第5話 王道だけど、順序を踏もう
その後しばらく私たちは罰ゲームだ、罰ゲームじゃないと言い合った。
どうしても認めないのね! ならば……。
「待ってくれ。ではこうしないか?」
斬る! と心の斬魄刀を卍解して瞬歩で逃げようとしたとき、夜野君が両手を小さく上げた。まるで暴れ馬でも宥めるようなポーズになっている。
「すぐに気持ちを信じてもらうのはどうも無理なようだ」
「うん」
私を誰だと思ってんの? 二次元では恋愛百戦錬磨だけど三次元では勝ち知らずですよ?
地元じゃ負け知らずな某二人組じゃないんだよ?
「じゃあ友達から、というのはどうだろう?」
「友達……から?」
「うむ」
あーはいはい。なるほど友達ね、それならOK! ってアホか!
「まずは俺と友人になってくれないか。そこから徐々に朝倉さんの信頼を得たい」
「どうしてそこまで罰ゲームに……」
「いや、罰ゲームではない。罰ゲームではないからこそ……」
あれ、何で夜野君、顔が赤いの? 風邪ひいた? このままお見舞いルートに突入する勢いですか?
「ど、どうだろうか」
ちらちらとこちらを見る夜野君。ああ、本当に罰ゲームじゃないのかもしれない。
いや、長期にわたる罰ゲームの可能性があるな。気は抜けない。
それでも、夜野君がそんな意地悪するようにも見えない。
ああもう!
「わ、分かった……。友達ね、友達から」
「本当か!? ありがとう!」
「ちょ、抱き着かないで!!」
今度はガシっと正面から抱きしめられる。恋人がする抱擁というよりも全国大会が決まった運動部が喜びを分かち合うような、そんな感覚に近いものだった。
「すまない、つい嬉しくてな」
私を解放すると、よっしゃ! とガッツポーズする夜野君。何だか可愛く見えてしまった。いやイケメンは本当に何をやっても絵になるからいいね。そういやノリちゃん的には夜野君はどっちなんだろう。受けなのか攻めなのか……。
「じゃ、じゃあ早速朝倉さんのことをモジョ子と呼ばせてもらってもいいだろうか?」
「え!? よりによって!?」
「む、クラスメイトは親しげにそう呼んでるだろう?」
親しさはないと思います! むしろ逆にベクトル向いてます!
「や、うーんモジョ子はちょっと……」
「そうか。では今日家で新しいあだ名を考えてくる」
「そんな無理しなくても」
「いや! 親しくなるには挨拶と、ニックネームは大事だ」
「そうなの?」
「うむうむうむうむうむ!」
あ、『うむ』って五回言った。新記録だ。マリオRPGのキノ〇フスキーもびっくりなくらい首を上下に振っている。
「その、良ければ俺のニックネームも考えてくれないだろうか?」
「へ?」
「二人だけの呼び名を考えると何だか仲良しな感じがしないか?」
二人だけ――ああ、なんて素敵な響きでしょうか。そしてまさかそんなセリフを現実世界で言う人がいるなんて。案外三次元も素敵なのかもしれない。
「わ、わかった。考えてみるよ」
「ほんとか! ありがとう!」
「だ、だから抱き着かないで!」
「おっと、すまん」
上昇する体温を何とか抑えようとするも方法は見つからない。
お互いのニックネームを考えてくると言う約束をして、私たちはその日から友人関係をスタートさせた。
いずれは――そういった関係になる日がくるのかな。
帰って乙女ゲーでシミュレーションしようそうしよう。
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