町のパン屋
パン屋はすぐに見つかった。
穏やかな風がパブロの鼻に、美味しそうな匂いを運んで来たから。通り沿いに並んだテーブルには、お喋りに興じるご婦人や、のんびりとパイプをくゆらす紳士たちの社交場となっている。
ドアベルを響かせ店内に入ると、スパイスやフルーツの甘い香りがパブロの腹の虫を騒がせた。棚に並ぶ、まだ温かそうな艶々したパイに目を奪われながらカウンターへ近づけば、店の主が優しげに声をかけてくる。
「坊ちゃん、ご入用の物は決まりましたか?」
緊張の面持ちでメモ紙を渡すと、目を通した店主は少し驚いたような、それでいて懐かしいものを見るような笑みを浮かべた。パブロに『確かに承りました』と、愛想よく頷くと奥に声をかけた。
「ミミ、この坊ちゃんにクッキーを包んであげて」
ミミと呼びかけられたエプロン姿のご婦人は、白い紙に気前よくクッキーを包んでくれた。カウンターから出てくると、視線を合わせる為にひざを折り包みをパブロへ差し出す。
「お家の方にくれぐれも宜しく言って下さいね」
微笑みかけられパブロは気恥ずかしくなってただ頷いた。
でも、この優しそうな人達なら、何か教えてくれるかもしれない。そう思ったパブロは、胸のドキドキを押さえながら封筒を取り出した。
「あの、この封筒に見覚えはありませんか? ローザっていう子を探しているんです」
少し驚きながらもミミは封筒を受け取り、少し考えるように子首をかしげた。カウンターを振り返り店主に尋ねる。
「ねぇ、あなた。この封筒って町長さんから贈られてくるクリスマスカードよね?」
奥で仕事をしていたのか、タオルで手を拭いながらカウンターへ顔を覗かせたルカは妻が持つ封筒を見て頷いた。
「そうだね。家に来たのとよく似ているよ。なかにクリスマスツリーのカードが入っているだろう? チャリティーパーティの招待状だね」
パンを買いに来たお婆さんが話を聞いていて会話に加わる。
「確か町長さんには可愛らしい娘さんがいたはずだよ」
『名前は何と言ったかねぇ』思い出そうとして遠くを見つめるお婆さんにミミが助け船を出した。
「えぇ、確かローズかローザだったと思うわ」
「そうそう、ローザだよ。町長さんの娘さんはローザ!」
喉に小骨が引っ掛かったように、なかなか思い出せない気持ちの悪さから解放されてお婆さんは嬉しそうに微笑む。
「何か用でもあったのかい?」
店主に優しげな緑の瞳を向けられてパブロは口もごる。ミミとお婆さんは、彼のその様子に何となく恋の予感がして楽しそうに目をあわせて肩をすくめた。
「坊っちゃん。町長さんの家はここを出て右の通りの橋を渡った先だよ。大きな鉄の門の奥に噴水のある家さ」
お婆さんがこっそりパブロに耳打ちして楽しげにきらめく目で頷いて見せた。
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