が声に出ている。もう一押し。
「翻訳機の誤訳に気がつかないの? あなた。その翻訳機は、あなたの星をさとられないためによその星の技術を使ったのね。本来、『大地』と訳すべきところを『海』と訳したのよ」
地球の言葉にもある。【アース】は自分たちの住む場所。地面と星をあらわす言葉が同じになる。これは、天文学が進歩して宇宙の姿を知るまで、自分たちが住む世界を限定的にとらえてしまう知的生命体共通の現象。その言葉を翻訳機にかけると、普通なら自分が住む場所を表す言葉に翻訳される。しかし、翻訳機の製作者と使用者の住む領域が異なっていれば、誤訳が生まれる。
「あなたは水棲生物ね! グーラフェ? いいえ、グーラフェ星人なら人型だから地球人に化けるわよね、こんなことせずに。それなら、絶対に地球人に化けられない、球形のフェビラノ星人?!」
返事がない。静かになった。図星だったようね。
「どうしたの? 言い当てられて反論できなくなった?」
『それがどうした。この密室で、お互いの正体を推理しあったところで、どちらの腹も痛まない。地球人の手で、正体を連盟に暴露されるか、一方的に証拠をつかまれれば別だが、ズルをしている同士で正体をつかみあっても、自分の罪を連盟に懺悔しないかぎり、相手のことを告発できない』
そうよ。それはお互い様。
「でも、ほら。あなたを『未来人』だと信じる地球人を減らすことはできたようだわ」
旧式ヘルメットの男達は、また、頭を抱えていた。阿久根さんは、試合直後のボロボロのボクサーのような顔のくせに、くしゃくしゃに笑っていた。
あなたとの約束を果たせたわね、わたし。
【B 作戦的勝利】達成だわ。
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