第一章 第二話 ~ワルプルギスの夜~ 前篇
俺は家にギヤとぺカドルを残して、急いで入学式会場まで向かった。突然現れた可愛いロリ死神たち、突然の仮契約、突然のタイムリープと驚きの三連続。また俺はあの悪夢も気になり始めていた。
ロリ死神たちがもしも他人にも見えたら不味いとうことから、保険として家に放置しておくことにした。彼女らは今頃、淫らな姿でイチャいついてるところだろう。彼女らをあんなHな恰好のままに会場に連れて行くと俺の人格が疑われるし、変態としてのレッテルが張られてしまう。それに久々に会う親や友達にどんな顔されるだろうか。想像するだけで悍ましい。
そんな色々あってパンクしそうな気持ちを押さえながら、俺は入学式会場のドームまで着いた。ドームの人盛りは、さすが国立総合大と言わんばかりの人の量。まさに、人がゴミのように見えるといったところだ。
「こんなにもいるんだよなぁ。俺の同期。さぁ、ここから何百人留年するかねぇ。」
入る当初は大学では単位が降ってくるだの、大学は天国だの、そんな甘い話を先輩から聞いていた。俺は大学に入ったら思いっきり遊んでやろうと思っていた。しかし、現実は違って、丁度俺たちが入学した頃から国の要請による大学の教育改革によって、学生たちは単位取得のために苦労する奴が続出したのだった。
俺はニヤニヤしながら、彼奴は留年、彼奴は中途退学だの、人の不幸せをカウントしていた。
―――すると、後ろから急に飛び蹴りを俺に食らわす奴がいた。
「何、ニヤニヤしてやがる。気持ちワリィ。」
「っ痛い。」俺は即座に後ろを振り向いた。
飛び蹴りを食らわした張本人は、小さいころ頃からの大親友、岡崎涼だった。まさか、此奴と大学まで一緒になるとはなと再認識しながら、話を続けた。
「おお、お前、内部進学出来たんだな。成績良くなかったろ?」
「それはこっちのセリフだ!朝から嫌味か!お前は!俺は陸上の全国強豪校蹴ってこっちに来たんだ。」
「下手に学歴意識するなよぁ。勿体ない。お前なら陸上でオリンピックだって夢じゃなかったんだぜ。そっちのほうが後世に名を残せたのに。」
涼はスポーツ万能で勉強も出来る。端正な顔立ちで男女諸共人気である。まさに学園の鏡と言っても過言じゃない。現に岡崎涼ファンクラブなるものが学内に存在し、瞬く間に涼の使徒なる12人の女子たちよって布教が広がっていった。付属校出身の中で此奴を知らない奴はいないと言ってもよい。
涼はその話を逸らしながら、改めて言った。「そんなことより、これからもよろしく頼むぜ。」
「ああ、お互い、この大学に入れて良かったって思う。これからもよろしく。」
俺は涼と再び友情の杯を交わした。懐かしいがこれで2回目だ。
「おお、お二人さんお熱いことですねぇ。ホントにデキてるんじゃないですか?」
涼は隼人に飛びかかり、「隼人、オメェ、ふざけんな!そんなんじゃねぇーよ。」と反撃。
俺は続けて言った。「隼人、お前もここか。」
隼人はクールに涼「お得意の飛び蹴り」をかわしながら言った。
「当たり前だろ~。前身の旧制高等学校時代から清宮家は代々ここって決まってるんだ。」
「ホントにすげえなー。幼稚園からここだろ?」
「ああ、特に付属小学校は酷かったな。まるで少年院だ。思い出したくもない。」
今さっきまでキーキー言っていた涼が思い出したかのように言った。「ああ! 小学生の教育カリキュラムで留年制度あるのってウチだっけか。」
俺と涼に関しては付属高校からの内部進学者のため、あまり小学校と中学校に関しては知らない。だからこそ、生きた化石のように珍しいのだ。隼人とは涼と同じく高校時代陸上部の部員として仲良くなった。
「ああ、小学から中学まで全寮制。ずっとみっちし勉強三昧だったな。せっかく入っても辞めていくやつも多かったしな~。勉強でついていけなくなるっていうか、集団行動が出来なくて辞めて行った奴の方が多いかったような気がする。」
まるで何処ぞの軍隊を辞めた苦労多いオッサンの経験話を聞いているような、そんな恐怖に駆られる話だった。相反して、付属高校はこの監獄のような学生生活と違って、それなりの自由が与えている。これは『寛大なる自由』という付属高校独自の学風の影響がある。60年前に学生運動で授業をエスケープする学生が続出し、悩みに悩んだ学校関係者が受験校ではなく本来の学風の下、生徒を育てようといった教育方針に変わったのだった。
大先輩たちのお蔭で、生協に入れば、安くマンションを借りれて、俺みたいに呑気に一人暮らしも出来る。確かに高校では新生(いわゆる高校からの部外進学者)は勉強について行くことが厳しい。入学しても、大学まで進学する過程において、希望の学部に入学するにはそれ相応の努力がいる。内部進学出来ずにワンランク下の大学に行く奴だっているのだ。
しかし、旧生(幼稚園や中学校からの内部進学者)たちは、やはり一味も二味も違う。中学3年生で高3までの受験科目をマスター。そして新生とはカリキュラムが違い高校3年間はひたすら全国主要大学の問題演習と大学教授による発展授業など、選りすぐりのエリート集団だ。
また、学内では新生と旧生での差別化もあり、旧生しか身に付けることを許されていないものもある。『Liberal arts』の頭文字の“L”から由来する通称『L章』を付けることが許されているのである。なお、L章を付ける位置は校則で規定されており、男子は学ランの首元。女子は胸元となっている。誇り高き旧生はもちろん全員が付けており、廊下で新生とすれ違う時、やはり一目置かれる存在になっていた。
旧生は文系では英語で弁論大会、理系では課題研究等、早期から自分の好きな学問に手を伸ばせ、着実に知識人として研究者として、力をつけていくことが可能である。
―――まったく俺と大違いなイケメン野郎だ此奴は・・・。
清宮隼人には名家出身である前に、そういう修羅場を乗り越えて来たからこそあるプライドというものがある。彼の言われなきエリート意識が彼をそうさせたのだろう。
「ところで隼人、お前、学部どこなんだ?」俺は知っていたが、一応聞いておいた。
「俺か?政治経済だよ。」
「うわぁ、マジかよ。めちゃめちゃエリートじゃねーか。」と驚いてみる俺。
「すげーな。やっぱ陸上部は質実剛健にして清廉高潔じゃねーとな!」涼は自分のことのように喜んでいた。
この大学の政治経済学部は卒業生に著名人やキャリア官僚も多く、政界の他、様々な業界に太いパイプがあり、政治経済は人脈の宝庫と呼ばれている。この学部に入れば将来安泰といったところだ。
「ところで、お前は何処なんだ?どうせギリギリ内部進学だから、哲学学部インド哲学科か? 」
隼人は完全に俺をおちょくっていた。
「ちげーよ。俺は理学部だよ。俺は勉強は苦手だけど、滅茶苦茶努力したんだぜ。」
「電子も電気も分からないお前が、理学部か~。赤点ラッシュの低空飛行なのに奇跡だな。」という始末。確かに入学式の頃、隼人とこんな話をしたがさすがに2回目はカチンとくる。
涼が言った。「此奴さぁ~。隼人には希望通るまで言うなっていってたんだよ。下手したらインド哲学だったからなぁ。あはは。」
俺は照れ臭そうにいった。「そういうお前も、元治大のオファー捨てて、結局俺と同じ理学部に来たじゃねーかよ。」
「それはお前が内部進学出来なかったらの話だろ。てか、おまえもここ落ちたら元治大行くって言ってたじゃねーか。」
そうして、恐らく春休以来の友人たちと暫く他愛のない話を喋っていた。
あと入学式開始まで30分はある。人の多さから他の友人や親を探せない。
人ごみの中、キョロキョロとしていると、戦慄が走った。
あの悪夢に出でいた謎の美少女が、いたのだった―――。
―――なんでだ?
―――あれは夢じゃなかったのか?
俺は気が付くと無意識にその娘の所まで走って行っていた。
涼や隼人が何か言っている。でも、それどころじゃない。
タイムリープして、今までずっと同じことが起きていた。しかし、あの娘との再会は今までと違う。俺はそう強く確信していた。なんせあんな可愛い女の子がいたら、俺は最初っから目を付けていたし、覚えていたと思う。
―――俺にはたった一つ確かめたいことがあるんだ。
たった、一つだけ。そうたった一つだけ。
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