第6話「何度忘れようとしても・・・・・・」

「ふう」

 昼休み、僕は社員食堂で定食を食べていた。

 うちの会社は7階建ての鉄筋コンクリートビルで1、2階はコンビニなどのテナントが入っていて3~5階は月極の立体駐車場。6~7階が会社のフロア。社員食堂は7階にある。

 窓の外を見ると青空が広がっていい天気だ。この天気なら屋上から富士山が見えるな・・・・・・何故かと言うと周りにはうちの会社より高い建物がない、てかほとんど住宅地だから。



「はあ・・・・・・」

「ちょっと健一君、何ため息ついてんのよ?」

「あ、香織さん。いや別に」

 声をかけてきたのは高橋香織たかはしかおりさん。

 僕と同期入社で同い年、経理部の事務をやってる女性だ。

 ウェーブがかったロングヘアーで美人でスタイルも抜群、だから言い寄る男性は後を絶たない。

 ちなみに名前で呼びあっているのは、最初に会った時「名前で呼んでよ。あたしもそうするから」と彼女が言ったから。


「ふーん? まあいいわ。ねえ健一君、今度一緒にカラオケでも行かない?」

 香織さんが顔を近づけてきた。

 またかい。これで何度目だよ。

「遠慮しとくよ。歌苦手だし」

 僕がいつものように断りを入れると

「この男は・・・・・・せっかく美人のあたしが誘ってんのに、いつもいつも!」

 香織さんが僕を睨みつけてきた。


 本当はその上から目線の態度が嫌なんだよ。

 いくら見た目が良くても中身が良くない奴なんかと遊びに行きたくねーよ。

 と心の中で言った。


「まあ、気が向いたらね」

  

「あっそ! じゃあね!」

 香織さんはぷりぷり怒りながら去っていった。


 しかし彼女も僕なんか誘うより他の人と行けばいいのに。まったく何考えてんだか。


 ふう。

 空はあんなに澄んでいるのに、僕の心は・・・・・・


「ふん、何よまったくもう。ちょっとは振り向いてよね」


 それからの僕は何をやってもダメだった。

 そして気がつけば美咲さんの顔が目に浮かぶ・・・・・・

 何度忘れようとしても・・・・・・

 

 道端で花を見てはあの店を思い出し・・・・・・


 美咲さんと似たような人を見ては胸が痛くなり・・・・・・


 苦しいよ・・・・・・


 ・・・・・・僕の心から消せるなら消したいよ、この想いを。


 でも消えやしない。ならいっそ


 いや・・・・・・


 

 そんなある日の仕事帰り

 気が付くと僕は「リーフ」の前に来ていた。


「え、何で? 僕はたしかに家に向かって歩いてたはずなのに?」


 そして店頭を見ると、そこに美咲さんがいた。

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