2.

 この学校――私立霧ヶ峰きりがみね高等学校は、およそ20年程前に開校した、歴史の浅い学校である。

 この学校の特色は何と言っても、日本で珍しい、いや、日本で唯一の、魔法印を専門に扱うという点だ。

 通常の高校と同じカリキュラムを組みつつ、それとは別で、通常の学校であれば体育や音楽・美術に当てられる時間を魔法印の修練に充てる。


 この平和な現代日本でこの力を何に利用するのかと言えば――一番シンプルに言ってしまえば、『国を守る』為に使う、この言葉に尽きる。

 この魔法印は実用的なレベルまで極めればあらゆる分野に活かせる。


 凶悪犯の制圧。

 災害時の救出作業。

 火災の鎮火。

 その他諸々。


 卒業した後に警察・消防・教育・介護・サービス・建設等々……あらゆる業種でこの能力が活かされるのだ。


 この学校の設立当初はまるでカルト宗教のような扱われ方もしたが、ここ10年程でその待遇が目まぐるしく改善され、今や「霧ヶ峰の卒業生」というだけで、あらゆる企業や公務員への就職に有利に働く。

 魔法印自体は百年以上前から存在していた。それでも表立って認識され始めたのはここ数十年、社会に受け入れられ始めたのがここ十年程と、かなりの時間差が存在する。


 この学校は、生徒が魔法印を扱える技術を身に付ける他、悪用しない為の心を養うという目的も持っている。近年は魔法印による犯罪が徐々に増え始め、警察内では魔法印関係の犯罪のみを取り扱う「魔法印取締課」なるものまで存在するのだ。


 まだ世間一般からして見れば謎が多い魔法印だが、この学校の中ではまるで文具や本と同じくらい身近なものである。購買部で売っていたり、成績の上位者に配られたり、学校のどこかに隠されているのを見付けたり……その入手方法は様々だ。


 この魔法印は、レベルに応じて重ねる事も可能だ。

「火の二重、炎」「炎の二重(火×4と同等)、獄炎」などと名称も変化する。

 重ねると、印が濃くなったり大きさが変わる。それこそ熟練の者ならば山を覆う程の大きな印を雲に映し出し、「雷」等の印を出すことも可能なのだ。


 そんな、魔法印を中心とした学校で、神草浩介や神条千尋は日々を送っている。


――それぞれが、まるで違う道を歩みながら。

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