第357話 大阪市中央区南船場の小ぶた(野菜マシマシニンニクマシマシアブラカラメアレ)

「さて、どんな反応が出るやら」


 感染症が世界を席巻する昨今。人類の叡智はただただやられるだけではなく、対策を講じてきたのである。


 勿論、完全な対策などはない。複数のリスクがあれば、よりリスクの小さい方を選択するのが科学的な視点というものであろう。


 ダメージがゼロにならなくても、バフの大切さは身に染みているはずだ。プロテスかけてなければ死んでた場面もあるのだ。


 そういうわけで、二回目の感染症へのバフを終えた帰り。


「買い物もあるし、しっかり喰って帰るか」


 なんばで降り、南側の改札から出て Namba なんなんの途中で階段を上がる。なんば南海通りを東へ進み、右折すれば道具屋筋が見えてくる。その手前で左折。次を右。次左。もうどっちがどっちでも同じということにはならず、オタロードに続く道に入ったところで左折すれば、目的の店……


「閉まってる……だと」


 どうも、臨時休業のようだ。


 これは、困った。いや、大丈夫だ。なら、別の店がある。


「まずは、買い物を済ませよう」


 オタロードへ向かい、いくつか買い物を済ませ、


「喰いたい者のイメージは変えられない、か」


 いくつか候補があるが、それなら……


 ということで、気がつくと心斎橋へとやってきていた。


 北側の改札を出て、御堂筋を北上し、しばらくして右折。商店街の手前の黄色いテントへと。


「よし、ここは空いているな」


 先客が少し並んでいるが、これぐらいなら大丈夫だろう。もう、我が腹の虫はこの系統のものを喰わねば収まらないのだ。

 

 並ぶ前に、食券機の前に。


「肉を食って栄養でバフもしておくか」


 小ぶたのチケットを確保。要するに豚を増量したラーメン小である。つけ麺やまぜそばもあるが、ここはやはり、ラーメンでいこう。


 それほど待たず、客が捌けて席が空く。


 水と紙エプロンを確保して、案内された席に着く。


 食券を出せば、後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は五乙女の夏イベント中。とはいえ、リリーが出てこないのでのんびりしたものだ。軽く出撃し……


「APが、ない」


 そういえば、道中で既に出撃を済ませていたのだった。すごすごとゴ魔乙を終了し、国鉄が分割民営化されず鉄道公安隊が継続している世界線の物語を読み進めていると、


「ニンニク入れますか?」


 と。


「ニンニクマシマシ。あと、ヤサイマシマシアブラカラメアレで」


 詠唱すれば盛り付けが始まり。


 ほどなく。


「おお、こうなるか」


 注文の品がやってきた。


 大きな丼の上に、ドーム状に盛られた野菜の山には、脂の白とオレンジの彩り。これは、アレ~ホットマヨである。要するに唐辛子入りのマヨネーズだ。山に寄り添うように五枚の豚が鎮座し、その傍らにはたっぷりの刻みニンニク。


「いただきます」


 まずは、野菜を。もやしとキャベツの甘み。軽く纏った脂の旨み。ホットマヨの酸味と辛味。いいぞ。


 バクバクと野菜を喰らい、


「これだけあれば、先に一枚」


 豚を囓る。タレ味のついた豚は、なんというか酒のつまみによさげな味わい。そこを野菜で追い駆け、喰らう。肉を喰ったら野菜も食う。それができるのだから、これは健康的な食べ物なのである。


 脂とホットマヨとニンニクを適度にスープに溶かしつつ、野菜を喰らっていけば、ようやく麺に到達。太くて固めの麺は食べ応えがある。


 バフにバフを重ねていくような勢いだ。


 ついでに胡椒を掛けてピリッとした刺激も加えればバッチリである。


 豚を野菜を麺を喰らっていけば。


「少し、多過ぎた、か?」


 まだ胃に余裕があるが、思ったよりもペースが遅い。ホットマヨの効果もあるだろうが汗がダクダクと流れて来た。


 ついつい、マシマシしたくなってしまう。たとえ店が閉まっていても、こうやってすぐに別のところでありつけてしまう。


 仕方ないのだ。マシマシ出来る店が、ウジャウジャあるぞ。ここにもそこにもあそこにも。だから、迂闊に詠唱してしまうのだ。


 いいだろう、これが、私の今日の選択なのだ。


 喰らおう。


 豚を豚を野菜を麺を。モリモリ喰らう。時に白胡椒を唐辛子を加え。


 喰らう。


 野菜の水分で薄まったなら、ラーメンタレを足し。


 喰らう。


 最後は、さっぱり行こうと酢を回し入れて。


 喰らう。


 そうして、遂には。


「終わり、か」


 もう、野菜と麺の破片が残るのみ。


 流れる汗もそのままに破片を追い駆ければ、酢が後味をさっぱりさせてくれていた。


 これで、終わりだ。


 最後に水を一杯飲んで一息。


「ごちそうさん」

 

 食器を付け台に戻し、店を後にする。


「いい汗、かいたな」


 なら、帰って風呂だ。


 さっさと帰るべく、駅へと足を向ける。

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