2.
「言っておくけれど」
浩介が千尋と共に、指定されたスタート地点である昇降口に着くなり、千尋が凜とした声音で言葉を発した。
「お、おう、何だよ?」
「私、あなたと協力するつもりは無いから」
「……は、はぁ!? お前、何言って……っ」
浩介が驚きの余り言葉に詰まった次の瞬間、液晶画面に校内マップが表示された。現在地点である昇降口から、ゴールである第二練武場までの最短ルートが白い光の線で示されている。
画面の右上に、文字がじわりと浮かび上がった。
『ここで示したルートが最短ルートである。これに沿って、最低限の敵を制圧しながらゴールを目指せば、ゴールまでの時間が早かった分得点が加算される。寄り道をして他のルートのペアを助ける等の行動をしても得点は加算される。どういう道筋を辿るかは自由なので、各自で自分たちの力量や出来ることを判断し、ゴールを目指すように』
細かいようでいて大雑把な指示に、浩介はふっと息を吐く。
本来であれば、ここでペアの相手とどう攻略するかを話し合う所であるが……肝心の相手である千尋が、つい今しがた協力を拒んだばかりだ。浩介は頭を抱えた。
「……なあ、神条。これはペアでやる訓練なんだぞ? いくら何でもそれは……」
浩介が困惑した顔で言うと、千尋は浩介の目の前までつかつかと歩いてきて、プレートを掴んだ。一瞬触れた手の柔らかな感触に浩介はどきりとしながらも、千尋をきっと睨む。
「何だよ急に?」
「私の予想では……ほら」
千尋が液晶をタッチすると、右上に「メニュー」と書かれた画面が出てきた。その中に『ポイント基準』という項目があった。
「ほら、これ……」
「何だよ……あ」
浩介と千尋が見た画面には、こう記述されていた。
『得点はペアで記録されるが、それとは別で、どちらが敵を制圧したか、サポートを出来たかなども細かく記録される』
「つまり、私とあなたが別々に行動したとしても、互いの行動がポイントとして加算されるのよ。……そうね、せっかくだから、勝負してみましょうか」
「……勝負って、何のだ?」
「決まってるじゃない」
千尋はふんと鼻で笑うと、長く艶やかな黒髪を指ですっと撫で上げた。
「どちらがより多くの敵を制圧して、ポイントを稼げるか……よ」
「何言ってんだお前は……そんなこと、別行動でもしなきゃ勝負として成り立たないだろ」
「あら、私はそう言っているのよ?」
「……何で俺と勝負なんかしたがるんだ?」
浩介の言葉に、千尋は顎に手を当ててしばし瞑目した。そしてゆっくりと目を開けると、小さな微笑みを浮かべた。
「あなた、どうにも気に食わないの。魔法印の使い方が私と……というか他の全生徒と違い過ぎるから大して気にしていなかったのだけれど、最近あちらこちらで耳にするのよ。『神条千尋と神草浩介は一体どちらが強いのか』なんてくだらない論争をね」
千尋の言葉に、浩介はぽかんと口を開けた。
「……それだけで?」
「それだけよ」
私、白黒はっきり付けないと気が済まないタイプなの……と、黒髪を手で払いながら千尋が浩介を睨み付ける。浩介はため息を吐いて、頭をがしがしと掻いた。
「……お前、本当に何言って……って、おい!?」
浩介が呆れる中、千尋が跳ね上がるようにして走り出す。プレートが示したルートとはまるで違う、辿り着く気があるのかと思うような的外れの方向に。
普通なら、何をしているんだと呆れるところだったが。
相手はあの、神条千尋。学校一の才媛だ。
どれだけ遠まわりしても、どれだけ多くの敵と対峙しても、きっと瞬時に屠り去ることだろう。
「……ったく、何なんだよ……っ!」
一瞬、千尋の言う通り別行動をしようかとも考えた浩介だったが、すぐさま思考を切り替えた。
――今は、あいつを止めないと……っ!
有り余る力を持つが故に、いくら成績も優秀とは言え何をしでかすか分からない千尋の後を追って、浩介は駆け出した。
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