第2話 ヲタクは平和なものである

「やーん、キーホルダー可愛い! あ、このクリアファイルも!」

「ほほう、このシチュCDは滾りますな……」

「あ、新刊出てる。買わねーと」


 メイトに到着するや否や、各自興味のあるコーナーへと突き進んでいく。満足いくまで新商品をチェックし、買い物し終えたら店の前にもう一度集合するというのが暗黙の了解になっている。

 ノリちゃんはBLが好きな腐女子で、葵君はラノベが好きな文学少女。葵君を、君付けなのは本人からの希望だ。男兄弟に囲まれているせいか、自分も男に生まれたかったらしい。

 みんな好きなジャンルは違えども二次元に傾倒しているのは共通している。

 月のお小遣いはもちろん、ランチ錬金術(昼食代として五百円もらい、実際は百円のパンで済ませるとあら不思議! 百円玉が四枚も残っちゃうよ!)で生み出したお金を貯めて、こうして好きなものに費やす……上手い事経済回してるぅ!


「いやー買った買った!」

「ごめんなさい、少しガチャ回していってもいいですか?」

「いいよー。俺らここで待ってるから」


 ノリちゃんがぺこりと頭を下げて、いそいそとガチャガチャへと向かう。ガゴゴッ……と固い音を出してガチャを回すノリちゃん。手を突っ込み、カプセルを取り出して開けるや否や。


「やったー!! 嫁ゲットしたったったったー!!」


 雄たけびをあげる。けれどすぐに我に戻ったらしく、慌てて手で口を塞ぎながらこちらに戻ってきた。


「やだわ、私ったら恥ずかしいですね。お目当てのキャラが出たからつい」

「いいじゃん! 私もレノン様出たらそうなるよ!」

「一発で出るなんてこりゃ運命じゃねえの?」

「ですかね!? はうう……机に早速飾らなくては」


 幸せを前面に押し出した表情のノリちゃんを見ると、こちらも嬉しくなる。

 私たちは、趣味で誰かを傷つけたりはしない。

 だから、こうして気心知れた友達と好きなものに夢中になって過ごせればそれでいい。


「では私はこちらなので」

「気を付けて帰れよー」

「また明日ねー」

「ええ、ごきげんよう」


 メイトに行った後、喫茶店でひとしきり今期のアニメや新連載の漫画、新作ゲームの話で盛り上がった。時間ってのいうはいくらあっても足りない。まだまだ私たちは話し足りないけれど、明日も学校がある。その前に門限がある。

 乙女ゲーとかだと結構真夜中の公園に呼び出されて告白とかあるけど、みんな門限ないの? それともこっそり抜け出してるの? そして口づけ? 愛のばかやろうなの?

 葵君とも別れて、急いで家に帰る。


「ただいまー」

「やっと帰って来たかモジョ子」

「もう、その名前で呼ぶの辞めて」

「いいじゃんみんな呼んでるし、事実だし」

「実の弟には言われたくなーいーのー」

「だったら彼氏の一人でも連れて来てみろよ」

「うっさい!」


 リビングに入るなり憎まれ口叩いてくる弟って何なの……誰が爆弾抱えているとか教えてくれる諜報部員みたいな弟が欲しいです。まぁ誰も爆弾何て抱えちゃいないしそもそも男が周りにいませんけどね。これ以上口撃されると心がブレイクしちゃいそうなので早々と自室に避難した。


「あ、男と言えば……」


 ここでやっと思い出す。

 そうだ、手紙について二人に相談しようとしていたのに忘れていた。

 可愛い封筒と便箋に不似合いな、力強い字。


「差出人、男子なのかな」


 うーんと唸りながら、もう一度手紙の内容を見返す。

 大事なことでありますと言われても心当たりが一切ない。


「まぁ、いいか。明日分かるし。リンチされかけたら逃げればいいし」


 中学時代、パシリさせられていたせいで足の速さにだけは自信があるし、その前にリンチだとかそういうのはない。と、思う。


「モジョ子、飯―」

「はいはい今降りるよー」


 もはやモジョ子呼びに慣れてきてる感すらある。いやいや、慣れちゃダメだけどね。家でも呼ばれてちゃそら慣れちゃうよね。

やれやれというようにため息をついてから、私はゆっくりと階段を下りて行った。

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