第4話「それを望んではいけないんだ」

 仏壇に供える花買いに行かなきゃなあ。

 あ、そうだ、リーフに売ってるかな?

 そう思って行ってみる事にした。


 店に着くと数人のお客さんが花やアクセサリーを眺めていた。

 レジの方を見ると、美咲さんは手に買い物カゴを持った年配の女性と話していた。


「あ、いらっしゃいませ~」

 美咲さんが僕に気づいて声をかけてくれた。

「あら、健一君じゃないの」

 美咲さんと話してた女性も話しかけてきた。

 あ、この人近所の肉屋のおばさんだ。


「こんにちは。おばさんも何か買いに? てかいつも来てるの?」

「ええ。花を店に飾ったり造花を贈り物なんかにしてるの。あ、店先にある飾りは美咲さんが作ったものよ」

 おばさんはにっこり笑ってそう言った。

「あ~、あの花輪の事か。あれも美咲さんが」

「ええそうよ。それにうちだけじゃなくてね、ここら一帯のお店は皆ここでお花や飾りを買っているのよ。皆美咲さんのお祖母さんにはだいぶお世話になっていたしね」


 聞けば美咲さんのお祖母さんはとても気さくで明るい人だったそうだ。

 そしてお客さんの悩みなども聞いてアドバイスしたり、困っている人を見ると放っておけずいろいろ助けたり。

 大勢の人が今でも感謝していると。

 

 聞いていて思ったが、もしお祖母さんが長生きしてくれていて、どこかで僕と出会っていたらもしかしたら、なんて考えてもしかたないか。


「ところで健一さん、また来てくれたんですね~」

 美咲さんが嬉しそうに言ってくれた。

「あ、はい。あの、仏花ってありますか?」

「え~? 天竺にいるのかなあ?」

「そりゃブッダ!」

 あんたは何かボケなきゃ気がすまないんですか。


「わかってますよ~。仏花ですね。こっちにありますよ~」

 美咲さんがそう言って菊の花を見せてくれた。

「じゃあ美咲さん、あたしはこれで」

「あ、はい。また来てくださいね~」

 おばさんはそう言って店を出ていった。


「健一君ってあんなふうにも喋れたのね。もしかして美咲さんのおかげかしらね?」



「菊の花って一年中手に入りやすいから、仏花として使われているという話もありますよね」

「そうですね~、でも実は」


 しばらく話していると少し長めの髪で目がやや鋭く、背は小柄、真面目そうな感じで、ブレザーを着た中学生くらいの男子が店に入ってきた。


 そして棚に置かれているアクセサリーを見つめながら立ち尽くしていた。

 よく見ると難しい顔していて、何か悩んでいるようだ。


 すると美咲さんが彼に近づいて話しかけた。

「あの~? 何かお探しですか~?」

「え? あ、いやその」

 ん、彼何か言い淀んでるな?

「えーと、贈り物ですか~?」

「え? あ、はい」

「でしたらこれなんかどうですか~?」

 美咲さんがそう言って薦めたのはピンクの可愛らしいブローチだった。

「これは胡蝶蘭を象ったものなんですよ~」

「へえ、でも気に入ってくれるかなあ?」

「大丈夫ですよ、あのね」

 あ、美咲さんが彼に何か耳打ちしてる。

 

「え? はい、じゃあこれください」

 彼はブローチを買うことにしたようだ。

 しかし美咲さんは何を言ったんだ?

「お買い上げありがとうございました~。・・・・・・頑張ってね」

「はい。どうもありがとうございました」

 彼は綺麗にラッピングしてもらった箱を持って笑顔で帰っていった。


「あの美咲さん、彼に何を言ったの?」

「はい、ピンクの胡蝶蘭の花言葉を教えてあげたんです」

「ん? それだけ?」

「ええ」

「え~と、ピンクの胡蝶蘭の花言葉は『あなたを愛してます』・・・・・・なるほど、そういう事か」

「ふふ、そういう事ですよ~」

「しかし美咲さん、よく彼がそう思ってるって分かったね」

「あのくらいの男の子が女物のアクセサリー見てたのですから、ある程度はわかりますよ~」

「あ~、なるほど。僕そこまで見てなかったよ。彼、うまくいくといいね」

「きっといきますよ~」

 美咲さんは微笑みながらそう言った。


「じゃあ僕はこれで」

「はい、また来てくださいね~」


 帰り道、彼ならきっと上手く行くだろうなと思いながら歩いていた。

 僕もあの子のように・・・・・・


 いや、それを望んではいけないんだ、僕は。

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