第7話 宿題の提出!
意気込むのと、その意気込みを完ぺきに遂行するのは違うから!
予定は未定的な。違うか。
「結局いいニックネームが思いつかなかった……」
宿題を早々に済ませて一晩中考えてみたものの、ネーミングセンスZEROな私には金田一耕助もびっくりなほどにむつかしい事件だった。事件じゃないよ。あとついでにファッションセンスもZEROです。今でも親が買ってくる服をためらいなく着れます!
「とりあえずこの紙を持っていこう」
夜野君のニックネームを思いつく限り書きだしたスーパーのチラシを、レオン様のクリアファイルに挟む。いやー昨日久々にレオン様ルートやったけどやっぱり素敵。次作出るまでにあと五周はする、絶対。
「朝倉さん、おはよう!」
「……」
学校に着くと、胴着姿の夜野君に声を掛けられた。どうやら朝練だったらしい。
まだ少し眠いし寝たいと思っている私とは対照的に、麗しいその顔の、大きな瞳はばっちりと開かれている。
「お、おはよう」
「うむ!」
あいさつを返すと夜野君は満足そうに頷いた。
「今日の昼休み、俺も一緒に昼ご飯を食べても構わないだろうか」
「あ、うんちょっと友達に確認し」
「いいよー来なよ、夜野も」
「ええ、歓迎ですよ」
「葵君! ノリちゃん!」
昨日同様、ニヤニヤ顔で二人が登校してきた。もう楽しんでるの隠す気ZEROなのね!?
「本当か! 恩に着る!」
「ぷっ、夜野って武士なの?」
「武士か、そうだな伊達政宗公のようにはなりたいな!」
「独眼竜……素敵です」
「うむ、一番好きな武将だ」
いやいやいやいや……夜野君、普通に溶け込んでてすごくない? イケメンはコミュ力高いな。私なんてコミュ力たったの5。ゴミめ。
「ではまた昼休みに会おう! 朝倉さん達の教室に行くぞ!」
「うん、じゃあね」
「また後でなー」
「楽しみにしていますよー」
じゃ、と片手を空高く振り上げて夜野君は爽やかに去っていった。
もうすぐチャイム鳴るけど着替えなくて大丈夫なのかな?
「朝から見せつけてくれるねー」
「ちがうよ、たまたま下駄箱で会っただけで……」
「夜野君、本当にいい人ですね。ふふ、受けでも攻めでもどっちでもいけそう……」
じゃあ誘い受けはどうでしょうか! と軽い気持ちで提案したらノリちゃんの妄想スイッチが入ったらしく、少しの間遠い世界に行ってしまった。
「俺らも教室行くか。遅刻しちまう」
「そうだった! 急ごう!」
「ええ……って桃子さん早すぎます!」
廊下は走るなという貼り紙は見ないふりしておこう。そうしよう。
「朝倉さん、昼飯を食べよう!」
昼休み。約束通り夜野君は現れた。突然のイケメン四天王の登場に、クラスメイトの女子が色めき立つ。同時に「朝倉って誰?」みたいな会話も繰り広げられる。モジョ子が浸透しすぎて名字を忘れられているパターンですね。分かります。
「来たか。こっちこっち」
「うむ、お邪魔するぞ」
お邪魔するぞってなんか言い方可愛いなちくしょう。なんなの、弟系キャラなの? 色んな属性に対応できそう。BLも乙女ゲーもいけます、雑食ですみたいな。
夜野君の弁当は、私たち三人の弁当サイズよりはるかに大きい。三段重ねのランチジャーだ。しかもそれだけじゃ足りないらしく、朝購買で買っておいたと言う菓子パンも持参してきている。
「では、いただきます」
「いただきます!」
勢いよく大きな弁当にがっつく夜野君を見て、ああ男子ってこういう感じだよねと思う。きっとあの生意気な弟も、今頃勢いよく母特製弁当を食べているんだろう。
「む、三人とも食べないのか?」
「あ、いや」
「食べる食べる」
「ええ、いただきます」
慌てて手を動かして私達も食べ始めた。いかんいかんつい見とれ……観察してしまった。
夜野君はあっという間にお弁当を完食し、菓子パンに手を付けている。
早すぎ! 小学生の頃早食い競争していた?
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさん」
私たちも食べ終わり、お弁当を片付ける。次の授業まではまだ三十分以上もある。
「三人は普段、どんな会話をしているんだ?」
「え? ど、どんなって……」
二次元ネタでーす、あ、でもたまーにミュージカルとか声優さんとか2.5次元の会話もしまーす。って言えるか!
「俺らの会話と言えば……アニメとか小説とか」
「そうか! 俺もアニメ好きだぞ!」
「今期は何見てるのですか?」
「今は妹と一緒にド〇えもんを見てるぞ!」
うん、そうですね。深夜アニメは見ないよね。良い子は早く寝よう。いや、私も録画だけどね。
「朝倉さんはどんなアニメを見ているんだ?」
「私!? 私は――」
初恋モ〇スター、ラ〇ライブ!サンシャイン、アル〇ラーン戦記、SH〇W BY ROCK!…挙げたらキリがない。
「しょ、SHOW BY ROCKとか……」
妹さんがキ〇ィちゃんの封筒を持っていたのをとっさに思い出して、とりあえずサ〇リオの作品を挙げる。
「お、知ってるぞ! あれはアニメもあるのか!」
「う、うん」
「そうか。では俺も見てみるとしよう」
「でも深夜だよ?」
「問題ない。録画すれば良いのだ」
夜野君は名案とでも言わんばかりに誇らしげにそう言った。
良かったーありがとうサ〇リオ!
その後も二次元トークは続き、ノリちゃんがBLについて説いたり(夜野君は引くこともなくそういう世界があるのか! と感心していた。すごいよ夜野君)、葵君がおすすめのラノベを教えたりと盛り上がる。いやほんと、夜野君のコミュ力……分けて……。
「はっ! もうこんな時間か、教室に戻らなければ!」
「またなー」
「明日も来ていいだろうか?」
「いいですよ。ね、桃子さん?」
「うえ!? う、うん」
「そうか、嬉しいぞ! ではまた!」
朝と同じ様に片手をしゅたっと挙げて去って行こうとする。
と、思ったらすぐに引き返してきた。
「そうだ、朝倉さんちょっと」
「な、なに?」
手招きをされ、教室のドア付近まで歩いていく。その手招きの仕草が小動物のようで可愛い。
「これを見ておいてくれないだろうか」
「ん? 紙?」
「昨日ニックネームを考えようと約束しただろ?」
「うん」
「色々思いついたのでこの中からぜひ選んでほしい」
そういって何回にも折りたたまれた紙を渡された。どうやら色々候補を挙げていたのは私だけではなかったらしい。
「待って、じゃあ私も」
席に戻り、ファイルから紙を取り出す。誰!? 今このファイルキモイって言った!? レオン様はキモくないよ! キモイのは私です!
「私も色々思い浮かんだんだけどなかなか良いのが分からなくて」
「そうか。でも色々考えてくれて嬉しいぞ」
「う、うん」
「では俺もこれを見せてもらうとしよう」
「私も、見てみるね」
「うむ! 気に入ったのがあれば教えてくれ! じゃあまたな!」
「またね」
今度こそ夜野君が去っていく。席に着いて紙を広げると、昨日の手紙と同じく元気なカクカクした字で、たくさんのニックネーム候補たちが書かれていた。朝と桃をくっつけたのだろう、モーニングピーチってのもある。ウェディングピーチの親戚か何か?
「ん?」
そう言えば……と書かれている紙に見覚えがあってくるっとひっくり返す。
「これ、スーパーのチラシ……しかも同じところ」
案外、夜野君の家って、うちから近いのかな。
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