終焉を告げる者

小択出新都

第1話

 キーンコーンカンコーン。


 今日も授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。


 私は隣の席ですやすやと眠る、祐市ゆういちくんに授業が終わったことを告げる。


「ゆうちゃんゆうちゃん、授業、おわりですよー?」

「ん……。ありがとう、破神はがみ


 眠そうな目をこすって、祐市くんが起きます。

 祐市くんはあまり喋ることがなく、授業ではいつも静かに寝てるので、クラスでは目立たない生徒です。私も人のことは言えませんが……。

 でも、本当は知ってます。

 ゆうちゃんは、すごいんです!


 毎回寝ているのに、授業の内容は完全に理解しています。

 テストだってわからない問題はありません。途中で寝ちゃうから、成績は普通なんですけど。

 実は運動神経もいいんです。眠いから手を抜いてるだけで。

 メガネで隠れてるけど、それを取ったらすごくきれいな顔立ちをしています。そこらへんのアイドル顔負けです。

 そして話してみるととても面白いんです。


 でも、クラスの誰もそのことに気付いていません。

 幼馴染の私だけが知っている秘密です。


 毎回、授業が終わったら、ゆうちゃんに授業が終わったことを告げて、それから次の授業の準備をしながら、一緒に静かに過ごす。

 それが私の平穏な学校ライフでした。


 でもその生活は突如として終わりを告げたのです。


 奴らリア充たちの侵略によって……。



***



 トイレから帰ってきたとき、クラスにひとつの異変が起きていました。


 ゆうちゃんの席にひとだかりができていたんです。


「なっ、こいつすっげぇ面白いだろ!」


 クラスの中心グループに所属する男子のひとり、イケメンおもしろ系男子の佐藤くんが馴れ馴れしくゆうちゃんの隣に立ち、肩に手をかけます。


「別にそんなことないと思うけど」

「いや、さっきの発言はおもしろすぎだって! なのに顔は普通なのが、さらにおもしれー!」


 ゆうちゃんは冷静な表情で返しますが、周りのリア充たちはそれにも楽しそうに笑います。

 クラスで人気者の女子、瀬川さんがさりげない動きでメガネをとっていいました。


「やっぱり祐市くんってすごくきれいな顔してる。前から思ってたけど、本当にかっこいい」

「確かに悔しいけどイケメンだなぁ。負けたぜ!」

「ははは」


 メガネを取ったゆうちゃんの顔を見て、まわりの女子たちの頬が赤く染まります。


 男子のひとりが、机の上に開かれっぱなしになっていたノートを見て男子が言いました。


「えっ、ユウ、この問題解けたのか? ガリ勉の吉川でも解けてなかった問題じゃん! すげぇ! 頭もいいんだな!」

「ええ、ユウくんすごーい!」


 いつの間にか、ユウ呼びになり、ゆうちゃんを中心にクラスメイトたちは盛り上がっていきます。


「な、やっぱりこいつすげーやつだろ! ずっと前から思ってたんだぜ。ユウはおもしれー奴だって!」


(うるさいっ! そんなこと私は知ってます。とっくに知っていたんです……!)


 まるで世界で自分が最初にゆうちゃんの魅力を発見したかのようにいう、リア充たちに、彼らにはいっさい気づかれることなく空気のように隣の席に戻ってきた私は心中で彼らに毒づきました。


 だから嫌なんです。リア充どもは。

 ゆうちゃんが面白いことも。かっこいいことも。本当は頭がいいことも。私はずっと前から知っていたんです。

 彼らが知るずっとずっとずーっと前から。


 なのに彼らはそれを世界で自分が初めて発見したかのように振る舞います。

 世界を自分たちが中心に回ってると思ってるんです。そんな傲慢な奴らなんです……リア充という生き物は……!


 でも、もうダメです……。

 彼らに見つかってしまった以上、ゆうちゃんは私の手の届かない場所にいってしまいました。あいつらは傲慢で、身勝手で、そしてクラスの底辺の私の話なんか聞いたりしないんです。

 逆らえば空気の読めない奴として、一生、クラスのつまはじき者にされてしまいます。

 傲慢で野蛮で恐ろしい奴らなんです……。


 授業がまたはじまってゆうちゃんのまわりの人だかりが解散されて、授業が終わってすぐ、またゆうちゃんのまわりにはひとだかりができました。

 クラスで人気者の男子グループと、同じく人気者の女子グループです。

 クラスカースト最下位の私が、話しかける余地なんてありません。


「なぁ、ユウ、移動教室いこうぜ!」

「ん、いいけど」


 移動教室中でも、ゆうちゃんのまわりはリア充たちに囲まれ通しでした。どうやったのか班も彼らと一緒になっています。

 ゆうちゃんは完全にクラスの中心グループの一員になってしまいました……。

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