四章

街へ


「はぁ…………。なかなか終わらないなぁ…………」

 晏如あんじょは、大きなため息をついた。

 


◆◇◆◇◆


 

 晏如が、白竜宮はくりゅうきゅうに来てから、すでに三ヶ月もの月日が過ぎていた。

 季節も、夏から秋になり、ずいぶんと涼しくなっている。

 そんな秋もすっかり深まっている、今日この頃。

 下級女官・寿晏じゅあんこと晏如は、白竜宮の庭先で掃き掃除をしていた。

「なんで、ここには葉が落ちる木がこんなにもあるんだよぉ…………っ」

 そのせいで。

 掃いても掃いても終わりが見えない。

 晏如は、いらだち気にほうきで落ち葉を集める。

「落ち葉なんて落ち葉なんてぇ――――っ! 大っっキライだぁ――――っ!!」

 それから、ほとんど腹いせのように叫ぶ。

 実は、晏如は秋の紅葉こうようが大好きだった。

 紅色や黄色に染まった色とりどりの葉が、ひらり、ひらりと落ちていく…………。そんな、風情ある光景を眺めるのが、晏如が何よりも楽しみにしていたことだった。

 しかし、ここに来て、それさえも大っっキライになり始めていた。

 理由は簡単、落ち葉の掃除がメンドーだから。

 そんな風に、晏如が落ち葉と格闘(?)していたら。

 普段着を着た瑛明えいめいがいきなり、晏如のそばに立っていた。

「寿晏。そなた、そんなところにいたのか。探したぞ」

「うわっ殿下! な、何のご用ですかっ」

 文句を叫びまくっていた晏如は、後ろをふり向くと目の前にいた瑛明の姿を見て、飛び上がった。

(近くにいらっしゃったんなら、早く声をかけてくださいよ…………)

 次いで、気まずそうに苦笑いを浮かべる。

 瑛明は、晏如の顔を見ると、必要最低限のことを告げた。

「寿晏、ついてこい。今から街に、出かけるぞ」


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