12-9


 つまり、答えは簡単だ。



 正義の味方は、狙いを俺だけにしぼっている。


 それは作戦として、非常に真っ当と言えるだろう。組織の頭である俺を倒せれば、確実に動揺を誘えるし、その勢いのまま、今後の戦いも優位に運べるかもしれない。


 いや、もしかしたら、俺という総統を失うことで、悪の組織そのものが瓦解がかいして、全てはおしまい。正義の味方が大勝利! なんてことも十分にあり得ると、向こうが考えていたとしても、なにもおかしくはないだろう。


 というか、そう思っていてくれていないと、こっちが困る。


 なぜなら、正義の味方が、そう思わずにはいられないように、俺たちはこれまで、時間をかけて、じっくりと、追い込みをかけ続けてきたのだから。


 そのかいもあって、この場における標的は、俺一人となった。


 ならば、これからどうすればいいのか?


 そう、答えは簡単。


 俺一人で、この状況を、ひっくり返してしまえばいい。


 それだけで、正義の味方は、思い知ることになるだろう。



 俺という存在には、どう頑張っても、勝てはしないのだと。



「さあ、それではせいぜい……、足掻あがいてみせろ!」

「くうっ!」


 まずは、先ほどから油断なく、こちらの隙を虎視眈々こしたんたんと狙っていた黒い改造人間とメタルヒーローの二人組に向けて、俺は左右の手に握っていた武器を、それぞれ赤いレーザーを放出したままの状態で、思い切り投げつける。


 もちろん、そんな攻撃は、あの二人が持っている輝く刃によって、あっさりと切り払われてしまうけれど、それで構わない。


 大事なのは、厄介なあの二人を、一瞬でも足止めすることだ。


「そら、まずはお前だ、マインドリーダー!」

「ぐ、ぐおおおおお! ちょ、ちょっと待て……!」


 その隙を狙って、俺はとりあえず、手近てぢかにいた裏切り者……、調子に乗った津凪つなぎに向けて、瞬時に接近し、とりあえず何発がぶん殴ることで、奴が操作している巨大なパワードスーツの外装を粉砕し、剥き出しのフレームを、思い切りひん曲げる。


 さて、これでもう、このバカはまともに動けない。


「ははははっ! そらそら、さっきの威勢のよさは、どこに行った!」

「う、うわあああ! や、やめ、がごふっ!」


 というわけで、後はもう、サンドバック状態のパワードスーツを、気の向くままに殴りまくって、その中心で操縦している津凪ごと、コンパクトにしてやる。


 さすがに頭がカラッポなこいつでも、小さな箱に押し込んでやれば、圧縮されて、密度が増して、少しはマシになるのではないだろうか。


「くっ! させるか! リボル……、なっ!」

「そらよ! プレゼントだ!」

「うわあああっ!」


 なんて、ちょっとした実験に挑もうとした俺を制止するように、黒い改造人間が、こっちに駆け寄ろうとしているのが見えたので、そちらに向けて、ボロボロになったマインドリーダーを投げつける。


 まあ別に、津凪の裏切りについては、そんなに驚くようなことではないというか、こいつなら、このくらいやるよなという妙な納得感があるので、特に怒っているわけでもないし、これくらいでいいだろう。


 あんな奴を仕置きするより、今は大事なことがある。


「ほら、隙だらけだぞ!」

「ちいっ!」


 高速で吹っ飛んで行った津凪も、一応は正義の味方の仲間だと思ってくれたのか、さすがに邪魔だと斬り捨てるようなことはせず、黒い改造人間は、その動きを止め、かなりの巨体を誇るマインドリーダーのパワードスーツを受け止めてくれた。


 うーん、優しいなぁ。


 というわけで、俺はその優しさにつけこみ、即座に魔方陣を展開し、大きな爆発を起こすことで、黒い改造人間を、マインドリーダーごと吹き飛ばす。


「どうした、どうした! そんなものか、正義の味方!」

「くうっ……! ひるむな! 退くな! 押し切られるぞ!」


 さらにたたみかけるため、俺は無尽蔵に魔方陣を高速展開し続け、さらなる大爆発を連続で繰り出し、先ほどから、こちらの様子をうかがい、隙あらば乱入してこようとしていた他の正義の味方たちを、豪快に薙ぎ払う。


 最初の爆発で吹き飛んだせいで、マインドリーダーの下敷きになってしまった黒い改造人間を救出しようとしていたメタルヒーローが、あきらかに動揺した仲間たちにげきを飛ばすが、どうやら辺りに響く爆発音のせいで、上手く伝わらないようだ。


 彼の言ってることは、まったく正しいので、非常に残念な限りである。


「くらえ! この俺様の、雷のごとき飛び蹴りをっ!」


 しかし、逃げ惑う正義の味方の中から、なにやらわめきながら、こちらに向かって、凄まじい速度で突っ込んで来た影が一つ……。


 まあ、正体は丸わかりで、それはマーブルパープルこと、雷電らいでん稲光いなみつなわけだけど、馬鹿にはできない。奴の言葉通り、その素早さは、本物だ。


 まるで稲妻のように、複雑な軌道を描きながら、紫の戦士は、俺に迫る。


「――そこだっ!」

「な、なんだとっ! ぐべらっ!」


 とはいえ、どれだけ早くても、見えてるものは見えてるし、見えているのならば、対応することは簡単というわけで、空気を切り裂くような、奴の飛び蹴りに合わて、俺はカウンターで蹴りを放って、マーブルパープルの顔面に叩き込み、そのまま足を引っかけるようにして、地面に叩きつける。


 このくらいなら、お茶の子さいさいというやつだ。


「甘いな。雷のじゃ、遅すぎるんだよ」

「む、無茶苦茶なこと、言いやがって……」


 まるで、潰れたカエルのように、俺の足元に転がるマーブルパープルが、なにやら怨嗟えんさの声を上げているようだが、事実なのだから、仕方ない。


 確かに、奴は早かった。その速度は、完全に人間を超えていたし、正義の味方や、悪の組織という垣根かきねを取っ払い、全体で考えても、あれだけの加速とスピードの中で動けるような人材は、そう多くないだろう。


 とはいえ、それだけでは、俺には決して、届かない。


「それじゃ、見せてやろう!」


 しかし、そう言ってやったところで、こいつは納得しないだろうから、俺は実践をして見せて、分からせてやることにする。


 悪の総統としては、こうして自らの力を見せつけるのも、大事な仕事なのだ。


 まあ、見せつけるといっても、相手に見えるかどうかは、分からないけれど。


「これが本当の……、光速ってやつだ!」


 俺は気合を入れて、無限に近い命気プラーナを瞬時に引き出し、この全身にめぐらせながら、活性化した脳のスペックをさらに引き上げ、思考速度を極限まで加速させる。


 その成果により、まるでスローモーションのように、周囲の動きが、凄まじく遅く感じ始めたかと思えば、その一瞬後には、完全に止まって見えた。


 ここまで来たら、後は簡単だ。莫大ばくだいな命気によって、強引に引き上げた身体能力に任せて、肉体の動きを、この思考速度に合わせてしまう。


 ただそこにあるだけの空気が、まるで重苦しい壁のようにふさがるが、まったく構うことはない。動くために足りない分は、命気で補ってしまえばいいだけだ。


 この身にかかる反動と、周囲への衝撃波は、途切れることなく展開させ続けている魔方陣で相殺し、俺は自在に、まるで時が止まったような採石場を駆け巡り、近くにいる者だけではなく、この戦場にいる全ての正義の味方に、一撃を加えて回る。


 とはいえ、別に全力で殴るわけではない。というか、この速度で、不用意にそんなことをしたら、問答無用で、非常にグロテスクなことになってしまう。


 それでは、意味がない。意味がないのだ。


 というわけで、俺が優しく、でるようにして、彫像のように動かない正義の味方たち全員に触れるまで、まさに一瞬すらも、かからない。


 そう、それだけで、十分だ。


「――ふっ!」

「……がはっ!」


 そこにいたるまでの全てを解除し、俺の思考が元に戻った瞬間、この場にいる全ての正義の味方が、超速で回転しながら吹き飛んで行く様子が確認できた。


 まあ、本当に光速で触っただけなら、もっと甚大な被害が出てしまうのだけれど、そこらへんはしっかりと、加減はしている。ダメージは大きいし、即座には動けないだろうけど、誰も死んでいないし、それほど大きな怪我も、負ってないはずである。


 そこら辺の気遣いをする余裕は、まだまだ十分にあるのだ。


「い、いったい、なにが……!」


 しかし、ここまで頑張ったというのに、地面に倒れ込んだ正義の味方の皆さんは、なにが起きたのか分からないようで、突然の事態に、戸惑とまどうばかりだ。


 非常に無念である。


 そう、認識されない蹂躙じゅうりんに、意味はない。


 もちろん、それもケースバイケースだとは思うけど、少なくとも、今の状況では、誰が主導権を握って、好き勝手に暴れているのか、正義の味方が認識してくれないと意味がない。ここまで苦労したお膳立ぜんだてが、水の泡だ。


 今回の目的は、あくまでも、正義の味方の皆さんに、俺という悪の総統には、もう絶対に、なにがあっても、例え天地がひっくり返ろうとも、勝つことができないと、自覚してもらうことにある。


 そのために、こうしてわざわざ、みんなにも協力してもらって、場を整えたのだ。


 例えば、この決戦に俺だけで挑んでも、これだけ多くの正義の味方を前にしては、さすがに手段を選んでいる余裕はない。ただただ勝利を掴むために、なりふり構わず暴れ回るのが、関の山だっただろう。


 しかし、それでは意味がない。あくまでも俺は、悪の総統として、その存在感を、彼らに示す必要がある。


 この戦いが終わった後の、未来のために。


 というわけで、当然ながら、仲間たちには事前に、作戦の目的を全て説明しているので、みんなは今回、最初から敵を倒すことではなく、この戦況をコントロールすることで、俺という存在が目立ち、かつ好きなように動けるように、正義の味方たちの動きを、それとなく誘導してもらっていたのだ。


 つまり、一見すると、先ほどから上手い具合に、正義の味方が俺たちを抑え込んでいたように見えたけど、全てはこちらの狙い通りだった、というわけである。


 そんな、ある意味では全力を出して戦うよりも、よっぽど難しい作戦を、ここまで見事に遂行してくれて、みんなには本当に、感謝の一言だ。


 だから、その頑張りに、俺も悪の総統として、全力で応えよう。


「さあ……!」


 今度こそ、誰の目から見ても明らかなように、ここいる者ならば、絶対に目に入る採石場の中心で、俺は空に浮かびながら、この右手を天にかざし、圧倒的な存在感を示すかのように、巨大な魔方陣を展開する。


 バチバチと、分かりやすく不吉な閃光をらしながら、もうすでに夜の気配が忍び寄り、暗くなり始めたあた一面いちめんを、まぶしいほどに照らす魔方陣に、まだ動けない正義の味方たちの注目が、しっかりと集まったのを確認してから……!


「――ひれ伏せ!」


 全てを終わらせるために、俺は右手を振り下ろす。


 その瞬間、夜空に展開していた巨大な魔方陣が、一気に地面へと向けてせまり、たおしている正義の味方たちを、強引に、上からおさんだ。


 もちろん、魔方陣の効果を受けているのは、正義の味方の皆さんだけで、俺の仲間たちには、少しの影響も与えていない。


 そして、全ての正義の味方が、大地へと押し付けられたことで、ここで起きていた戦闘は止まり、その様子を確認し、俺の意図を察してくれた仲間たちが、事前の打ち合わせ通りに、崖上へと飛び上がり、再び集まる。


 そう、ここまで来たら、後は大詰め。


 俺が最後まで、押し切るだけだ……!


「負けて……。たまるかああああ!」


 しかし、だがしかし、正義の味方たちも、そう簡単には抵抗をやめない。


 まるで、俺にくっすることをこばむかのように、歯を食いしばり、自らをふるたせるための咆哮ほうこうを上げながら、傷ついた身体で、その両手で地面を押して、この場にいる全員が、必死に立ち上がろうとしている。


「うおおおおっ……!」


 絶対にあきらめない。


 それこそが、正義の味方だと、証明するかのように。


「おおっ、凄いな!」


 その光景を見て、俺は素直に、感嘆の声を上げてしまう。


 もちろん、これは皮肉じゃないないし、馬鹿にするつもりでもない。本当に、心の底から、俺は感動して、心が震えている。


 あの魔方陣は、そんなに甘いものではない。確実に、これで終わりにしてみせると気合を入れて構成し、十分な威力を持たせて発動させた、大魔術だ。


 にも関わらず、正義の味方は魔方陣にあらがい、誰一人として、膝を折ろうとしない。


 本当に、素晴らしい。


 だからこそ、俺は彼らが、欲しいのだ。


「だけど……!」

「ぐっ、ぐううううっ!」


 だけど……、いやむしろ、だからこそ、俺は彼らを、打ち倒さなければならない。

 悪の総統として、圧倒的な力を、見せつけなければいけない。


 俺はさらに、同じ魔方陣を複数展開し、正義の味方たちが、必死に持ち上げようとしている最初の一つに向けて、思い切り叩きつける。


 その衝撃で、採石場全体が、大きく揺れた。


「こいつで……、終わりだ!」

「うわああああっ!」


 その衝撃に、さすがに耐えられたなかった正義の味方たちが、膝を屈し、地面へと倒れ込むのと同時に、俺は魔方陣を起動し、黒い衝撃波を解き放つ。


 完全に動けなくなった上に、不可避の一撃を受けて、さしもの正義の味方たちも、最後に大きな悲鳴を上げると、もう動けなくなったようだ。


 全てが終わった採石場に、静寂が訪れる。


「……さて、これにて終幕って、感じかな?」


 この場にいる正義の味方全員が、地面に倒れ込んだまま、動かなくなったことを、ちゃんと確認してから、俺は足場になる小さな魔方陣を展開し、軽やかな足取りで、みんなが待つ崖の上へと、舞い戻る。


 よしよし、これにてミッション完了、コンプリートだ。


「…………」


 正義の味方たちは、まだ誰一人として、声を上げることすらできない様子だけど、もちろん、先ほどの魔方陣も、威力調整はしっかりとしているので、全員、数日ほど休めば、また十分に動けるようにはなるだろう。


 とはいえ、それまでは、とてもじゃないけど、戦うことなんて、できはしない。


 つまり、これでしばらくの間、国家守護庁こっかしゅごちょうは完全に機能停止、というわけだ。


「よーし! それじゃ、帰るぞー!」


 とりあえず、当面の目的は果たしたということで、隣にいる仲間たちに声をかけ、俺は意気揚々いきようようと、祖父ロボたちが待っている本部への帰還を、宣言する。


 辺りは、もうすっかり暗くなってしまったけれど、成果は上々だし、嬉しい報告もできそうだ……。


「ま、待て……!」

「うん? どうした?」


 なんて、呑気のんきなことを考えていたら、崖下で倒れている正義の味方から、なんとも驚くことに、お声がかかってしまった。どうやら、最後の気力を振り絞っているようなので、俺も無視するようなことはせず、相手をしてやることにする。


 だって、その正義の味方というのが、あのマーブルファイアなのだから。


 奴にも、色々あったことだし、ここは、ちゃんと話を聞こうじゃないか。


「俺たちに、トドメを、刺さないつもりか……!」

「なんだよ、トドメを刺して欲しいのか? ずいぶんと物好きな……、って、これは前にも言ったっけ?」


 なんて、慈悲の心を見せたはいいけど、マーブルファイアが、蚊の鳴くような声でしぼしたのは、なんとも残念な問いかけで、かなり肩透かしだった。


 とはいえ、この場面で、本当にそれが知りたいのかという疑問はあるが、当人からしてみたら、重要な問題なのかもしれない。


 だったら、仕方ないなぁ……。


「ああ、刺さないね。トドメなんて、刺す理由がない」

「な、なぜだ……!」


 俺はマーブルファイアに、そして、正義の味方たちに、説明してやることにする。


 余裕のある悪の総統として、堂々と、その真意を。


「いいか? 俺たちの目的は、この国を支配することなわけだ。じゃあ、その目的が達成されたら、どうなると思う?」

「……?」


 いや、俺の言ってることは、別に難しいことでもないので、普通に分かると思うんだけど、あまりに突拍子もない話の切り出しだったから、追いつけないのだろうか。マーブルファイブは、不思議そうに首をかしげてしまった。


 うーん、これは本当に、単純な話なんだけど。


「簡単な話さ。俺たちヴァイスインペリアルが、この国のトップになったら、あんたたち正義の味方が所属している国家守護庁は、俺たちに属する、俺たちの下部組織になるってわけだ。そこまでは、分かるよな?」


 そう、これは当然の理屈だ。


 悪の組織が支配すれば、そこにある全ては、悪の組織のものとなる。


 まあ、悪の組織の目的というやつは、色々あるとは思うけど、少なくとも、俺たちヴァイスインペリアルにとっては、これこそが悲願。


 この世界の全てを、我が手につかみ、奪い取る。


 そのために、俺たちはいつだって、全力を尽くすのだ。


「つまり、将来的には、お前たち正義の味方は、俺たちの下で働くことになる。それなら、そこで働く優秀な人材を、自ら排除するわけがないだろう?」


 だから、俺から提示する解答は、いつだって単純で、シンプルだ。


「そんな、もったいないことは、する意味がない」


 俺たちは、最大限の利益を得るためならば、手段を選ばない。


 自らの利になると判断したのなら、慈善事業だってなんだって、喜んでしてみせ、完璧に実行することも、まったく苦ではないのである。


 正義の味方という、強力な戦力を手に入れるためならば、面倒な作戦を繰り広げ、わざわざ芝居がかった決闘を選び、自らを引き立てるための演出を考えて、実行し、恥ずかし気もなく悪の総統っぽい振る舞いをすることなんて、苦労ですらない。


 俺はただ、やりたいことを、やりたいようにやっているだけなのだから。


「ふ、ふざけるな! 誰が、そんなこと、認めるか……!」

「まあまあ、分かってるって。その怒りは、ごもっともだ」


 とはいえ、マーブルファイアのように、こちらが勝手な理屈を並べても、簡単には受け入れられなくて、当然だろう。というか、絶対に受け入れてやるものかという、強い意識を、この採石場の崖下にいる、他の正義の味方たちも、ピンピンと感じる。


 だからこそ、俺も言葉だけでなく、行動で示す必要があったのだ。


「でもさ、俺がそうするって決めたんだから、仕方ないだろ?」


 俺から飛び出た、不遜ふそんなまでの断言に、反論できる者はいない。


 当然だ。


 ここにいる正義の味方は、もうすでに、完膚かんぷなきまでに、敗北しているのだから。


「とはいえ、最後に決めるのは、自分自身なんだから、もう少しの間は、じっくりと考えてみてくれよ。悪の組織の下で働く、正義の味方ってやつをさ」


 とはいえ、俺は別に、強制はしない。そんなことしても、意味がない。


 そんな圧政に屈するほど、彼らは生ぬるい相手ではない。


 無理矢理に抑えつけても、いつか必ず、しっぺ返しを食うだけだ。


「これから状況は、どんどんと変わっていく。その中で、俺たちの仲間になれないと思ったのなら、それでもいいさ。いくらでも、反抗してくれ」


 だから、俺は彼ら自身に、選ばせることにする。


 自らの意思で、この先の未来を、俺たちの支配する世界を、どう生きるのか。


 とはいえ……。


「まあ、俺は絶対に、あきらめないけどね」


 その選ぶための材料として、まずはしっかりと、こうして自分のことを、アピールさせてもらったわけだけど。


 とりあえずこれで、いくら反抗しようと、俺を倒すことは難しいと、彼らも骨身に染みて分かっただろうし、下手な抵抗は無意味だと、自覚したはずだ。


 これならば、かなり真剣に、これからの身の振り方を、考えてくれることだろう。


「く、くうぅ……」

「さーて、とりあえず、これで話と、顔見せも終わったってことで……」


 というわけで、どうやら、目立った反論もないようなので、俺は背筋を伸ばして、もう十分と、カイザースーツを解除する。


 これにて、本作戦は終了だ。


 正義の味方を打ち倒し、国家守護庁を機能不全におちいらせた。


 さらに、正義の味方側の被害を最小限に抑えることで、今後、彼らと、その組織を手に入れるさいの利益を、最大限にたもつことができた。


 そして、俺という悪の総統の存在を、実力を、正義の味方の脳裏に、トラウマかと見紛みまごうレベルで、むことにも成功した。


 うん、やっぱり成果は、上々だ。


「それじゃ、今度こそ、帰りますか!」

「ジーク・ヴァイス!」


 というわけで、満足した俺は、こちらもすでに、変身を解いている仲間たちと肩を並べながら、楽しい家路につくことにする。


 悪が正義に、勝利した。


 まるで、それを祝福するかのように、すっかり真っ暗になった夜空の中で、小さな白い星たちが、漆黒に飲み込まれながら、それでも確かにきらめいて……。



 そこに広がるのは、夜の闇が全てを包む、美しい満天の星空だった。


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