葛ノ葉稲荷譚

新庄直行

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序 章*日常と非日常

 オモムキのある石畳と締め縄が結ばれた白狐びゃっこまつせき。そして、朱色しゅいろの鳥居とコマギツネ境内けいだいの一角に鎮座する稲荷神社。

 人々が行き来する臨海電鉄*せんしゅう駅前大通りにある家電量販店から赤い風船を持って出て来たマフラーの小さな男の子。店前のショーウインドウに立ち止まって、そこに置いてある一台の大型テレビに映し出された真昼の怪談ショーを釘付けで観ていた。

 家電店の福袋を持って店から出て来た女性が男の子に気づき名前を呼ぶ。男の子も自分の母親だと気づき、怖い顔をしながら母親に抱きつく。抱きついた拍子に男の子が片手袋で握っていた赤い風船の紐を手放してしまう。その赤い風船は駅前ビルの街頭大型ビジョンの方向へと飛んで行く。街頭の大型ビジョンでは、若い女性キャスターが地方ニュースを読み上げていた。


『次のニュースは、大分郡*旧湯布院町千社せんじゃにあるとり科学研究所で発生した集団失踪事件の続報です。大分県警合同捜査本部の発表によりますと、現場地域周辺の廃社群に失踪した鳥居科学の研究所職員や研究者達の氏名が貼られた千社札の藁人形とともに大蛇の抜け殻が散乱しているのを捜索していた捜査員が新たに発見しました。警察は、何者かが意図的に捨てたと見て調べを進めています…』

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