ガラス

山芋娘

第1話

 ガラス



 生まれた時から、僕は大きな「ガラス」を持っていた。キラキラでピカピカで輝いている。


 まだ色はない。


 時間が経つにつれ、ガラスは色が付き始めた。赤に黄色にオレンジに水色に緑。他にもいっぱい色が付いていく。色が付いても、キラキラでピカピカで輝いている。

 けれど、色が付いてもまだまだ何もない所がある。まだまだ、いっぱいいっぱい色が付く。


 しかし、いつからだろう。暗い色が付き始めた。はじめは気にしてなかった。少し暗い青い色が付いていた。それも輝けば綺麗なものになると思ってたから。


 でも、ダメだった。


 ガラスは黒く、ドス暗い色に変わっていった。キラキラでピカピカで輝いていたはずの色も全部、黒くなってしまった。


 キラキラもピカピカもない。


 だから、一生懸命、黒いものを拭いた。キラキラでピカピカで輝いていたガラスを取り戻すために。


 なのに、ガラスはどんどん黒くなっていく。色のついてなかった所も、黒く染まっていった。


「こんなの、僕のガラスじゃない!!」


 そう叫びたかった。でも、これは僕のガラスだ。もしかしたら、一生懸命拭いていけば、キラキラでピカピカで輝いていたガラスになるかもしれない。


 けれど、ガラスはひび割れ始めた。ーーピキピキッ。ピキピキッ。音を立てて、ひび割れ始めた。


 ダメだ。これは僕の大切なガラスだ。壊れて欲しくない。まだ壊れて欲しくない。そうだ、ガムテープを貼って、ひび割れの所を治そう。


 シワシワになっちゃうガムテープを不器用ながらも貼っていく。ーーうん、これでよし。

 でも、ガラスのキラキラもピカピカもない。ドス黒い色は、ガムテープすら飲み込んでいった。


「もう、ダメなのかな」


 何度も、何度も、何回も、一生懸命拭いたのに。キラキラでピカピカで輝いていたガラスは、もう戻らないのかな。キラキラでピカピカで色が綺麗だった、あの頃に戻りたい。


 そうだ。戻らなくていいんだ。新しいのを手に入れればいいんだ。


 僕は、僕よりも大きくて分厚いガラスを持ち上げた。高く高く、上に振りかざし、そして一気に地面に叩き落とした。


 ーーパリーン。


 繊細な音だった。あんなにも分厚いガラスが、見るも無残に、そして簡単に粉々になった。


 キラキラで、ピカピカな、輝きを放ちながら。ーーまだキラキラな部分は残っていた。気付かなかっただけで。


「僕はまだやれたんだ。」


 ガラスはあの一枚しかない。もう、キラキラでピカピカで輝いていたガラスはない。

 もうなにもない。

 もう、なにもーー。





 あとがき。

 読んでくださり、ありがとうございます。


 解説というのは、あまりしたくないので、こちらの作品は皆様の想像で解釈してくれて構いません。

(紹介文でちょっとヒント出てますが……)


 以前、今の名前でない時にブログにあげた作品を、再構成して書かせていただきました。今度、原文も上げるかもしれません。


 いつか、朗読劇などで上演してもらいたいな、なんて野望(妄想)を持ったり持たなかったり。


 次の作品もよろしくお願いします。


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ガラス 山芋娘 @yamaimomusume

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