第9話:秘密と居場所

「そうか。それで? まさかそんなどうでもいい情報を、目玉の情報にしているわけではないだろうな?」

『ま・さ・か。そんなはずないじゃないですかぁ。目玉な情報はこれからです。彼女らが持っている「能力アビリティ」についてですよ。お二人に対しては、どうやらそれを使う暇がなかったようですが、彼女らとて立派な超能力持ちです』

「能力……なんだ?」


 サーチライトが持つ、とっておきの極秘情報についてグラシアは訊ねる。それを、相手は出し渋ることなく答える。


『姉の麗、彼女は透視能力を使います。意識を集中することで、人の目では通常見えない様々なモノを見通す力があるようです。遮蔽物の向こう側、物体の本質、人間の感情――現在確認されているだけでこれぐらいでしょうか。これだけの物を見抜く眼力を持っているとのことです』

「妹の方は?」

『静は念動力ですね。静止した物体に限り、半径五から十メートル範囲で、自在に持ち上げたり動かしたりすることが出来るようです。もっとも、その力も意識を集中させる暇があれば使えるという条件付きのようですが』

「つまり……二人とも意識を集中する時間がなければ能力を発揮できないってことか?」


 グラシアが敏く悟ると、サーチライトは再び指を鳴らす。


その通りThat's right! どちらも強力な能力を持っていますが、貴方がたのような身体能力が化け物な連中には相性が悪いようです。まぁ何が言いたいかというと……』

「不意打ちさえさせなければ問題ない、ということか」

「その通り! ってか?」

『……私の決め台詞を取らないでいただきたい、プンプン』


 先読みして言うアンガーに、サーチライトは抗議の声を上げる。不満げな相手に、しかし散々不快な思いをさせられている二人はそれを無視する。


「よぉく分かった。なら、俺たちがするべきことは決まったな」

『ほう? 何が決まったのです?』

「そんなの、決まっている!」


 はっきりとした様子で、アンガーは拳同士を打ち鳴らした。


「やられる前にやる! 相手が俺たちを狙ってくるなら、その前に俺たちから奴らを襲うだけだ」


 このまま黙って相手の再来を待つような愚を犯すつもりはないのだろう。自分たちを狙う相手に対し、今度は自分たちから逆襲を掛ける宣言をすると、アンガーは画面に顔を近づける。


「相手も俺らと同じ新人類――相手にとっては不足なしだぜ! というわけでサーチライト、早速そいつらの居場所を――」

「待て。その前に一つ訊くことがある」


 勢いづくアンガーだったが、それをグラシアが制する。アンガーを止めた彼は、冷たい目で画面の向こうを見据える。


「サーチライト。彼女たちを雇って俺たちを狙わせた奴は誰だ。知っているんだろう?」

『えぇ勿論。そう訊いてくると思って、既に調べ上げてありますよ』


 問いに、サーチライトは得意げに頷く。それには、グラシアが問いかけてくることを想定していたことを誇りたいような様子が窺がえた。

 そんな彼の誇示こじ歯牙しがにかけず、グラシアは言う。


「ならば、そいつの居場所を教えろ。姉妹の始末はその後だ」

『なるほど~。ですが、その件については別料金ですよ』

「いくらだ?」

『最低でも五千。さっきの凛姉妹の情報と合わせて、七千五百のお支払いです』

「分かった。言え」

『ははは。太っ腹ですねぇ』


 即諾するグラシアに、サーチライトは感服した様子で笑う。今回は嫌味なく、素直な笑い声のように感じられた。


『いいでしょう。お伝えします。ですが、姉妹の居場所と別々に言う必要はないと思いますよぉ』

「は? なんでだ?」

 

 アンガーが、相手の言い方が気になった様子で不審がった。

 その反応に、仮面の人物は『おそらくですが』と前振りした後で、こう断言する。


『あと数時間以内に、雇い主はあの姉妹を始末する手筈でしょうからね』

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