第441話 大阪府東大阪市足代新町のラーメンこってり(並)と瓶ビール

「今日は、抵抗しない」


 日曜の夕方。高貴な鶏の店で一杯やった後のことだ。


 店の前には、天下に一つの店。いや、少し先には天下に第一の店もある土地だが、それは置いておいて。


 いつもなら、〆まで喰って終わりにするが、今月は無料券の期限がある。最初から、ここで〆るつもりであれば問題はない。


 が。


「こってり唐揚げ、仕込み中、だと……」


 店頭に、表示が出ていたのだ。無料の一杯だけではなんなので唐揚げを付けるつもりだったが計画が狂った。


 いや、いい。


 メインは麺なのだ。


 予定通り店に入る。比較的早い時間だけに席は空いていた。


 空いているカウンター席につき、メニューを見る。サイドメニューは唐揚げ以外は、今一ピンとこない。


 なら。


「ラーメンこってり並と、瓶ビールで」


 と注文を済ませる。そうだ。もう一杯やればいいのだ。


 すぐに出てきたビールをチビチビやっているとすぐに麺もやってくる。ゴ魔乙をやる暇もないが、そういう日もあるだろう。新しいリリーはないが、衣装は確保したから問題はないのだ。


「ああ、この味……」


 セントラルキッチンながら店舗ごとのアレンジがOKのためムラがあるものの、ここは比較的基本的な味なのだ。


 ビールを楽しみながら、こってりを味わう。飲んだ後に、染みる一杯だ。飲んだ後の麺は、どうしてこうも旨いのか?


 幸せをかみしめるように、麺を噛みしめる。


 しばしそのままの味を楽しみ、途中でラーメンのタレを投入。味が濃い目になる。


 さらに、ニンニク唐辛子を投下。味が辛くなる。


 それでも負けない、こってり味。


 そうだ、この味だ。昔から親しんできた味わい。ビールが飲めないころから親しんできた味わいなのだ。


 ゆったりと、麺を、ビールを楽しみ。


「もう、終わりか」


 さすがに、麺だけだとあっという間だ。


 とはいえ、ここで終わりではない。


 最後の一滴まで、いや、レンゲでこそいでどんぶりに残ったところまで追いかけて、楽しむ。


 飲み干してしまった、命のスープを。


「ああ、今年に入って性癖に刺さった眼鏡キャラは『2.5次元の誘惑』の夜姫様だが、最近、『不徳のギルド』のトキシッコも裸眼にも関わらず刺さっている」


 古来より、ラーメンを食うと思わず心の声が漏れるとどこかの殺し屋が言っていたのを思い出す。誰も聞いていないからいいだろう。そもそも、元は魔女っ娘属性だったのだ。刺さっても仕方ない。


 〆に喰らうラーメンに素直な気持ちになったところで、最後に水を一杯飲んで一息入れる。


「ごちそうさん」


 麺は無料券で、ビールは現金で清算して、店を後にする。


「さて、帰るか」


 布施駅へと、足を向ける。


 

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