お喋り

「あいつ、また外をほっつき歩いているらしいぞ」

「キルケ様が心配するってのにねぇ」

「ジッとしてられないのかなぁ」


 森の小鳥やリスたちが、キルケの家のテラスに集まりペチャクチャとお喋りをしている。その声は少年だったり、年輩の女性だったりと様々だ。人の言葉を話せるのは、彼らはキルケに姿を変えられた元人間だから。

 それぞれ問題を抱え、人であることを諦めてしまった人たちだ。

 森に守られ静かに暮らしている。


「ねぇ、クロウ様はいつも何処にいっているの?」


 急に話の仲間に入ってきたマリーに小さなものたちの目が集まった。


「おまえ、何でまだ人間なんだ?」

「馬鹿だねぇ、キルケ様がまだ帰ってこないからだろう?」


 手すりに腰かけたリスが首をかしげると、訳知り顔の七面鳥シチメンチョウが突っ込みを入れる。


「キルケ様に受け入れてもらえないうちは人間のままなのさ」


 低い枝に止まった数羽の小鳥が同意するように頷いて見せる。


「まぁ、心配しなさんな。待っていれば必ず帰ってくるから」


『それより話の途中だったね』と、七面鳥は自分のとなりの場所にマリーを招いた。マリーは大人しく隣へ座ると、同じ質問を繰り返す。


「クロウ様はいつも何処かに行っちゃうの?」


「あぁ、大体ね」

「キルケが居ないときは大概町へいってるよ」


 一番最初にマリーへ声をかけたリスと、その下に座っていたアナグマが彼女の問いかけに返事をくれた。


「危ないことばっかりしてる! 怪我したらどうするつもりなんだろう?」


 枝の上からカササギがやかましい声で非難する。


「あいつは強いから心配ないさ」

「分かるもんか! キルケ様が泣くよ!」

「泣くもんか!」

「女心のわからない男だね!」


 クロウを弁護したカワウソと七面鳥が言い合いを始める。

 矢継ぎ早に続くお喋りにマリーは耳を傾けていた。噂話を聞くのは慣れていたから早口の彼らの話でもよくわかる。



「森から一番近い町の東の方にある貴族たちの保養地にいたよ」

「ちょいと、何であんたがそんなこと知ってるのさ!」


 マリーへこっそり教えてくれたコマドリの言葉に七面鳥が食って掛かった。まだ幼い少年の声をした小鳥は、しまったと言ったようすで毛を逆立てる。


「はっきり言いな!」


 遠くまで黙って出掛けたらしいと気がついた七面鳥のおばさんはコマドリを睨み付けた。コマドリは渋々口を開く。


「見たんだよぅ。その町の通りを歩いているクロウを」


「何だってそんな遠くの町までいったんだい! いつも言っているだろう? 町は危険だって! お前みたいな子供がほっつき歩いていたら直ぐ食い物にされちまうんだよ!」


「だって、貴族のお姫様は鳥に優しくしてくれるんだ。歌だって誉めてくれるし、美味しいおやつもくれるよ」


「馬鹿言うんじゃないよ。鳥かごに押し込められてから後悔しても遅いんだからね!」


 それからは七面鳥のおばさんがコマドリの少年にお説教をはじめて、お喋りの輪はお開きとなってしまった。


 でも、聞きたいことは聞けたと思う。

 マリーもその町なら知っている。花売りの仕事をさせられたとき、通りに花カゴを持って立っていたから。全部売ることができなくて何度も殴られたことも思い出した。

 今はアザがなくなって綺麗になった頬をそっと撫でる。


 良かった直ぐに綺麗になって。

 あんな顔ではママに会ったとき、自分の娘だと分からないかもしれないもの。


 マリーは立ち上がって服を払うと、森の外へ続く白い砂利の道を見つめた。

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