モジョには残念なロマンスが良く似合う
紅葉
第1話 プロローグ!
もし行ってみたいところは? と聞かれたら『二次元』と即答するし、好きなタイプは? と聞かれたらアニメキャラを何人も挙げる。恋愛は百戦錬磨(二次元限定)、惚れられた回数も数知れず(二次元限定)。
たとえ現実が生き辛くても、悲観することはない。
ほら、テレビを付ければ、DVDを再生すれば、ゲームのスイッチを入れればそこは――。
Question1
あなたは今、オレンジ色の夕日が差し込む教室にいます。窓からはカーテンを揺らしながら心地よい風が入ってきており、更にその風を受けて綺麗な茶色の髪をなびかせる長身のイケメンが目の前にいる状況です。
どうやらそのイケメンは貴方に用があるようですが、その用とは何でしょうか?
次の3つのうち、最も適切なものを選びなさい。
ただし、教室は貴方のクラスで、他には誰もいないものとする。
A.好きなので付き合ってほしい
B.明日の日直を変わってほしい
C.金出せオラァ!!
「こんなのA.に決まってるじゃない! ああ、レオン様に告白されたら……うはぁ!」
「ですよねですよね! ぐふふ!」
「心理テストでもなんでもねーな!」
買って来たばかりのアニメ雑誌を机に広げ、私は同じグループの友人たちと朝から大盛り上がりだった。時折足をじたばたさせて悶絶する私たちを見て、クラスメイトは白い眼を向け、聞こえるか聞こえないかという声で「怖い」「キモイ」「おかしい」と話していたが、気にしない。
そんな言葉、昔から言われ慣れている。
「そうだ今日、メイト寄って行かない? 新作グッズ入ったってさ」
「おお! 本当ですか!? 行きましょう行きましょう!」
「俺は新しいラノベでもチェックすっかなー」
学校は始まったばかりだと言うのに、もう放課後の話をしている。いやいや放課後のスケジュールこそが、退屈な授業を乗り切る糧となるのだ。
ひとしきり盛り上がっているところ、予鈴が鳴る。根はまじめな三人(自分で言っちゃうよ!)なので、ピタリと話を中断し、雑誌をしまって授業の用意に取りかかった。
私も雑誌をカバンに仕舞い、机の中に入れていた教科書を取り出す。
その時だった。
「ん? 何か奥に引っかかって……」
手を突っ込むと何かがちくりと手の甲に刺さった。やだ、今時カミソリでいやがらせ―? 怖いー助けてレオン様ー、などとふざけたことを考えながらも引っかかっていたものを取り出した。
「何これ、手紙?」
サ〇ンリオの人気キャラクターであるキ〇ィちゃんが描かれた赤色の封筒が手には収まっていた。封を開けると次はディ〇ニーの人気キャラクターであるアナとエ〇サが描かれた水色の便箋。世界観がひっちゃめっちゃかで、統一感が全くない。
世界観の統一は基本中の基本だぞ☆ なんて思いながらも、とりあえず手紙を読むことにした。一応封筒には「朝倉 桃子様へ」と書かれていたので問題はないはずだ。
――朝倉桃子。それが私の名前。けれど最近じゃ桃子と呼んでくれるのは家族と数少ない友人二人くらいだ。
「朝からほんと元気だよねー」
「ねー、夜遅くまでアニメとか見てそうなのにねー」
「キモイくせに目立つなよ、モジョ子」
もはや悪意しかないような声を、聞こえなーいと無視する。こんなの日常茶飯事だ。
そして、陰でモジョ子というあだ名で呼ばれていることも。
モテない女=喪女と、私の名前の桃子を掛けてそう呼んでいるらしい。
まぁいいけどね! 事実なので言い返せないよ!
「まぁいいや。手紙読んでみるか」
そっと便箋に目を落とす。お世辞にも上手いとは言えない、カクカクとした元気な字でそれらは綴られている。
明日の放課後、午後四時に教室で待っています。
大事な話であります。
ぜひ来てください。
とりあえず、『であります』の部分は心の中で敬礼をしてケ〇ロ軍曹の物まねを含んで元気に読んでおいた。大事な話? 何だろう? まさか告は――
「ないないない! ないから! 関っ係ないからー! 関係ないからー!」
「うっせーんだよモジョ子! 山崎の真似してんなよ!」
「あ、すいません」
クラスのスクールカースト上位層の女子に睨まれたので、謝りながらとりあえず落ち着くことにする。今あの人山崎じゃないよ、月亭さんだよ!
ふう、告白なんてありえないよ。ここをどこだと思ってんの? 三次元だよ?
まぁ、呼び出し日が今日でなくて良かった。今日は何が何でもメイト行くからね。
「はーい、授業始めますよー」
先生の声が聞こえると同時に、日直の号令が聞こえた。
起立、礼、着席も小学生のころから始まってもう十年目に突入。
月日の流れは怖いわー。
私は、便箋を封筒に仕舞い、さらに封筒をカバンにそっと仕舞って、退屈な授業との勝負に挑むことにした。
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