「死者、インゴルヌカにて」二次創作小説『10年ぶりの再会』

デバスズメ

サリーとの約束

 『10年前の約束を覚えていますか?もし覚えていたら、インゴルヌカ駅で会いましょう。サリーより』

18歳の夏休み、そう書かれた手紙を受け取った僕は、慌てて10年前の絵日記を引っ張りだして読み返した。約束を覚えているかと言われれば、恥ずかしいことにまったく覚えていなかった。だけど、一つだけ心当たりがあったのだ。ボクが8歳だった頃の日記だが、”約束”のことはしっかりと書かれていた。

『きょうで、サリーともさよならです。いっしょにあそべて、たのしかったです。でも、10年ごに、ぜったいにあおうねと、やくそくしました。ボクは、めじるしに、ぼうしをかぶるとやくそくしました。サリーは、赤いリボンをすると、やくそくしました。ぜったいに、わすれません。』

絵も描いてある。キャップをかぶった僕と、白い厚手のワンピースを着た長い金髪の女の子。この子がサリーだろう。日記を読み返すと、サリーと遊んだことばかり書いてある。病弱で家からあまり出られず、いつも外で遊んでいる僕を羨ましそうにしていて、でも笑顔は可愛くて……10年前のボクは、どうにもサリーが好きだったらしい。

 10年前の夏休み、僕は家族で一緒にインゴルヌカに行っていた。僕の住む町に比べれば、インゴルヌカは涼しい避暑地だったのだ。そこで出会った女の子がサリーで、夏休みの間ずっと一緒に遊んでいたのだった。

 しかし、いくら10年前とはいえ、まさかこんな大切なことを覚えていなかったとは。これでは、ずっと忘れずに待っていたサリーが、あまりにも可哀想だ。サリーは、ずっとの再開を待ち望んでいたに違いない。だったら、僕は、それに答えなければいけない。

「……よし、行こう」

僕は自分に言い聞かせるようにそう言うと、10年前の日記を荷物に詰め込んで、ハイスクール最後の夏休みの数日を使ってインゴルヌカへ向かった。死者の町、インゴルヌカへと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る