サマーコンタクト
別府一
一人ぼっち
セミの鳴き声が辺り一帯に共鳴し、夏の雰囲気をより一層醸し出していた。容赦ない日差しが青年の体いっぱいに当たっている。重い足取りながらも暑さから逃れるために懸命に歩を進めてる。今日は夏休み前最後の登校日だった。同じクラスの子たちは夏休みの予定の話で盛り上がっていたが、僕はいつも通り一人で机に向かって本を読む。友達がいないのには慣れていたが、こういう行事のある時期は寂しさがいつもより強くなる。中学生の頃までは友達もいて学校生活も順調に進んでいた。けれど高校に入ってからは友達とはバラバラになり、新しい環境に馴染めずにいた。中学時代の友達とも疎遠になってしまった。学校が嫌になっているが、不登校やサボる勇気もない。···味気無い辛い毎日に愛想が尽きてきた。
「大丈夫?信号青になったよ」
ボーと考え事をしていたせいで信号が変わっていたことに気が付いてなかったようだ。
「あ、すみません···」
「何年生?私、2年A組だけど」
ん··同じ学年だけど知らないな··
「自分も2年だけどC組だから」女性と話すのは正直苦手だったため、なるべく視線を合わさず言いながら歩いた。
「C組なんだね。あ、そっち曲がるの?私もそっちから帰るから一緒に帰ろ。」
「え··あ··そうなんだ。いいけど··」何か慣れないな~急に近寄って一緒に帰ろって、どうも府に落ちないなぁ。
工藤の疑念をよそに、女の子は話しかけてくる。
「私高瀬美咲っていうの。よろしくね。そっちは?」
「工藤工。」あぁ、女子と話すなんてどれぐらいぶりだよ··
「工君ね。よろしく。私さ、あんまり友達いなくてね、気が合う人がいないっていうか··う~ん今時の子とズレてるのかなって思ってて。」少し落ち込んだ感じで美咲は言った。
社交的な女の子とかと思いきやそういう一面もあるんだなと意外そうに思った。自分も周りの子とは気が合わないのは一緒だ。中学生の頃は確かに友達はいたが、無理して付き合っていた所もあった。だから高校入学と同時にバラバラになって付き合いが遠のき、疎遠になってしまうのだろうと思った。
共感して気遣うように工藤は語りかけた。
「僕も実はそんな感じでさ、クラスで浮いてるんだ。友達も今は0で··。でも、それでもいいと思ってるんだ。無理して作ったって本当に仲いいわけじゃないのに疲れるだけだよ。」
「工藤君もそうだったんだ!うわ~何か嬉しい、仲間がいて。そうだ!うん。きっと私たち仲良くなれるよ!今日こうして会ったのも何かの縁だよ!」心の底から嬉しそうに言った。
すぐ横で大喜びでしゃべりかけてくる女の子に、思わずドキッとした。こういう明るい性格の子だから親近感の湧く言葉が出てくるのだろうけど、女子に慣れてない自分は勘違いしてしまいそうになる。
変な感情を否定しながら言った「うん、ありがとう。さすがにずっと一人に疲れてきたところだから、嬉しいよ。」
美咲は嬉しさいっぱいで言う「私も嬉しい~もう他に学校で仲良くなれる人いないんだろうな~って諦めてたから。」
「自分ももうずっと一人ぼっちかと思ってたけど、夏休み前に見つけられて良かった」
「そうだ!今日で学校最後だったね。すっかり忘れてた」
「ははは」
笑ってるところもかわいいと照れを隠しながらも、僕も笑った。夏休み前の最後の日にこんな出会いがあるなんて思ってもみなかった。生きてればどんなことが待ってるかわからない。悪いこともあればいいこともある。だから人生面白い。ふと、おばあちゃんの口癖を思い出した。これから始まる夏休み、きっと楽しいものになる。そう信じてー
そうして、この青年工藤工と運命の少女高瀬美咲とその仲間たちとが織り成す、一夏の冒険が始まろうとしていた。彼らの未来と人類の未来が動き始める。
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