幽霊屋敷レストラン・偽典

贄乃なまにえ

偽典・幽霊屋敷レストランができたわけ 前 

「おぉい、みんな、どこへ行ったのかな」


 林の中はもう真っ暗、持っていた懐中電灯の明かりも頼りなくチカチカと揺れている。くそう、こんなことならケチらずに新品の電池を買っていけばよかったんだ。でも悔やんでもどうしようもない、風に揺れて擦れあう雑草をかき分けながら歩みを進める。


 腕時計は8時半を示している、リュックの中でくしゃくしゃになった旅のしおりによるともう晩ご飯の時間だ。ああ、暑い、シャツが湿気と焦りで汗ばみぴったりと身体に張り付く。本当なら今頃ぼくはオカルト研究部―――通称「オカ研」の仲間たちと一緒に林間の小屋でキャンプファイヤーを囲んでおいしいご飯を食べているはずだったのに!どうしてこんな目にあっているんだ。


――――――――――


 「われわれオカ研は、この夏にF県にある廃墟を探索しに行く!」


 ひょろりと背の高い眼鏡の部長、タニオカ君が週に1回の部の終わりに突然こう言った。ぼくたちは呆気にとられたけど、みんなそれにすぐさま頷いた。だって、オカ研に入って3年間、部のみんなと旅行したことなんてなかったのだから。


 それから2ヶ月後の今日、雰囲気が出るということで林の入口についたのは夕方の六時頃だった。そこから各々林の中にある「幽霊が出る」と噂される廃墟を探し当て、みんなで持ち寄った晩ご飯を食べてからそこに肝試しに行く。聞いているだけでわくわくするようなその計画も今になってしまえば不安の種にしかならなかった。


「みんな、待っていてくれるかなあ」


 意気揚々と随分と深いところまで来てしまったぼくの胸には不安が大きくなるばかり。みんな、ぼくを放って晩ご飯を食べているのかなあ。明日の朝になったらぼくを林に残して帰ってしまうのかなあ。普段は考えないような暗いことも、1人ぼっちだと考えてしまう。


 喉も乾いた、お腹もすいた。ほかの部員たちはどこにいるんだろう。こんなことになるなら最初から―――


ぶ お う


 突然、まるで殴りつけられるような強い風の音がした。ぼくの顔に見えない力が当たる、木々が揺れる、揺れる。ぼくはばさばさと落ちてくる葉に目を閉じた。


 強い風はすぐに止み、ゆっくりと目を開けるとすぐ目の前に明かりのついた赤レンガの建物があることに気がついた。あれ、おかしいな。さっきまでこんなものあったっけ。


 門の上には大きな看板、黒い板に白い文字でこう書いてある。「幽霊屋敷レストラン」


 そんなばかな、こんな閑散とした林にレストランだなんて。だいたい、いわくつきの廃墟の噂にあやかったレストランなんて、罰当たりだ。


 しかし、ぐうきゅるるる…。少し開いた窓の隙間から香るいい匂いに心よりもお腹が音を上げる。財布を持ってきていてよかった、きっと部員たちにもいい土産話になるだろう。勇気を出して、ぼくは西洋風のドアーをノックした。

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