第11話「この次に会った時は」

 そして翌週にまた神崎さんと会って、また神社へお参りに行った。


 その帰り道、大通りを歩きながら「こんな頻繁にお参りに来てるのはなにか理由が?」って尋ねてみた。


 すると 

「以前はここに来るのは年に一度くらいだったんですけどね。でも数ヶ月前に亡くなった弟が夢に出てきて「ここにお参りしたら目が良くなるから」って言ってくれたんです」

「それでですか」

「ええ。あれはただの夢じゃない、と私は思うんです。もしかしてお伽話みたいに突然目が良くなるとか、それとも偶然いいお医者様に出会えるのかなって思ったりしましたけど、まだ何もないです」


 神崎さんは俯きがちにそう言った。

 僕はどう言っていいかわからなかった。下手な慰めなんか失礼だろうし。


 そう思っていたら神崎さんが顔をあげて僕の方を向き

「あ、ひょっとして……」

「ん?」

「い、いえ何でもないです」


 そう言って横を向いた。

 ちょっと顔が赤いけど、どうかしたのかな?


 その後も彼女とは都合がついた時に会っていた。


 僕が駅まで迎えに行って神社まで一緒に、と同じコースだったが、最初は遠慮がちだった彼女はだんだんと遠慮がなくなってきて

「せっかく来たんだからどこか連れてけ」と言ってきた。


 じゃあどこに行こうかな、と思ったら

「この辺にいい入浴施設があるって聞いたんでそこがいいかなあ」

「ん? そんなの知らないけどなあ?」

「え~? たしか泡がいっぱいで可愛い女の子が裸で背中流してくれるとか」

 僕は思わず彼女にデコピンしてしまった。


「それ泡風呂だろーが! たしかに裏手にあるが行っちゃダメ!」

「冗談なのに~、ふえ~ん」 

 何かわかりやすい嘘泣きしていた。


 しかし素で他人にツッコミ入れたのって、これが初めてだったな。


 まあそれは置いといて、僕達は商店街にあるファッションビルを見て周ったり(はっきりと見えてはいないが雰囲気を感じたいという事らしい)その後は駅前のファーストフード店でお茶したりとか。

 なんかデートみたいだったな。


 場所の選び方はしょぼいかもしれないけど。



 そして帰り際に

「あの、私の事は『みっちゃん』って呼んで。篠田さんの事は健ちゃんって呼ぶから」

 そんな事を言ってきた。

 健ちゃんか、そう呼ばれるのは子供の頃以来かな。


「それじゃみっちゃん。またね」

「うん、健ちゃん。また」


 と、まあなんだかんだとしていくうちに次第に彼女に惹かれていった。

 

 それから何度も会っては神社へ行き、帰りに何処かでをしていくうちに二ヶ月が過ぎた。


 それはちょうど試験も終わり、家の近所にあるスーパーでバイトに勤しんでいたある日の事。

 一区切りついて休憩していた時、ふと思った。


 そうだ、この次に会った時は……。

 

 と、その時辺りが揺れた。



 それはあの大震災だった。



 その後は片付けやらなんやらに追われた。



 夕方にとりあえず終わった後、チーフから今日はもう上がるように、明日はとりあえず予定通りに出て来て、その時に指示するからという事だった。

 

 そして僕はスーパーを出た後、ズボンのポケットから携帯を取り出してみっちゃんに電話したが


「くそ、だめだ」

 電波が混雑して繋がらなかった。

 それならみっちゃんの所へ直接行こうと思ったけど足がない。

 電車も動いてないし歩いていける距離じゃない。

 タクシーも見当たらない。


 仕方ないので家に帰る事にした。




 揺れて棚から落ちた本やら倒れていた冷蔵庫を戻し、散らかっていたものを片付けて気がついたらもう二十一時だった。


 食べ物はまだあるな。

 うーん、火を使ってまた揺れたら、そう思っていたら電話が鳴った。


「健一君大丈夫!? 怪我とかしてない!?」

 伯母さんからだった。

「あ、大丈夫だよ。なんともない」

「そう、よかった」

 伯母さんは電話の向こうで胸を撫で下ろしているようだった。


「ねえ健一君、テレビで見たけどそっち大変でしょ。うちに避難してきたら?」

「いや、大丈夫だよ。この辺りは言うほどでもないし」

「あの子もそう言ってたわ。まあ実際そこにいる人が言うなら」

「あの子って兄ちゃん? あれ、こっちに来てるの?」


 兄ちゃんとは伯母さんの息子さんで、僕の従兄の事。

 僕より一つ上でこの時は二十一歳、僕と違って高校を出てすぐ就職したので社会人三年目だった。

「ええ。出張で千葉の方に行っててね、三日後には帰るって」

「そうだったんだ。こんな時じゃなかったらうちに来てほしかったな」

「そうね。そう言っておくわね」


 その後しばらく話し


「それじゃ叔母さん、おやすみなさい」

「おやすみ、気をつけてね」


 電話を切った後、留守電が入ってるのに気がついた。


 みっちゃんからだった。

 電話してくるって事はどうやら無事だったみたいだ。


 どうしよう、もう夜も遅いけど、と悩んだが無事だって言っとこうと思い、電話をかけた。


「はい、もしもし」

 あれ、声が違う?


「あの、神崎美幸さんの携帯ですか?」

「そうです。あ、私は美幸の姉です」

「お姉さんでしたか。夜分にすみません。篠田と申しますが、美幸さんは?」

 そう聞くと、しばらく間が空き

 

「美幸は……」


 え?

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