第9話 説得で納得?
昼休み。本当は、生徒が立ち入ることを禁じられている屋上に、阿久根を誘った。
彼は、警戒しながらも付いて来た。つまるところ、単なるインベンダー退治に来たわけではなく、情報収集が目的なんだわ。だから老け顔の生徒に化けてまで近づいてきたってことね。
教室を出ると、数メートル離れて隆がついて来る。
「待ってて、隆。あなたには放課後ちゃんと話すから」
「聞かれたくないなら、離れて待ってるよ。でもきみらが学校で争いを始めないように、見張っていたいんだ」
昼休み時間は限られていて、ここで隆と口論している時間はない。結局、隆には、屋上への出口のドアのところで待ってもらうことにした。なにか起きたりしないかぎり、屋上へは出て来ないっていう約束で。
阿久根とエリカさんとわたしは、屋上の中央あたりで立って話すことにした。手すりからは最短でも十メートルくらいある。下の校庭から見えない位置に立ったからだ。隆が待っているドアとは二十メートル離れている。ひそひそ話せば聞えない距離だ。
わたしと阿久根が向き合い、エリカさんはななめ四十五度でわたしの右横やや後ろにいる。ちょっとだけ傍観者モードらしい。阿久根と向き合うと、おそらく160センチくらいしかない彼は、わたしより頭半分くらい低いので、わたしが見下ろすことになって心証悪そうになる。それが気になったので、あごを引いて、やや上目遣いになるように彼を見るようにした。
「まずね、知ってもらいたいのは、阿久根さんたちに技術提供したりわたしたちが宇宙人だって言ってる人物も、宇宙人だっていうこと」
「何の話かと思えば」
彼は軽蔑するように笑った。
「『宇宙人』よ。わたしもその人も。でも『インベーダー』ではないの。侵略なんてしないの」
「周辺の住民の記憶を操作して、かってに住みついて。すでに侵略じゃないか」
「それは、地球に溶け込んで、情報収集や交流の起点になるためよ」
まあまあ嘘ではないけれど……胸がちくちくしないではない。うちの場合、多分食べるのが最終目的なんだから……。
「そもそも、おまえたちが住民の記憶操作を行なっていることを発見したのは我々だ。だれかにおまえたちがインベーダーだと教えられたわけじゃない。わたしが組織のリーダーだ、誰もわたしに命令できるものはいない。どこの政府にも属さない独立した組織なんだから。我々の力でインベーダーを見つけ、自分たちの力で排除しているんだ」
「でも、あなたたちが使っている技術は地球独自のものじゃないでしょう?」
「……現代のものじゃないだけだ。インベーダーの技術などではない」
なるほど、『現代』じゃないってことは……。
「未来人だって名乗っているのね。それこそ嘘だわ。過去へのタイムトラベルは存在しないことが科学的に証明されてるのよ。地球ではまだでしょうけど」
「そんなバカな……」
彼は、すこしあわてているようだった。ひょっとして疑問に思うことがあったんじゃないかしら。
「なにか思い当たることがあるのね。そいつが地球人らしくないことを言ったことがあるんじゃない? ボロを出したことがあるんじゃない?」
「……」
「図星みたいね。おかしいと思わない? あなたたちが使っている機器は、どれも、ぎりぎり今の地球の科学理論や技術で製作可能なものばかりだわ。未来の科学なら、もっと小型化や高性能化ができると思わない?」
彼は自分が被っているヘルメットを見上げた。
「そのヘルメットだってそうよ。耳栓くらいに小型化がされてもよさそうじゃない?」
「歴史のパラドックスを起こさないためだ。未来技術をそのまま持ち込んだら、発明者不在の科学技術や理論が存在することになるから、ヒントだけくれているんだ。我々はそのヒントを研究機関や政府に流し、成果物の提供を受けている。だから政府にも顔が効く」
それで、ヘルメットおじさんが高校に転入できちゃうわけね。
彼は、強く言い返すことで、自分も信じようとしているようだけど、やはりまだ疑問を抱えているよう。
「昨日使った消音装置はどう? あれはきわどい技術だったわ。どこかすぐに理解できて製作できるところがあった?」
「……日本にはなかったが、海外で可能なところが見つかった。だからこそ装備できたんだ」
「そのことを『未来人』さんは知ってた? 日本の国産品じゃないって。発明者不在にならないように配慮してるっていうなら、未来にはどこの国で開発されたかっていう歴史が残ったままになってるんでしょう? 日本製じゃないんなら情報提供したときからそれを知ってるはずじゃない?」
どうやら彼自身、そのことを疑問に思っていたようだ。もうひと押し? かな?
「ねぇ、『未来人』に会わせて。正体を見破ってやるわ」
「だめだ。そもそも、この時代に実体化してないんだ。声とシルエットだけで。時間通信しているんだ」
「なるほど。多分、わたしのように地球人の外見になれるほど地球人に似ていない種族なんだわ。ねぇ、聞いて。この宇宙にはたくさんの宇宙人がいて連盟があるの。その連盟のルールで、地球は保護されてる。地球人が超光速航法か惑星破壊兵器を手に入れるまでは、ほんとはコンタクトできないの。たしかにうちはそのルールを破ってることになるわ。同じように、地球とコンタクトできるようになったときに有利な立場に立てるように、あちこちから潜入者が来てるでしょうね。そして『未来人』はあなたたちをつかってライバルを蹴落とそうとしてるんだわ。あなたが今までに退治してきたほかの宇宙人はどうだった? 激しい抵抗があった? 大きな騒ぎに発展する前にたいして抵抗もせず退却していくんじゃない? みんな」
これも図星らしい。
「もしも潜入してるってことが連盟に対して明らかになったら、それこそ立場が危ういから、あなたたちとハデに戦ってまで地球に残ろうとするはずがないの。うちもそうだわ。だから自分で戦わずにエリカさんに振ったの。エリカさんは宇宙人じゃないのよ。地球人なの。普通の人間じゃないだけ。でもこうしてわたしたちは仲良く姉妹をやっていられるわ」
彼はわたしとエリカさんを見比べていた。エリカさんも出番がまわってきたと思ったのか、わたしの話を肯定してくれた。
「わたしは、いわゆる魔族なのよ。あなたたち人間より昔から地球にいるわ。彼女たちとつるんでまだ丸一日にもならないけど、彼女たちの言ってることは本当みたいよ。侵略とか、本気になってたら、とっくにされてるわよ。彼女たちが本気になったら、あなたの部隊じゃ敵わないわよ。わたしでさえ、どうだか」
ほんとにエリカさんがそう思ってるのかしら。彼女の力は十分にわたしたちに対抗できそうだったんだけど。
阿久根はなにか考え込んでいたけど、もう、反論はしなかった。
「ひょっとしたら、このヘルメットが、もうわたしの脳を守ってくれていないのかもしれないけど、きみらの言ってることで腑に落ちる点が多々ある。我々は、普通の地球人たちがパニックにならないように秘密裏にインベーダーに対処したいのに、なぜかその……『未来人』はおおっぴらにしたがっている節があるんだ。今までの相手が、本気の抵抗をしてこなかったっていうのも当たってるし。昨日、うちの部隊は炎に焼かれて全滅してもおかしくなかったのに、わざわざエリカくんに助け出された。その理由が知りたかったんだ」
昨夜の襲撃者の命を助けたのは、エリカさんの気まぐれなんだろうけど、ま、ここはいい方向みたいだからスルーしとこう。どうやら阿久根は偵察じゃなくて、疑念を晴らしに来てたのね。
「もしも、きみらを時間通信のときに立ち合わせたら、どちらが本当のことを言っているか、証明できるかい?」
「やってみせるわ」
ワナを張られるかもしれないけど、相手の正体を確かめるチャンスですもの。
昼休みの終わりの予鈴が鳴った。
心配(?)してくれてる隆のところに、わたしたち三人は平和な会談を終えて戻った。『心配なかったでしょ?』と首をかしげて微笑みかけると、隆は頬を染めてそっぽを向いた。しまった。ちょっと、いまの微笑みは、アイドルの柴田カナっぽすぎたのかな。ファンの彼には酷だったかもしれない。反省、反省。
「よくやってるナ。上々じゃないか。あとは、相手の正体を確かめて、地球に関与している証拠をつかめば、お互い様ってことになる。もしくは、そのまんま阿久根を味方に引き込めばこっちのモノだナ」
帰宅後、隊長に阿久根のことを報告すると、めずらしく隊長が手放しでほめてくれた。地球へ来てはじめてかもしれない。
「それで、剣崎隆のほうはどうなってる?」
浮かれた気分はいっぺんで冷めた。
「こ、これから迎えに行って、こっちで話す約束です。検査する約束だったので」
「ふむ。エリカの情報のおかげで、検査の必要はなくなったがナ。見ろ」
隊長が空間に映し出したのは、昨日、うちに隆がやってきたときのの画像だった。エリカさんを心配して来たときのだわ。
玄関に立っているエリカさんと隆の画像に特殊処理が施される。魔界と現世の境界をスキャンしたものね。エリカさんのまわりには、急速に収束していく球形の境界があり、それとは別に隆の身体をぴったりと境界が覆っている。
「公園でおまえを助けたときは、この魔界を急激に広げたからセンサーに反応したんだナ。剣崎隆は常に魔界に居る。常時魔界が存在しているからセンサーが見落としていたんだナ。魔界までは催眠の波動は届かない。だから彼には催眠も効かない」
「……どうして、常に魔界? ……」
わたしの疑問に答えたのは書斎を通って地下から出てきたエリカさんだった。
「魔力で維持しないと、あの人間の身体が滅んでしまうからよ」
「エリカさん。隆が滅ぶって、どういうこと?」
「人間としての隆さんは、子供のころ、落下事故で死んでいるの」
「!」
公園での事故だ!
「もちろん、魔王としての彼は、そんなことで滅んだりしないわ。でも、彼は人間として生きることを選んだ。わたしは、夢を通じてお迎えに参上したのだけど、人として生きることを選ばれたあの方に、肉体を維持する術をお教えしたのよ。わたしも普段からやってることだから。あ、わたしがどうして普段から魔力を使って肉体を維持してるか、なんて野暮なことは訊かないでね。まあ、そのおかげであなたたちの催眠からも守られてるわけね。で、そろそろ魔王の気が変わったかと思って様子を見にきたんだけど。まだ、早かったみたいね。お迎えする時期じゃなかったようだわ」
「お迎えって?」
「彼が統治すべき世界へ、よ。わたしの一族は、魔王の案内役を務めている一族なのよ。今回ご転生された魔王には、わたしがお供するの。とても光栄なことだわ。魔王がその気になられるまで、気長に待つつもりよ」
「彼は自覚があるのかしら……魔王だって……」
「ないわね。無意識に魔力を使ってるのよ」
なんだか、かわいそうなのはなぜ? このまま、普通の人間にしておいてあげたい。
「いつまで、人間でいられるのかしら」
「そうね、もしも、自覚がなければ、普通に人間が死んでしまう年齢になったら、死んでしまうでしょうね」
「つまり、百年生きたら、とかっていうこと?」
「ええ。でも、もしも自覚があれば、千年でも二千年でも、若いまま人間の姿を保っていられるわ」
「じゃあ、彼も、魔族だと知ってしまったら、そうなるの? 教えちゃいけないってことなの?」
「いいえ。隆さんの場合、人間として生きたいから、あの姿を維持している。つまり、人間的でない生き方をした人間、なんていうのは望んだ姿じゃないわ。人間として、なにかを成し遂げたときには、魔族として目覚めるかもしれないわね。もちろん、なにか危険な目にあって、降りかかる火の粉を払いのけるために、覚醒してしまうことはあるかもしれないけれど」
「では、彼に、わたしたちの催眠の力が及ばないわけを説明するのに、『あなたは魔族です』って言っても大丈夫なのね」
「ええ。そうでなければ、わたしが彼の前で、軽々しく魔法や魔力のことを口にするわけがないでしょう?」
なるほど。
「……じゃあ、わたし、呼びに行ってきます。約束だから、こっちのことは説明しなくちゃ」
「うむ。二人にしておいてやるから、話し終わったら報告しろ」
はあぁ。行かなくっちゃ。うまく話せるかしら。
今回も、色仕掛けってわけではないんだけど、露出度高めな普段着モード。ピチピチのデニムの超ミニスカートに紫のニーハイ。ピンクのタンクトップは妙に緩め。隊長のコーディネート。
逆効果だと思うんだけどな。隆は柴田カナちゃんのファンなんだから、わたしの首から下のモデル体型は疎ましく思ってるかもしれないのに、そこを強調するなんて。
隆の家の前で、ちょっとためらってしまう。でも今日は昨日と違って約束があるんだし。会わないわけにはいかない。目を硬く閉じてインターホンを押した。
「はーい」
中からおばさまの声がして、パタパタとスリッパの軽快な音が近づいてくる。
「どなた~?」
「あ、恵です。あの……隆を迎えに……」
言い終える前にガチャリとドアが開く。おばさまは、わたしの格好を上から下まで見回して、昨日以上に満足げににっこりと笑う。
「ウフフフフ♪ どうぞ~♪」
「失礼します……」
「隆から聞いてるわよ。恵ちゃんが来たら、部屋に通してくれって」
「えっ?」
あの部屋?! なんか行きづらいんですけど。っていうのが顔に出たのか、渋々靴を脱いでスリッパを履いたわたしを、おばさまが階段へ押し上げながら言った。
「大丈夫よ、ポスターとかは片付けちゃってたから。多感な年頃ねぇ。急にベタベタ貼ったかと思ったら、また、すぐに接いじゃったりして」
「え? すぐ?」
「ええ。二週間ほど前よ、急にベタベタ貼ったのは、柴田カナちゃんが載ってる本とかごっそり買い込んできて」
え? 二週間って……それって、わたしが地球に来てからってこと?
階段を一歩一歩上がりながら、情報を整理していた。
そういえば、貼ってあったポスターは、どれも顔のアップやバストアップの写真ばかり。つまり、わたしと柴田カナちゃんの見分けがつかないような写真だ。ひょっとして、隆は、アイドル柴田カナではなくて、急に現れた幼なじみの催馬楽恵の写真を貼ってるつもりだったってこと?
「あぁあっ!」
思わず大きな声を出してしまった。
あの、机の上のフォトスタンドの写真! 思い出した! あれはわたしの写真だわ! クラスのカメラ小僧くんが、先週売ってた生写真のうちの一枚だわ! 構図や背景に見覚えがあったはずだわ。あれは高校の校庭での写真じゃないの!
隆も密かに買ったってこと? で、その写真だけ大事にフォトスタンドに入れて机に飾って……って、もう、これって、隆は柴田カナじゃなくてわたしにラブラブってこと?!
ドアの前まで来てしまった。下ではおばさまがなにかを期待してニコニコしながら見ている。
わたしは、というと、あきらかに動揺していた。
これは任務なんだから、もしも隆がわたしにラブラブだとしても、デレデレしている場合ではない。気を引き締めて、戦場に出陣するときの心構えを思い出すのよ。
ごくりと溜まった唾液を飲み込んで、トントン、とノックする。
「恵です。隆、入っていい?」
「どうぞ」
ぶっきらぼうな隆の返事。扉を開けると、たしかに昨日とはぜんぜん様子が違う部屋。壁や天井のポスターは全部片付けられていた。隆はベッドに座ってこっちを向いている。
でも、わたしの格好を見ると、そっぽを向いてしまった。わたしはというと、恐る恐る(?)眼球だけ動かして、視線を机の方に向けた。
フォトスタンドが伏せて置いてある。
わざわざ伏せているってことは、まだ、写真が入ったままだってことだ。柴田カナの写真は片付けたけど、わたしの写真は飾ったままってことになる。ってことは……やっぱり……?!
え~っ! そんなの、どんな顔して接すればいいのよ!
「突っ立ってないで、どこでも座りなよ」
座るって、どこに?
隆が座っているベッドは、隆のとなりがそれなりに空いている。でも、隆は真ん中あたりに座ってるので、どっちの隣に座っても、かなり接近してしまう。ベッドはだめだ。
椅子は、ベッドからはちょっと距離がある。今は机に向かって収納されてるけど、あの椅子の向きを変えてベッド向けにして座ろうかしら。あ、ダメダメ。今日は超ミニスカートだった。隊長のバカ。
しかたなく、わたしはその場で床のカーペットの上に座り込んだ。すると隆が、大きな円形のクッションをベッドの横から取って差し出した。下に敷けってこと? でも、ちょっとそれにはフカフカすぎのクッションじゃない? これって、テレビ枕用かなにかなんじゃ。
クッションを差し出す隆が、そっぽを向いて頬を染めているのに気がついた。あ、そうか。目のやり場に困ってるんだ。
もう。隊長のせいだぞ。
わたしはクッションを受取って、ひざの上に置いた。大きなクッションだったので、ひざ掛けのようにすっぽりと腰から下を完全に覆えた。
隆がやっとこっちを見てくれた。
「検査は必要なくなったんだろ」
そうだ。だから、ここで話せなくもないけど。
隆はここで話そうっていうつもりなのね。どの道話すことに変わりはないのよね。
ここからが、昨夜作った原稿内容の出番。
「まず、最初に、わたしは地球人じゃありません。わたしの星の名はビレキアっていうの。地球に来た目的は情報収集。あなたをマークするのがわたしの任務です。だから、幼なじみになって、クラスや部活もいっしょにしました」
「ぼくをマーク?」
「ええ。地球は今、発展途上の星として保護されてるの。保護が解ける条件は、自力での超光速航法の開発か、惑星破壊兵器の所持。前者は星間連盟への加盟が認められ、後者は、危険分子としていずれかの宇宙人の政府によって占領統治されることになるの。あなたは、超光速航法開発のキーマンになると予測されているの」
「超光速航法? ただの高校生が?」
「今はね。これは確率の問題よ。あなたが将来その研究に関与する可能性はビレキアの試算では98%以上。地球人類中ダントツの値なの」
「マークして、どうするの?」
「今のところは、密かに見守るだけの任務よ。保護されてる星へは、ほんとは誰も降りちゃいけないの。惑星の外から電波を受信したり、望遠観測したりしかしちゃいけないの。でも、新しく連盟に加わる惑星との関係構築は、どこの星にとっても重要事項だから、少しでも良い条件になるようにしたい。だから、密かに潜入するの。地球に来てる宇宙人は、ビレキアだけじゃないわ」
「エリカさんがそうなの?」
「エリカさんは違うの。宇宙人じゃなくて、地球の魔族の人。朝の魔法もエリカさんなの。地球の科学では、まだでしょうけど、ビレキアでは魔法は科学で解明された力なの。エリカさんは、隆にもその力があるって言ってるわ」
意外なことだけど、隆は、自分の魔力について、すなおに受け入れているようだった。おちついた表情のままだ。エリカさんはああ言っていたけれど、ひょっとしたら、自覚があるのかもしれない。
「昨日、公園のブランコで、わたしを助けてくれたとき、魔法で助けてくれたのよね。エリカさんが言うには、あなたは魔界の王になる素質があるそうよ。わたしたちの催眠が効かないのもそのせいなの」
「……やっぱり、エリカさんと会ったことあるよ。子供のころ、夢で」
「夢?」
「あの、遊具から落ちて病院に運ばれたとき、夢の中に出てきた人だ。ぼくのことを千年以上昔から待っていたって。多分、ぼくがあの事故で目を覚ませたのは彼女が夢の中で導いてくれたからだったんだ」
「そうだったの」
エリカさんが言っていたことだ。人間としての隆はそのとき死んでしまって、魔力で肉体を維持するようになったんだ。、
夢のセリフからすると、エリカさんって千歳以上ってことね。まあ、今さらその程度で驚かないけど。あ、そうか、それで肉体を維持する必要があるんだ。
「今日転校してきた阿久根は?」
「彼も地球の人。インベーダーを退治する組織のリーダーさんなんですって。どうも背後にはどこかの宇宙人が居るようなんだけど、阿久根さんには『未来人』だって名乗っているそうよ」
「インベーダー?」
「ええ。でもそんなものいないわ。だれも連盟保護状態の地球を侵略なんてしない。『未来人』を名乗ってるヤツが阿久根さんたちを騙して、他の宇宙人を蹴落としていたのよ。わたしたちも狙われたけど、エリカさんに助けてもらったの」
物は言い様よね。
「密かに潜入ってわりには、目立つ格好してるんだね」
うっ! 痛いところを。
「一応、元の姿に近い姿なんだけど、事前の情報収集が不十分だったらしいの。集団催眠の効果がなかったら、怪しすぎるよね、やっぱり」
「元の姿は、ぜんぜん違うの?」
「ビレキア人と地球人は似てるんだけど、さすがに、そのままじゃ地球人には見えないかな」
「本当のきみは柴田カナに似てるんだ」
「うん、まあね」
なんか、見られてる。想像されてるのかしら。
「で、これからも見守るだけ?」
「当面は、そういう命令だから」
「ぼくも、このまんま?」
「ええ。魔力が原因ってことだから、多分わたしたちの催眠は効かないわ。あなたは、知らないうちに自分の身体を『魔界』っていう空間で覆っているの。あなたに害を及ぼす外界の力は、境界を越えてその中に及ぶことはないわ」
「なるほど。じゃあ、記憶はこのまんまか」
「ええ。……ごめんね、おしかけの幼なじみで」
「まあ、そのうち慣れるよ」
そのあと、会話が途切れて、しばらく黙って向き合っていたんだけど、いきなりわたしの耳元で隊長の声がした。
『おい! もうすんだのかナ?』
「きゃっ!」
びっくりして、叫んでしまった。隊長の声は、隆にも小さくだけど聞こえてしまっている。終わったら報告しろって言っていたんだから、モニターしてたわけじゃないんだよね、隊長。
「今、隆さんの部屋です。話は終わりました。どうしたんですか?」
『そこに、テレビはあるか?』
「パソコンで見られるよ」
隆がデスクの上のパソコンを起動してくれた。いきなり隊長の声がしたってことには、動じていないみたい。
『夕方のニュースワイドで、今晩の歌番組の予告をやってる。剣崎隆にもどうせ知れることだから、いっしょに見てもらえ。どうも妙なことになってる』
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