第17話「心を強く持って進めば」
駅に着くと改札前に多くの人だかりができていた。
案内板を見ると事故が発生したので電車が止まっているとの事、復旧は今のところ未定って、こんな時に……よし。
僕はタクシー乗り場へと走った。
この時間帯は道路が混むが、動かないよりマシだ。
乗り場に着くと幸い並んでいる人がいなくてすぐにタクシーに乗れた。
そして運転手さんに行き先を告げ、できるだけ急いでもらえないか頼んだ。
「なるべくそうするけど、ん?」
運転手さんが振り返って僕の顔をじっと見た。
「え、あの、僕の顔に何かついてますか?」
「いや、君もしかして震災の時にね、古河まで同年代の女の子と相乗りしてたお兄さんじゃ?」
え? あ、ああ!?
「もしかしてあの時の運転手さん!?」
「やっぱりか。そうだよ、また会えたね」
「え、ええ。まさかまた会えるなんて」
「そうだな。……っと、急いでたんだったね。よし、もう出発するよ」
「あ、はい。お願いします」
その後タクシーの中では俯いてずっと祈ってた。
今まで真剣に神様や仏様などに祈ったことない、こんな時だけ都合がいいのはわかってるけど、どうか……。
でも、さっきは迷わないって言ったものの、もしも駄目だったら。
そう思った時
「お兄さん、諦めたら駄目だよ」
え?
「心を強く持って進めば奇跡が起こる事もあるんだよ。今みたいにね」
顔を上げると運転手さんはバックミラー越しに僕を見ていた。
「奇跡が起こるって? あの」
「まあ、いずれわかるよ。……さ、着いたよ」
「え、もう着いたって? あ、本当だ」
窓の外を見るとたしかに目的地の病院だった。
気づかなかっただけでそんなに時間が経ってたのか、と腕時計を見ると出発してから二十分も経っていなかった。
ずっと俯いてたからどこを通ったかわからないが、空いてる時間帯の高速道路を通ったとしても倍以上の時間がかかるはずなのに、これっていったい?
「ほら、もたもたしてないで早く行きなさい」
僕は運転手さんに急かされて慌ててタクシーから降りようとしたが、お金払ってないのに気づいてズボンのポケットから財布を取り出そうとしたけど
「お金はいいから、早く行きなさい」
運転手さんは手を横に振って言った。
「え、でもそれは」
「代金ならあの時ホントはタダにしたかった分でチャラだよ」
「へ?」
「君の言葉は今でも胸に残ってるよ。『こんな時だから助け合わないと』ってね。さ、早く彼女さんのところへ行きなさい。意識不明でも君を待ってるはずだから」
運転手さんは笑みを浮かべながらそう言った。
「は、はい! ありがとうございます!」
お礼を言ってタクシーを降り、病院の玄関に行こうとした時ふと気づいた。
あれ、僕運転手さんに美咲さんの事は言ってなかったよな?
そう思って振り返ると、タクシーはもういなかった。
まるで最初から何もなかったかのように。
え、え?
すぐに発車したとしても音くらいするよな?
でもそんな気配はなかった。
僕は狐につままれたような思いだった。
……いや、そうか。
心を強く持って進めば、か。
……ありがとうございました。
僕は心の中で改めてお礼を言った後、病院の中へ入った。
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