第31話
ユイルは魔具の前に飛び降りた。父上の製作所で対峙したものより一回り大きい。剣を抜き、両手で構える。
「僕も君と同じらしいんだけど、止まってもらうわけにはいかないかな?」
ユイルの問い掛けは振り上げられた鋭い脚部で返された。飛び上がってそれを躱す。見下ろした時に疑問が思い浮かんだ。あれは、あの姿になっても人間としての感情を残しているのかと。
「ごめんよ」
ユイルは身体をひねり、反動をつけて振り下ろした刃で脚の一つを弾き飛ばした。魔具の動きがやや鈍くなる。
「魔具だろうと人間だろうと、僕は君を倒さなきゃいけないみたいだ」
切っ先を向ける。魔具が突進した。けれど先日振った雨で地面はぬかるみ、動きを鈍重にさせていた。ユイルは木々を壁にしながら避ける。都市エリツヘレムの近くの森。地の利はユイルにあった。
ピスカと遊んだ記憶が蘇る。それを土足で踏み荒らされていくのは不快だった。けれどそれと同時に沸き起こった感情。剣を振りながらユイルは考えた。なぜ、いま僕は魔具と戦っているのかと。街を守るため。人々を守るため。そのどれもが違うような気がしたが、同じように合っているような気がした。ただ僕は、黙って街が破壊されるのを我慢出来なかったんだ。
脚が地面に落ちる。軋む音が悲鳴のように耳を震えさせた。魔具の動きは弱まっている。けれども、都市へ向かうその動きは止まらなかった。まるで元いた街へ戻るように、帰る場所を求めるように魔具は動き続けた。その姿をユイルは見つめる。
「君は元々あの街にいた子なの?」
魔具は反応しない。ユイルは見据える。なぜか不意に帰らせてあげたくなった。街に人々に会わせたくなったのだ。魔具は進む。動く脚は少なく、動きは緩慢だ。
ユイルは剣を持つ手を下げた。
とその時、魔具の行く手に誰かが現れた。
「姉さん」
慌てて剣を握る。ピスカは首を巡らせて、ユイルと視線を合わせた。そして気づく。目の前に迫っている魔具に。目を見開き身を屈め、腕で顔を隠した。魔具は脚を振り上げる。何度もそうしたように、そうするしか術を知らないかのように、鋭い矛を振り下ろした。
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