第7話

 ピスカは寝床から跳ね起きた。身体が震え。全身が汗をかいていた。浅く速い呼吸。胸元を握り締める。瞼をおろし、揺れる瞳孔を落ち着かせる。瞼の裏に先程の映像が浮かびあがる。ピスカは目を見開き、窓際に歩いた。空を仰ぎ、陽光に瞳を攻撃させる。

 夢だ。ただの幻想だ。

 そう自分に言い聞かせて、目を閉じた。ほら、もう何も見えない。

 ようやく呼吸が落ち着いた。弾けるほどの心音をたてていた心臓も、いまは安定した律動を取り戻している。ゆっくりと瞼をあげた。

 太陽に薄い雲がかかっている。ニサンの月の半ばを過ぎているというのに、石の壁は夜のうちに蓄えた冷気を吐き出していた。鳥のさえずりが聞こえる。人々の声が遠くから聞こえる。

 朝だ。ピスカはようやく認識した。汗で濡れ額に張り付いていた髪を手ぐしで整える。振り返り隣の寝床を見た。ユイルの布団はまだ膨らんだり萎んだりしていた。

「今日は涼しいわね」

 開口部から外を眺める。中庭では井戸で誰かが水を汲んでいた。馬が首を振り動かし、身震いした。

 扉を開けて外に出る。井戸で水を汲み上げ、桶に移す。冷水で顔を洗うと目が覚めた。水面に写る自分の顔を見て、ピスカは呟いた。

「ひどい顔ね」

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