マッドネス・カプリチオ
嘉月青史
第1話:【イカれた二人組】のプロローグ
「退屈だああああああああああ!」
燃え盛るような赤髪に
「こんな簡単な仕事だとか聞いてねぇぞ! ふざけんな、ふざけんなよおおお!」
彼の憤りと落胆の原因は、その周囲にある。彼の足下にはそこらかしこに人の群れが転がっていた。黒いスーツを身に纏い、手元やその周囲には拳銃を手にした者たちが、
そう、粉砕だ。骨格を変え、歪に形を歪めながら、
ここは、地元では名の知れた犯罪組織のアジトだった場所である。それが今、完膚なきまでに、容赦なく潰されていた。
それを為したのは、この青年たちである。彼らは、数十人いたアジトの構成員を一網打尽にし、そのことごとくを足下の如く討ち取ったのだ。とても常人では成し遂げられぬことであり、達成したのであれば、なかなかの爽快さが伴うことのはずだ。
しかし、大仕事を成し遂げたはずの彼は、痛く不満そうであった。
「もっと頑張れよ! 踏ん張れよ! この程度の殴り合いで沈んでくれるなよ
唾が飛びだす勢いで、アンガーは怒鳴り続ける。
それもそのはず、この青年の望みは一方的な虐殺ではない。
拳を武器にしている以上、たった一撃では仕留め切れない強敵もいる。そんな相手との戦いを、熱い一戦を彼は希求していたのだ。
そのはずが、彼の周りに転がっている雑魚は、全員が彼の一撃によって沈んでいた。そのことが、彼にとっては
「なんだよ、なんだよおおお! こんなの全然面白くねぇじゃねぇか! くそったれえええ!」
「はいはい。分かったからとっとと引き上げるぞ」
咆哮を続けるアンガーに、冷めた声がかかる。少し
「後始末は警察どもの仕事だ。報酬もつつがなく払われるだろう。もうこんな辛気な場所に用はない」
「おい、グラシアぁー」
事務的に告げる青年に、アンガーが振り向く。その呼び掛けに、相手は足を止めると、一瞬嫌そうな顔をしてから顔だけ振り向く。
「なんだ?」
「話と違うじゃねぇかぁ! こいつら、ここでは名の知れた組織じゃなかったのかよぉ!」
「そうだな。確かに、この地域じゃもっとも強大な犯罪勢力だ。だが、所詮は弱者から金を巻き上げるしか能がない連中でもあった。ただそれだけの話だ」
眼鏡を持ち上げながら、冷然とした口調で、青年ことグラシア・ハートレスと言う名のこの青年は告げる。そこに感慨はない。ただ事実の確認だけを行なう口調だった。
「そういうわけだ。いいから、とっとと帰るぞ。長居は、身体に血の臭いを染みつける」
「……この欲求不満、どこにぶつければいいんだよぉ?」
「いつも通り、アルコールにでもぶつけていろ」
ひたすら冷たく言い放つと、グラシアは撤収作業に移る。あくまで淡々と行動を告げる彼を見て、アンガーは更に何か言いかけるものの、やがて言葉を呑みこんで肩を落とすのだった。
犯罪組織を潰しておいてその戦いに不満を訴えるという、文字通り熱血漢のアンガー。
一方それに対して、一切の昂揚も感慨も見せない冷血漢であるグラシア。
正反対の性格を持ち、しかし凄腕のタッグとして知られている彼らのことを、多くの者はこう呼んでいる。
【
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます