彼女はどんなに辛い思いをしたんだろうか?

僕は朝起きてからソワソワしていた。

食事がのどを通らない。

何をしていても、そのことばかり考えていて、全く意識を集中できない。

本当に、僕を探している?

そんなこと、どうでもいいというわけにもいかない。

トモキはカズネちゃんに連絡をとり、今日、この街の中心の駅で、カズネちゃんと僕が会えるようセッティングしてくれた。

カズネちゃんには僕が行くとは言ってない。なんだか出会い系サイトで待ち合わせたような気分だが、それでもカズネちゃんは絶対来ると約束してくれたらしい。

会うのは午後一時、この街の中心駅。

僕の最寄り駅から、電車で10分。トータル20分を移動。

家を出ると決めたのは12時半。十分に間に合うはずだ。

十分に間に合う・・・十分に間に合う。

ケータイもテレビも飽きた。

・・・出かけるか。

そんなふうにして、時間をつぶした。

何をしていたのかもう覚えていない。

本屋に入った気がするし、家電量販店に入った気もするし、喫茶店に入った気もする。

意味も無く百貨店をうろついた気もする。

あんまり面白いモノは売ってなかった。

とにかく、気がついた頃には12時55分になっていた。

あまりにぼーっとしすぎていた自分を恥じ、後悔した。

でももういいんだ。早くいかなきゃ。



カズネちゃんだ。

僕は一目みた瞬間にわかった。

カズネちゃんだ、間違いなく。

カズネちゃんだ・・・。

だいぶ、10年前とは様子が違っていた。

髪色は明るい茶髪、服は派手すぎず、地味すぎず。

ごくごくありふれた女子大生、といった感じ。

でも、わかる。カズネちゃんだ。

カズネちゃん・・・。

遠目で見てもカズネちゃんはやはり可愛かった。

軽蔑されたらどうしようかと不安になる。

でも、いいんだ。

謝ろう。

約束がどうとかっていう次元はもう終わってる。

謝ろう。

僕は隣から、とんとん、と肩を叩くことにした。



カズネちゃんは僕の方を振り向く。

はじめ、驚いたような顔をするが、やがて全てを察したような顔をする。

「・・・シュウ君、なんだね?」

「そう。赤城シュウ。・・・久しぶり」

「10年ぶりということになるよね?」

「そうなる・・・、本当に、本当に、心の底からゴメン」

「ううん。謝らないで。私も謝らなきゃいけないの」

「君が?なんで?」

「聞いたでしょう?トモキのこと。私はあなたを信じなきゃいけなかった。でも、駄目だった。負けちゃったの。自分の弱さに」

「僕も謝らなきゃいけない。君に連絡をとらなかった上に、ある一人の女の子を好きになってしまったんだ。君を裏切ったんだ。」

「・・・今は違うんだよね?」

「もちろん。まったく違う。」

「じゃ、おあいこだよね?」

「それで、いいの?」

「いいわけないじゃない?責任は重大。誰がこの責任を処理してくれるのかな?」

「僕しかいない」

「わかってるじゃない」

「僕も、色々成長したんだ。君には迷惑をかけた」

「ねえ、私、この十年本当に辛かったんだよ?」

「ほんとうに、ゴメン。許してもらえないのはわかってる。」

カズネちゃんは僕の胸に飛び込んできた。

周りの景色を忘れた。

どうなったんだろう・・・みんなが見ている気がする。でも、そんなの気にならない。

僕らは固く深く強く抱き合った。

彼女の体は軽かった。けれど重みがあった。

彼女はどんなに辛い思いをしたのだろう。

彼女はどんなに苦しかったのだろう。

彼女はどんなに理不尽な目に遭ってきたのだろう。

全部、全部、僕のせいだ。

僕は彼女をもう二度と裏切らない。

何があっても僕は彼女の心のそばにいなければならない。

彼女はこんなにもひどい目にあってきて、僕を受け入れてくれる。

僕は、彼女を大切にしなきゃいけない。

誰のモノでもない、彼女と僕。


ずっと、一緒に居たい。




僕らは自然な流れとして、キスをした。




「手、繋いで帰ろう?」

彼女は手を差し出す、僕はクスリと笑う。

「もちろん。だって思いが通じるものね」

「もう、シュウ君てば・・・」

彼女は少し赤くなる。



僕らには、話すことが山ほどあるんだ。

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