カフスラン公国戦記「聖霊ベルテシャツァルの黙示録」
柊木まもる
第1編:Marionette ― 操り人形
第1章 帰らざる者の帰還
(1)突然の亡命者と父からの頼み事
1
「きれいな新緑!やっぱり新緑の緑って特別ね!」
カフスラン公国第9軍事公学校に通う道中、彼女はそうつぶやいた。
彼女―エレン=カトリシアは、今年の4月から、名門といわれているカフスラン公国第9軍事公学校に通う女学生となった。
第9軍事公学校は、陸軍兵士養成の学校のため、都市部から離れた郊外にある。そのため、駅からスクールバスに乗らなければならない。駅からは片道でおよそ30分かかる。
カトリシアはその道中の景色が大好きだった。最初は都市部を走っているが、駅を出て10分ほど経つと、のんびりとした田舎風景へと変わる。遠くに見える山々の緑は、今は新緑で包まれている。新緑の季節はあっという間に過ぎてしまう。年に1回しか味わえないその緑を眺める楽しみを、カトリシアは存分に楽しんでいた。
「はーい、学校到着でーす。忘れ物のないようにー。」
運転手が、バスの乗客に学校到着を告げた。開かれたドアから生徒たちが次々と降りていく。カトリシアもその流れに従ってバスを降りる。
「おはよう!今日はいい天気だね!」
カトリシアの友人、カスティノ=フロリアが声をかけてきた。フロリアはカトリシアの中学以来の友人である。
「おはよう、フロリア!そうね、ここまで天気がいいと、ちょっと暑くなるかもしれないわね。」
「それはいやだなぁ。午後は野戦演習の授業があるからあんまり暑くなってほしくないんだけどな。」
「雨でずぶぬれになるよりいいじゃないの。」
「そりゃそうだけどさー。」
そんな他愛のない会話をしながら昇降口へと向かう列に並ぶ。軍事公学校では授業に関係のない物―携帯電話や音楽再生機器といった物はすべて昇降口で回収される。学校生活と私生活のメリハリをつけるためなんだとか。2人は校舎へ持ち込みが禁止されている物をすべて袋に入れた。
袋を昇降口にいる職員に預け、2人は教室へと向かう。
「ところでさぁー・・・」フロリアがカトリシアに顔を近づけながら言った。
「気になる子いないの?」
「はっ?」カトリシアはきょとんとした顔で聞き返す。
「だーかーらー、気になる男の子はいないのかって聞いてんのよ。」
「いるわけないじゃない!そもそも、私は彼氏作りに学校来てるわけじゃないし。」
「カトリシアはそうかもしれないけど・・・」フロリアがそう言いかけたときだった。
「エレン=カトリシア嬢、ごきげんうるわしゅう。荷物をお持ちいたしましょうか。」
クラスメイトのクロレア=バスティーニがカトリシアに声をかける。
「別に今日はいいわ、荷物少ないし。いつもありがとう。」
「そうですか・・・。では、荷物持ち以外で何かお役に立てることがあれば何なりと。」
「特に今はないわ。」
「かしこまりました。では後ほど、教室で。」
そう言ってバスティーニは教室へと向かった。
入れ替わるように「よ!カトリシア嬢よ!」ともう一人のクラスメイト、アルバノ=カリウスが声をかけてくる。
「おはよう。今日はなんだかご機嫌ね。」カトリシアがカリウスにこたえる。
「まぁな。昨日軍務省の射撃訓練場に行って練習してきたんだけどさ、90%の確率で的の真ん中にあたってさー!超調子よかったの!」
「あらそう。さすがカリウスね!」
「だろー!今度演習の時に俺の華麗な射撃を見せてやるよ!じゃあまた後でなー!」
そう言ってカリウスも教室へと向かう。
「モテモテじゃない、カトリシア」フロリアが羨ましそうな目で彼女を見る。
「違うって!クラスメイトなんだから、挨拶ぐらいするでしょ!」
「でもさー、バスティーニは毎朝執事みたいなこと言ってくるじゃない。」
「あれはうちの両親と彼の両親の間柄の関係で・・・。」
そう、バスティーニがあのような態度をとるのはカトリシアの父親と彼の母親にある関係のためだった。この2人の関係を説明するためには、ここで少しこの国の政治に関する説明をしなければならない。
この国―カフスラン公国においては5つの省(内務省・外務省・エネルギー省・軍務省・文化省)が存在するのだが、その中でももっとも発言権が強いのが軍務省である。どの国においてもそうだが、やはり国を守っている軍部の発言というのは大きな影響力を持つ。カフスラン公国においてもそれは同じであった。公国の法律によって、有事の際は軍務省が独裁権を発動することが認められている事実にそれはよく現れている。
カトリシアの父親であるエレン=プロシュテットはその軍務省の実質ナンバー2である軍務省長官である。そして、バスティーニの母親であるクロレア=タージリアはプロシュテットの幼馴染であり、また軍務省時代の部下であった。去年、プロシュテットが軍務省で勤勉に業務に励んでいたタージリアの労を評価し、当時の内務大臣が政界引退に伴い辞職したことにより空いたそのポストに彼女を推薦した。そういうこともあって、バスティーニは母の恩人の娘であるカトリシアに丁重に接しているのだった。もちろん、第2の理由として、カトリシアを好意的に思っているから、というのもあるが。ただし、カトリシアは第2の理由には全く気づいてはいない。
「それだけじゃないって。絶対、別の理由がある!」
「まさか。彼の母親の恩人である人の娘だからそうしているだけよ。政治家っていうのはコネがあって初めて生きていける種族なのよ。そのコネを大切にするためにそうしているだけよ。」
相変らず鈍感だな、とフロリアは心の中でそう思ったのだった。
教室に着くと、妙に教室がざわついているのにカトリシアは違和感を覚えた。
騒がしいのはいつものことなのだが、その騒がしさの質が違うのだ。
―――あれ、今日何かあったかしら。
カトリシアがそう思った時だった。
「はいはい、席についてー。」
そう言って、このクラスの担任―もといい、担当教官ヴィル=イプロンが入ってきた。
―――珍しい。まだ朝礼5分前だというのに。何かあったのかしら。
普段イプロン教官は時間ぴったりにくる。
「えー、みんな揃ってるな。では」教官がしゃべりだした。
そして―――
「転入生を紹介する」
そう言ったのだった。
教室の空気が、一瞬凍りついた。そして、クラスの生徒たち全員が、カトリシアと同じことを考えた。
―――転入生!?いったい何事!?
第9軍事公学校は名門校であり、入学試験の倍率も高い。設立されてから60年が経つが、第9軍事公学校は転入試験を行ったことは未だかつて一度もない。
「では、入れ」
転入生が入ってきた。女子生徒である。身長はカトリシアと同じ155cmほど。髪は腰までくる長髪。そして、一番目を引いたのはその髪色だった。
―――この国では珍しい、黒髪だったのである。
実は、カトリシアも黒髪なのだ。ただ、カトリシアはショートボブほどの長さであるが。
男子生徒が彼女に言い寄ってくるのは、カフスランにおいて美人の条件といわれている黒髪であることが原因である。
カトリシアは、これまで自分以外に黒髪の人を見たことがなかったので非常に驚いた。
そして、
「初めまして。サヴァル=パルカンといいます。どうぞよろしく。」
黒髪の少女は、そう名乗った。
黒髪美少女転入生は、瞬く間に学校中の注目の的となった。
6 0年間一度もなかった転入生の登場。しかも、それが珍しい黒髪の持ち主であるということもあって、昼休みになると、カトリシアの教室には学校中の生徒がパルカンを一目見ようと集まっていた。
「騒がしいわね、まったく。転入生ごときでなに大騒ぎしてんのよ。」
「まあまあ、そうおっしゃらずに。私が仮に他のクラスの生徒だったとしても、きっと今来ている生徒たちの様に見に行ったでしょうね。」
バスティーニは野次馬と化した生徒たちを見ながらそう言った。
「それともあれか、お前自分と同じ黒髪女子が現れたことが嫌なのか!?」
カリウスがカトリシアを茶化す。
「そんなわけないでしょ!!」
「ほんとかなぁ~あやしいなぁ~!」
「うるさい!!」
そんなくだらない会話を交わしていたところに、「ねぇ」とパルカンが声をかけてきた。そして、
「あなた、軍務省長官エレン=プロシュテットの娘?」とカトリシアに尋ねた。
「えぇ、そうですが・・・。」別に隠すことでもないので彼女は正直に答えた。
「そう。なら、一つだけ大事なことを伝えておくわ。」
「はぁ。なんですの?」
―――一体何を言われるのだろう?
そう思ったカトリシアに、パルカンはこう言った。
「今夜、あなたの家に“帰らざる人”が帰ってくるわよ。」
―――“帰らざる人”が帰ってくる。今夜、私の家に。いったいどういうこと?
帰りのバスの中、カトリシアは昼休みにパルカンに言われた言葉の意味をずっと考えていた。
―――私の家に帰ってきてはいけないような人いたかしら?でも、今日誰かが来るなんてお母様からもお父様からも聞いていないのだけれど・・・。一体誰がうちに来るというの?
「ちょっと聞いてる?カトリシア?」
「え?何?」
フロリアがぼーっと考え事をしていたカトリシアに声をかける。
「大丈夫?さっきっからぼーっとしてるけど、何かあったの?」
そのフロリアの問いにバスティーニが答える。
「カトリシア嬢は今日、そのパルカンという転入生に予言めいたことを言われましてね。」
「予言めいたこと?何言われたのよ?」
「“帰らざる人”が帰ってくるって言われたんだよ」
2番目の問いにはカリウスが答えた。
「どういうこと?」
「それがわかりゃカトリシアも苦労はしないだろうよ」
―――何者なのかしら、パルカンは。
結局、帰り道の道中彼女は友人たちの会話に参加することなく、ずっとパルカンの言葉の真意を考えていた。
カトリシアの住むエレン家の屋敷はこの国の首都ロースウォールの旧市街の西側にある。駅から歩いて15分ほどのところだ。
「ただいま」
そう言って屋敷に入った途端、母であるエレン=パトリシアがカトリシアに駆け寄ってくる。
「どうしたの、お母様?そんな慌てて。」
「カトリシア、落ち着いて聞いてちょうだい。」そう前置きをしてパトリシアは娘に告げた。
「叔母さんが、帰ってきたの。エフィカ共和国にいたフリメワ叔母さんが、今日帰ってきたの。」
「―――」
カトリシアは、その母の一言でパルカンが言わんとしていたことが何だったのか一瞬にして理解したのだった。
2
話は5年前にさかのぼる。
当時イレア=フリメラはカフスラン公国の最西端にあったサルノ村の村長であった。サルノ村は三方を山に囲まれた要塞であり、非常に緑豊かな場所だった。主要産業は畑作で、カフスラン公国の畑作作物生産量の2割を占める生産量であった。隣国エフィカ共和国とカフスラン公国は互いの不可侵条約を結んでいたこともあり、村は特に隣国におびえることもなく非常にのんびりとした生活が営まれていた。
ある春の日、フリメラのところにエフィカ共和国の使いと称する者が訪れた。使いは、共和国を統括する大統領がサルノ村をカフスラン公国との共同統括地にしたいと言っていると伝えた。フリメラは公国との共同統括を独断で承認するわけにはいかないと考え、使いに公爵に意見を仰がなければならないため、今ここで答えを出すわけにはいかないと伝え、今日のところは帰ってほしいといった。使いはその旨了解し、近日中に前向きな返事が返ってくることを期待していると伝え自国へと帰って行った。フリメラはすぐに都にエフィカ共和国からの提案を伝えた。
都では、国家元首であるカフスラン=フレッド公爵を含め、8人で構成される内閣議会でフリメラから伝えられた隣国からの提案を受け入れるかの協議が始まった。なぜ不可侵条約を結んでいる隣国が共同統治を持ちかけたのか、共同統治に同意した場合それは不可侵条約を破棄したことにならないのか、といった懸念点が議論されたが、受諾するか否かの結論はなかなか出なかった。
突然の訪問からちょうど1ヶ月が経った日、再びエフィカの使いがフリメラのところを訪れた。使いは大統領がまだ結論が出ないのかといっている、いつまで待たせる気なのかと言ってきた。都から何の伝令もない以上、フリメラも待ってほしいとしか言いようがなかった。そのことを伝えると、使いはその旨了解し、大統領の意見を仰ぐと言って帰って行った。フリメラは、こちらを焦らせるわりには使いは怒ることもせず、早くしろと迫ることもなく、淡々と大統領からの伝言だけを伝え、すんなりとこちらの言うことを聞き帰ったため、妙だなと思った。そしてその夜、サルノ村はエフィカの奇襲攻撃を受けたのだった。
国境警備隊はいたものの、不可侵条約がある以上侵攻はしてこないだろうと思っていたため、あっという間にやられてしまった。そして、村も同様に支配されてしまったのである。不可侵条約の破棄が都に伝えられたのと、奇襲攻撃が始まったのが同時であったため、援軍を送ることもできなかった。
それ以降、カフスラン公国とエフィカ共和国は戦争状態となった。
国境の警備は強化され、国境を越えようとする者がいれば容赦なく殺害された。
話は、カトリシアの帰宅時に戻る。
国境を越えれば殺害されるリスクを冒してまでフリメワが帰ってきた。これは明らかに異常事態である。
母親と共に客間に行くと、顔面蒼白状態のフリメワがソファーに座っていた。とてもじゃないが、話しかけられる状態ではない。
隣には父親であり軍務省長官であるエレン=プロシュテットが座っていた。娘の帰宅を確認すると食堂に行くように命じた。
娘はその言葉通り食堂に行った。
間もなく、プロシュテットが食堂に入り、カトリシアの隣に座った。
「どういうことなんですか、お父様。」
「国境警備隊の兵士からの報告によると、叔母さんは警備隊の兵舎の近くで倒れていたらしい。たまたまサルノの出身の兵士が叔母さんのことを覚えていたらしく、殺害せずに兵舎で救護し、事情聴取をしたらしい。聴取中、叔母さんはとにかくカフスランに帰りたい、この国にはもういたくないと泣きながら訴えたようでな、サルノの兵士が上官にお願いして越境を認めたらしい。ボディーチェックをしたときに一切の武器を持っていなかったこと、たまたま村長時代の身分証を持っていたことが幸いしてな。」
「そうなの・・・。」
「ただ、こちらに戻ってからも終始あの状態でな、一体隣国で何があったのか、何も話してくれないからね。うちの親族だから、まずは当家で保護することにしたってことだ。」
「叔父様ももう亡くなったから、身寄りもないですしね。」
「ああ。」
父娘の間に沈黙が流れる。
しばらくして、プロシュテットが口を開いた。
「お前にお願いがある。」
「なんでしょう。」
「まず、叔母様が帰ってきたことは絶対に口外しないことだ。このことは一部の関係者しか知らないことだ。国内に対戦国から亡命者が来たことが広まるとまずい。これは絶対に守ってほしい。」
「―――。」
「突然のことでお前も驚いているだろうし、その動揺を隠しきるのは難しいだろう。友達から何か言われたら、母親が病気を患ってとか言っておきなさい。事実を口にしなければいいだけだから、そこだけは頼むよ。」
「ええ、わかったわ。」
「あと、公学校で公爵の紋章の透かしが入っている手紙を受け取ったら、その手紙に書かれている指示に従ってほしい。」
「それってどういうこと?」カトリシアは父の言っていることが理解できなかった。
「今、詳しくは語れないが近く大きな動きがある。それにお前も協力してもらうってことだ。今はそれしか言えない。」
「大きな動きって・・・何?エフィカのこと?」
「―――。」
父が黙る。珍しいことだった。家族とはいえ、頼みごとをするときはどんな些細なことでも必ず理由を伝える父が、初めて理由を告げずに頼みごとをする。何かがおかしい。
「ねぇ、お父様!どういうことなの!教えてよ!娘の私に言えないことがあるの!!」カトリシアが激しい口調で父に問いただす。
「悪い、カトリシア。父さんからいえることは、これだけなんだ・・・。お前の父親であるのと同時に、軍務省の長官でもあるんだ!・・・わかってくれないか。この通りだ。」
父が娘に頭を下げる。こんな父の姿を見るのは初めてだった。カトリシアは、それ以上言えなかった。
しばらく間をおいて、カトリシアは答えた。
「わかったわ。いつもうちに届く公文書と同じやつってことよね、その透かしの入った手紙というのは。」
「そうだ。父さんからのお願いは、それだけだ。今夜はもう部屋に戻れ。」
そういって、顔を上げた父はなぜか、涙を流していた。
「お父様・・・。」
カトリシアは動揺した。なぜ父が涙を流しているのか、その理由がわからなかった。
「カトリシア」去り際、父は娘を呼び止めた。
「はい、お父様。」
「父さんは、お前のことは何があってもすべてを捨てて守ってやるからな。」
部屋に戻った。だけど、今この家で起きている出来事が、公学校入学直後の16歳の少女には受け止めきれなかった。
カフスランに命がけで亡命してきた叔母。父親から突然告げられた“頼み事”。公爵の紋章の透かしが入った便せんに記載されるのは、必ず国務に係ることと決まっていた。つまり、公文書の便せんで伝えられるということは、国務に係ることを意味するのだ。
―――私が、国務に、しかもお父様の頼みということは、軍務省がらみの国務に係るってこと・・・。それって一体・・・。戦地に行くってこと・・・まだ演習すらしていないこの私が・・・。
もう、何もかもが訳わからなかった。
―――こういう時は、深いこと考えずに寝るしかないわね。でも、寝られるかしら・・・。
学校から渡されると父親から告げられた。ということは、明日は何が何でも学校に行かなければならない。
―――お母様に、睡眠薬をもらおう。強制的に寝るしかない。
彼女は自室を出て、母親のところに事情を説明して睡眠薬を受け取り、それを服用するのだった。
(2)紋章の透かしが入った手紙
3
翌日、カトリシアはいつものように公学校へ向かった。
バスから見る景色は、昨日とは全く違った。
いや、景色は変わっていない。それを見る人の気持ちが変わったのだ。
昨夜の動揺がまだ続いていた。
―――一体父は私に何をやらせようというのか。私はこれから何をするのだろう。何に係るのだろう・・・。
「はーい、学校到着でーす。忘れ物のないようにー。」
いつものように運転手が到着を告げる。生徒たちがバスを降りる。カトリシアもそれに続く。そして、昇降口へと向かう列に並ぶ。
「おはよう!・・・って元気ないね、カトリシア。大丈夫?」
フロリアが声をかける。
「おはよう。大丈夫よ。ちょっと睡眠不足でね・・・。」
「そう。ま、カトリシアの家はいろいろありそうだからね。お父さんエリート官僚だしね。もし体調悪くなったら言ってね。」
「ありがとう。助かるわ。」
フロリアは深くは聞いてこなかった。なんとなく聞いてほしくないというカトリシアの気持ちを察して。
職員に袋を渡し、教室へと向かう。
「おはようございます、カトリシア嬢。今日は・・・大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。気にしないで。ちょっと寝不足なだけだから。」
「そうですか。もし何かあれば何なりと。」
「いつもありがとう、バスティーニ」
彼もまた、深くは聞いてこなかった。
隣にはカリウスもいたが、彼は「おはよう!元気出せや!」といっただけ。彼も深くは聞いてこなかったのだ。
―――私、そんなに聞かないで、という雰囲気を醸し出しているのかしら・・・。
教室に着き、カトリシアは自分の席に座った。そして、机の中に教科書を入れようとしたときだった。カサッと何かが入っている音がした。公学校ではいわゆる“おきべん”は禁止されている。なので、登校してすぐの時は、机の中には何も入っていないはずだった。
カトリシアは机の中に手を伸ばしその紙を取る。
そう、その紙は昨日父が言っていた紋章の透かしの入った手紙だった。そして、そこにはこう書かれていた。
『この手紙を受け取った者は荷物をまとめてすぐに別館の応接間に来るように。なお、本日の授業はすべて欠席してもらう。担当教官にはその旨伝えてあるので特に報告する必要はない。』
―――運命の時が来たわね。
彼女はそう思い、覚悟を決めて教室を出た。
4
応接間に行ったカトリシアは驚いた。
てっきり呼び出されたのは自分だけだと思っていたのに、応接間には先客が4人いたのだ。そして、その顔触れにも驚いた。
応接間にいたのは、フロリア、バスティーニ、カリウス、そして謎の転入生パルカンだった。
「まさか、みんなあの公爵の紋章の透かしが入った手紙で・・・。」カトリシアは4人に聞いた。
「そう。私もびっくりした。昨日家に帰ってみれば軍務省から紋章の手紙が来ててさ、明日は学校で渡される手紙の指示に従ってくれって書いてあって。」
フロリアが答える。
「私もそうでした。まさかカトリシア嬢も呼ばれていたとは。」
「俺も。親は選ばれた軍人になったってことだ、って喜んでたけどよ。」
―――みんなは家にも届いていたんだ・・・。ってことは叔母のことも?
「パルカンも家に封書来てたんだろ?」カリウスはさっきから何も話さないパルカンに問う。
「ま、お前たちと似たようなものかな。」
「どういう意味だ?」
「・・・もう明かしていいだろう?パレンシュタイン。」パルカンは応接間の窓辺に立つ初老の男性に問うた。
「ええ、お嬢様。この騎士たちが口外しないと約束するのであれば。」
「口外などしてる暇はなくなるけどな、これから。」
―――明かす?パルカンは身分を偽ってこの学校に来たの?
カトリシアは無意識のうちに警戒心を強めた。
すると、パルカンは4人に向かい、話し始めた。
「これから同じ騎士団のメンバーとなる仲間に身分を偽るのも心苦しい。ここで私の本当の名を伝えようと思う。サヴァル=パルカンは偽名だ。私の本当の名は・・・カフスラン=パルカンという。」
「カフスランってことは・・・まさか・・・公爵の・・・」カトリシアが驚きの反応を見せる。
「その通りだ。この国においてカフスランの姓を名乗れるのは公爵の直系の親族のみだ。私はこの国の元首カフスラン=フレッド公爵の娘だ。」
「公爵の娘・・・ってことは、俺たちは今まで無礼を働いていたのでは・・・」
まさかそんな高貴な人だとは思っていなかったカリウスは、パルカンに対して軽口を叩いていたことを咎められるのではと思った。
「別に構わない。私が名乗っていなかったから皆わからなかったのだ。それに、公爵の娘だからと言って何か特別なものを持っているわけでもない。皆と同じ人間だ。これからも、今まで通りに接してくれれば構わないぞ。」
「よかった・・・無礼罪で処罰が下るのかと思ったよ・・・。」
「そんな無礼罪で処罰なんて・・・我が国はそんな立ち遅れた中世欧州の封建国家じゃないぞ。」
「だよな!・・・でもそれはそうと、なんで公爵様のお嬢がわざわざ公学校なんかに来たんだ?」
「その理由は、パレンシュタインから説明してもらおうか。実のところ、私もその理由は知らないんだ。父上に行けと言われたので行ったまでだ。」
すると、窓辺の初老の男性が、こちらに向いた。その顔を見た瞬間、カトリシアは思わず「あなたは・・・」とつぶやいた。
「カトリシア殿。私のことを覚えていましたか。その節は、父上殿には世話になった。」
「まさかカトリシアの知り合いなの!?」フロリアが驚きの声をあげる。
「まぁ・・・知り合いというか、なんというか・・・。」
「とりあえず、話は長い。まずは皆座ってほしい。」パレンシュタインは5人の生徒に着席を命じた。
全員が応接間のソファーに座ったところで、パレンシュタインは話を始めた。
「まずは私の自己紹介をさせていただこう。私はカフスラン公国軍務大臣マリド=パレンシュタインという。ちなみに、カトリシア嬢の父上エレン=プロシュテット大佐とは同じ部隊の戦友でな。今は私が軍務大臣でプロシュテット大佐より上の立場にいるが、当時は逆でプロシュテット大佐が大隊長で、私は中隊長だった。3年前のエフィカ共和国との戦いで、私はプロシュテット大佐に助けられたんだ。いわば私の命の恩人なんだ。大佐のおかげで、今の私があり、地位があるんだ。」
「カトリシアのお父さんってすごい人なんだね。」フロリアがつぶやいた。
「・・・そうかな?」少し照れながらカトリシアは答えながらも、
―――やっぱりお父様はすごい人ね!さすが私のお父様だわ!
と内心はとてもうれしく思っていた。彼女はこうして高い身分にいる人が父親を絶賛してくれることをとても誇らしく思っている。
「さて、本題に戻るが、あなた方は当国とエフィカ共和国が戦争状態であることは承知しているな。」
全員がうなずく。
「その経緯も皆が知っている通りだ。そのエフィカ共和国なんだが、最近どうも国の様子がおかしい。」
「どういうことですか、大臣?」バスティーニが質問する。
「ここ数日で100人以上の人間が越境してきている。」
「越境って・・・たしか国境を不法に超えようとした者は容赦なく殺害するって・・・。」カリウスがつぶやく。
「ああ、カリウス殿の言うとおりだ。もちろん殺害された者もいる。ただ、それでもなお、越境を試みる者が後を絶たない。そして、生きて越境してきたものは皆、なぜ越境したのかの理由を話そうとしないのだ。皆、顔面蒼白な状態でな。だから、こちらとしてもエフィカで何が起きているのかがわからないのだ。」
カトリシアは昨日客間で見た叔母のことを思い出した。叔母も、顔面蒼白で何も話そうとしなかった。叔母と同じような状態の人が大勢、カフスランに亡命してきているようだ。
「そして、もう一つ妙なのが、大統領だ。5年前までは半年に一回、カフスランの公爵の元にエフィカの大統領が訪問してきて会談を行った。それが、不可侵条約の一方的放棄を通告する前の会談から一切来なくなった。大統領は存在するようなのだが、我々は今その大統領が誰なのかがわからない。」
「でも、父は休戦協定を結ぶための協議を向こうの大統領と行っていると言っていました。それは直接大統領とお会いして行っていたのではないのですか?」カトリシアが問う。
「いや、大統領は戦争中一回も姿を見せたこともないし、名前すら聞いたことがない。協定の協議はすべて、大統領の使いと称する者と行っている。まぁ、協議とは言っても、使いの者が大統領からの伝言を述べ、それに対する我が国の答えをその使いに告げると、大統領にお伝えしますとだけ言って使いは帰ってしまうので、話し合いという話し合いが行われたわけではない。」
「それって協議じゃねーじゃん。手紙のやりとりと何が違うんだ?」カリウスが言う。
「ちょっと!大臣の前でなんて言葉遣い!」くだけた言い方をするカリウスをカトリシアが咎める。
「だってそうじゃねーか。それに俺たち国民は協議が行われていると聞いていたんだ!俺たちはこいつらに騙されていたってことじゃねーか!何が『休戦に向けて努力してる』だ!嘘じゃねーかよ!」カリウスが怒りをあらわにする。
「カリウス、言葉が過ぎるわよ!誰に向かって口をきいているつもりなの!いい加減にしなさい!!」カトリシアは立ち上がり、カリウスの頬を叩いた。
「ってーな。てめえの親父もグルだったんだろ!」
「お父様を冒涜する気!?」カトリシアは父親が侮辱されたと思い、思わず頭に血が上る。そしてカリウスの胸ぐらをつかみ「あなたね・・・!」と睨み付ける。
「二人ともやめて!」フロリアが見かねて止めに入る。
「―――。」カトリシアはカリウスの胸ぐらを放し、大きく深呼吸して自分を落ち着かせた。
「見苦しいところをお見せしました。申し訳ありません、パレンシュタイン大臣。」
「大丈夫だ、カトリシア殿。それに、カリウス殿が言っていることはもっともだ。我々は国民を混乱させないように『協議を行っている』と伝えていた。それは事実だ。非難されてもおかしくないことだと思う。」
「大臣・・・。」
「ところで大臣殿、我々がここに呼び出された理由を伺ってもよろしいでしょうか?」バスティーニが問う。
「―――。」
パレンシュタインは急に口をつぐんだ。
「パレンシュタイン。私はここから先の話は聞いていないぞ。余しか知らないことだ。話してくれないか?」パルカンがパレンシュタインに迫る。
「―――。」
公爵の娘に迫られてもなお、話そうとしない。
「おい、大臣様よ、話してくれないか。俺たちは何のためにここに集められたんだ?」カリウスもパルカンに続く。
―――なぜ、話してくれないの?パレンシュタイン中佐
カトリシアは昨日父が涙を流していたことを思い出した。何があっても私を守る。父はそう言っていた。
「パレンシュタイン中佐。」カトリシアは沈黙した初老の男性に語り掛けた。
「私は軍人の娘です。そして、私を含めここにいる者は皆、軍人になることを志願して入学し日々立派な軍人になることを目指し精進している者です。戦いというのはいつどこで起こるかわかりません。私たちはいつであっても戦地に赴き、戦う覚悟はできております。いかなることを言われてもそれを受け入れる覚悟もできております。中佐殿、軍務省が私たちにさせようとしていることを述べてください。」
「カトリシア嬢・・・。あなたは父上殿と同じで肝の座ったお方だ。立派な軍人になるだろう。父上も喜ぶだろうな・・・。」パレンシュタインは涙を流した。
―――中佐・・・。あなたも、父と同じように・・・。
「話すんだ、パレンシュタイン!カトリシアの言うように覚悟はできておる。早く話さないか!」パルカンがいう。
「―――わかりました・・・。では・・・。」パレンシュタインは席から立ち、覚悟を決めた表情の生徒5人を前に、大きく息を吸って依頼内容を口にした。
5
「君たち5人には、エフィカに行ってもらいたい。」
パレンシュタインはそういった。
―――エフィカに行く?戦うのではなく?
「それってどういうことなのですか?」フロリアは今言われたことが理解できず、パレンシュタインに問う。
「エフィカの国民となって、エフィカの内情を探ってほしいんだ。」
「国民になるって・・・それって俺たちを国外追放するって意味か!」カリウスが叫ぶ。
「そうじゃない。君たちのカフスランでの身分は守る。その上でだ。」
「スパイをせよと、そういう意味ですか。」カトリシアは冷静に、落ち着いた声で問うた。
「端的に言えばそういうことだ。」
「しかし中佐、エフィカの国民はカフスランの人間を忌み嫌っていると聞きます。私たちがエフィカに入国したところで、向こうの国民は私たちに何も教えてはくれないと思いますが。」
カトリシアのこの発言の背景には、相容れない2国間の文化の違いがある。
カフスラン公国は代々、「人情」というものを非常に重んじてきた。あくまで国家は人間の共同体が集まったものである。人の思いや気持ちをなによりも大切にする。国が政策を選択する際も、例え効率の悪いやり方であったとしてもそれで人々が気持ちよく過ごせるのであれば効率を犠牲にして人々の気持ちを大切にする。それがカフスラン公国の政治だった。それに対しエフィカ共和国は、何よりも効率を重視する。効率がよい、無駄のないことが最善だと考える。国家にとってそれが一番効率の良いやり方であれば、仮にそれで苦しむ人や犠牲になるものがあったとしてもかまわないという考え方だ。
それは国の制度にもよく表れている。例えば教育。学校などに通わせるのは非常に無駄であり、そもそも学校教育制度自体が非効率である。そのため、エフィカには学校というものは存在しない。また、近所付き合いのようなものも一切存在しない。主婦の立ち話なんて、無駄の極みであるというのがエフィカの考え方だ。カフスランはその逆である。学校教育に非常に力を入れているし、近所付き合いも盛んである。
そんな相反する価値観を持つ国民同士が相容れるわけがない。彼女の発言はこの背景を踏まえてのものである。
「そこは、君たち5人の知恵を絞って頑張ってほしい。」
「なぜ私たちが行くのですか?軍にはもっと適した人材がいるでしょうに。」
「軍は今、国境警備でほとんどの兵士が出てしまっている。とてもスパイに回せるような余裕がないんだ。それに、兵士は徹底したカフスランの考えを持っている者たちだ。そのような者をエフィカに送ったところで成果は出ないだろう。ある程度の能力があって、まだカフスランの考えに染まっていない君たちが適任だと考えたからだ。」
「俺たちにそんな能力があるって何を根拠に言っているんだ?」
「入学試験の成績だ。パルカン嬢を除いた4名は、入学試験の順位4位までの生徒だ。入学試験では体力、状況判断能力、射撃能力、危機回避能力、戦略組み立て能力など軍人に必要な様々な能力を計っている。その結果が良かった者が、君たち4人というわけだ。」
「なるほどね。で、内情を探ってどうすればいいんだ?」
「それを軍務省に報告してほしい。軍務省は君たちが命がけで得た情報をもとにエフィカの内情を推測する。そして、その推測内容が正しいかどうかを君たちに確かめてもらう。これを繰り返すことでエフィカの内情を明らかにしようというのが目標だ。」
「エフィカの内情を明らかにして、エフィカに戦いを挑むということですか?」フロリアが問う。
「戦いを挑むかどうかはまだわからない。我々は再び不可侵条約を結んで穏やかな国家関係を結びたいのだ。なるべくは戦いたくない。ただ、交渉するにも相手のことがわからなさ過ぎて交渉しようがないというのが本音だ。」
「そうですか。」
「いつからエフィカに行けばよろしいのでしょうか?」カトリシアが尋ねた。
「それがだな・・・。」一呼吸入れてパレンシュタインは答えた。「今日からなんだ。」
「え?」カトリシア・パルカン以外3人が驚きを示した。
―――やっぱりね。だから昨日お父様はああおっしゃたのだわ。もう会えないと思って。
カトリシアからすれば、予想通りの答えだった。
「おいおい!いくら何でも急すぎるだろ!!」カリウスが叫ぶ。
「同感です、いくら軍務省からの依頼とはいえ。」バスティーニが答える。
「もう、家族に会えないってわけ・・・」フロリアが涙ながらに言う。
「今朝、彼らの家族には封書を届けたのですよね、パレンシュタイン中佐?」カトリシアが尋ねる
「その通りだ。」パレンシュタインは短く答えた。
泣き崩れる3人。突然家族との別れを強いられたのだから仕方がない。
応接間に重い空気が流れた。
この時、カトリシアはつくづく自分は軍人の娘だなと思った。父はいつ戦地に向かうかわからない。生きて帰ってくるかもわからない。それが当たり前なのだ。別に毎日「今日がお父様とお話しできる最後の日かもしれない」とか意識しているわけではないが、きっと頭のどこかで、そのような事態が起きても受け入れられるような態勢ができているのではないかと思う。だから、こういうことを聞かされても、またそういう立場になっても冷静に覚悟を決めることができるのだ。でも、3人にはなかなかそういうことはできないのではないか。
―――こういう時、私はどうすればいいのだろう。
カトリシアは、泣き崩れる3人を見て、こういう時自分は無力だなと思った。
ふっと、パルカンを見た。彼女もまた、冷静な表情をしていた。パルカンもこちらを見た。目が合った。
パルカンはカトリシアに近づいて声をかけてきた。
「我々は少し特殊な人間なのかもしれないな。こういう時、冷静に事態を受け入れてしまう。」
「そうですね、パルカン嬢。こういう時、どうすればいいのでしょうか?」
「私は、彼らの覚悟が決まるのを静かに待てばいいと思う。焦らせて意味のあることでもなかろう」
「そうですね。」
パルカンは応接間の奥にあった水差しのところに行き、2つのコップに水を注いだ。そして、そのコップの片方をカトリシアに差し出した。
「飲むか?」
「はい、ありがとうございます。」
2人は3人から少し離れたソファーに座り、彼らが気持ちを整理するのを待つことにした。
カトリシアが思ったほど、彼らの気持ちが落ち着くのに時間はかからなかった。1時間ほどたったところで、3人はお互いの顔を見て
「私たちが、生きて帰ればまた会えるわ!」
「そうだな。5人仲間がいるんだしな。」
「そうですね。」
と言葉を交わした。そして、少し離れたソファーに座った2人のところに行った。
「私たち、覚悟決めたわ!みんなで頑張りましょう!」とフロリアは言った。
「ええもちろん。カフスランのために、私たちが頑張るときなのよ。」
カトリシアはフロリアの言葉に答えた。
5人はパレンシュタインの方を向いた。そして、カトリシアは言ったのだ。
「パレンシュタイン中佐。私エレン=カトリシアがこちらの騎士3名、および公爵令嬢カフスラン=パルカンの総代として申し上げます。カフスラン公国軍務省からの依頼、喜んで拝命し、必ずやその任務の達成いたすことをここに宣言いたします。」
5人はカトリシアに続き、「宣言いたします」と唱え、礼をする。
「ありがとう。君たちの依頼受託を歓迎する。軍務省としても、君たちの働きが無駄になることのないよう、全力で取り組む。」
5人は、国家の大プロジェクトに関わることになったのである。
その後、5人はパレンシュタインと詳細を打ち合わせた。
最後に、パレンシュタインはこう言った。
「今から、君たちは公国特別騎士団『サルビア』として活動してもらうことになる。」
「公国特別騎士団って・・・公爵直属の・・・。」カリウスが驚きの声を上げる
「そうだ。」
「まじかー!」
そう、公国特別騎士団とは、公爵直属の騎士団で、公国の特別かつ重大な任務を受け持つ騎士団のことであり、軍人にとってはこの騎士団に所属できることは最高の栄誉とされる。
「それだけ、重大かつ難しい任務ってことね。」
カトリシアは意を決したような表情でつぶやいた。
「それだけの栄誉を得るのだから、しっかりと任務を達成してほしい。以上がすべてだ。よろしく頼んだよ。最後に、これが騎士団設立の署名書だ。団長はここにサインしてほしい。」
「団長はどなたなのですか?」フロリアが尋ねた。
「それは君たちで決めなさい。騎士団は構成員で運営する。大原則を知っているだろう。」
「そっか・・・。でも今できたばかりだし・・・。」
「私はカトリシア嬢を推薦します。彼女の冷静な判断力、戦略に優れたところ、団長にふさわしいかと。」バスティーニが答える。
「ちょっとバスティーニ、なにを・・・」
「俺もカトリシアがいいと思う。俺の胸ぐらつかんだところ以外、冷静に状況をつかみ、対処していたしな。」
「カリウスまで何を・・・」
「私も2人の意見に賛成!カトリシアが一番向いてると思う!」
「で、で、でも、パルカン嬢はそうは思わないのでは・・・。」
「私もカトリシアが向いていると思うぞ。私はあなたたちとは違って軍人の教育というのを受けていない。それに、皆がそういうのであればそうなのであろう。先ほども、『総代』と自ら名乗っておったではないか。」
「パルカン嬢まで・・・」
まさかこうなるとはカトリシアも思ってはいなかった。
「じゃあ、カトリシアが騎士団長ってことで!決定!」
カリウスが高らかに宣言すると、4人は拍手でそれに答えた。
「・・・わかったわ。団長、引き受けますわ。その代わり、何があってもついてくるのよ!」
「もちろん。」全員がそろって答えた。
「では、私がサインさせていただきます。」
カトリシアはパレンシュタインから署名書を受け取り、サインをした。
そして、その署名書を掲げ、カトリシアは高らかにこう言った。
「ここに、公国特別騎士団『サルビア』の結成を宣言する!」
こうして、後に語り継がれることになる伝説の騎士団『サルビア騎士団』が結成されたのであった。
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