僕らの『魔法』(未完)
梯子田ころ
現実的な、ある日のこと
空気が寒さで凍てつく、冬のある日。
僕は高校に体調不良による欠席を伝え、布団へと戻る。
もちろん、この体調不良は学校をサボる為の嘘だ。実際には、身体はいたって正常、まったく隅々に至るまで異常なし。
現実的な、現実の一日の始まり。
両親は共働きで、どちらも会社では重要なポストをに就いており、僕が普段通りに起きたとしても、もうすでに出かけてしまっている。姉が一人いて、上京して一人暮らし。かなりレベルの高い上位大学に進学していった。
僕はこの閑静な、閑静すぎる住宅街の一軒家で、一人ぼっちだ。僕が程よく学校をサボる分には、誰にも咎められない。非常に現代的。
僕の高校は私立高校で、県内では中堅クラスにあたる。毎年、ほんの数名が国立大へと進んでいく。だから、というわけでもないが、かなり校則は緩いし、休みの手続きなど、事務室どまりで終わってしまう。少しばかり、事務室が事務的過ぎるのは悩みどころではあるが。
両親は教育熱心だった。姉は順調に県内トップの県立高校に進み、そして有名大学へと進んだ。両親は満足のいく結果を出したのだ。僕に対しても同じような道を歩ませようと、必死の努力を僕に対して行った。
地元で有力な実績を持つ塾に入れさせ、高い月謝を払い込み、成績が不十分であれば僕を怒鳴りつけた。
姉も僕をよく諭した。「私が中学生だった頃は、もっと努力したわ。寝ないことだってあったし、それは別に苦痛ではなかった。ねえ、貴方はいつも私を馬鹿にするけど、私、貴方より成績良かったのよ?」姉の存在は、僕に確かな劣等感を与えさせた。
結果、それは卑屈な少年を生み出し、現状に満足し更なる高見を求めない存在となった。
両親は、僕を見離した。僕に何も期待しなくなった。
だけれど、それは別に苦しくはなかった。むしろ僕は解放された、といっていいのかもしれない。両親の期待はそれほど重いものだった。
両親が僕に最後にかけた期待は、「せめてまともな大学は出て、それから好きにしてくれ」
高校の入学式の帰り道で父親にかけられた言葉だ。
僕は入学以降、大した努力はしなかったが、まずまずの成績は得ている。先学期の学期末テストでの順位は、トップ10には入っている。
そして今、二学期の学期末テストを一週間前に見据えたある日だ。今週の授業は、テスト範囲を終えてしまっているので、殆ど自習になってしまう。
率直に言って、そんな日に学校に行く意味はない。
非常に現実的な、現実の判断。
布団の中で、スマホを開いてゲームをやっている・・・。
今週は、ずっとこんな調子だ。
朝がやってきて・・・、目覚めると両親はもう出かけていて・・・、スマホを適当にいじって・・・、腹が空けば飯を食べて・・・、夜になると、両親が帰ってきてまた飯を食って・・・。そして就寝。
まったく、人が生きる意味について考えさせられる。
とはいえ、家に閉じこもっていても、この人間社会の巨大さ、洗練さには驚くことが多い。僕は、小さくはあるけれど、この社会の歯車の一員なのだ。
精密に設計され、築かれ、規則正しく動き続けるこのシステム・・・。実に人間的。
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