第146話 大阪市浪速区難波中の醤油らーめん
『夏』が近づいてきた週末。
前日に発売されたデジタル版のカタログを確保しに日本橋を訪れていた。
「アツイゼ アツイゼェー アツクテシヌゼェーッ!」
駅から地上へ上がり、太陽の下にさらされた瞬間脳裡をよぎったのはそんな言葉だった。
ネタでもなんでもなく死ねる暑さだ。
これは、早々に用事を済ませて帰るに限るな。
堺筋を南下し、なんさん通りで西に折れ、最初の角を南へ入ればオタロードだ。
ここならいくらでもカタログを確保できるが、ポイントがたまっているのでメロンブックスまで向かう。
オタロードに入ってすぐ。
ソフマップ難波店ザウルスにほど近い店の前に列があるのが目についた。昼時は大分過ぎているが、休日の昼間だけあって繁盛しているようだ。
そのまま、ゲーマーズやらとらのあなやらを通り過ぎ、アニメイトビルに至る。
そのまま四階までエスカレータで上がり、メロンブックスでサクッと買い物を済ませてミッションコンプリート。
この暑い中歩き回るのはキツイ。
速やかな撤収が望まれる。
だが。
「腹が、減った……」
そういえば今日は朝から『夏』の準備に追われていて、昼飯がまだだった。
足を延ばす余裕はない。帰り道でサクッと済ませられるところを探そう。
そうして、オタロードを北上していくと、
「あ、さっきの列なくなってるな」
ソフマップ前の同系列が二店舗並んだ麺屋の南側の方である。
しかも。
「お、今日は記念日でワンコイン……」
毎月の特定の日に実施されるサービスだが、そういえば今日がその日だったか。
店を探す余裕などないのだ。
通り道の店がすぐ入れそうなだけでもみっけもん。
更にお得なサービス実施中とあれば、
「行かない理由はないな」
そのまま店へと足を踏み入れ、食券を買おうとしていたところ、
「カウンター一杯なんで食券買ってお待ちください」
とカウンターを喰らってしまった。
列がないだけで、満席だったようだ。
とはいえ、すぐに空くだろう。
暑い外に出るのは辛いが、店のすぐ前は日陰なのでまだましだろう。
幸いにして、すぐに席は空いて熱に焼かれる時間は最小限に済んだ。店員に奥のカウンター席へと案内される。
食券を出せば、醤油と塩が選べるようだが。
「醤油らーめんで」
ここは基本に忠実に行き、その他のカスタマイズは、
「麺固め、味濃いめ、アブラ少なめで」
更に、
「麺大盛り無料ですがどうしますか?」
と来たので、
「大盛で」
と答えてオーダー終了。
反射的に答えたが、まぁ、大丈夫だろう。
これで後は待つばかり……ではない。
この時間はライスバーがオープンしている。
ご飯食べ放題。
甘美な響きが、腹の虫を誘惑するのである。
奥の席だけに、確保に時間が掛かる。
先に確保しておいた方がいいだろう。
一度席を立って入り口付近のライスバーへ。
備え付けの茶碗に、ご飯を盛り付ける。
しゃもじに一、二、三……もう少しいけるな。
四、五……。
気がつけば、こんもりと盛り上がった米の詰まった茶碗があった。
麺も大盛にした。
ご飯も大盛にしてしまった。
脂肪フラグを立てまくってしまっている気がするが、大丈夫。
「この暑さを乗り切るためには、栄養が必要なんだ」
完璧な理論だ。
安心して席へと戻る。
まだ麺は出てくる気配がないので、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。
現在は再びの『ローゼンメイデン』コラボ中であるが、ドールばかりでのり姉ちゃんとは契約できないようで残念だ。それはさておいて、イベントステージで真紅の想いを集めたり学園の試合をこなしたりしていると、注文の品がやってきた。
「う~ん、家系」
白濁した豚骨醤油のスープに、丼の縁に並んだ大きな海苔。
緑鮮やかなほうれん草に、うずら玉子とチャーシュー。
いかにもご飯に合いそうな見た目である。
「頂きます」
箸を手に取り、中太麺を啜れば、ガツンとくる豚骨醤油味。濃いめにしたので塩分マシマシになって暑さでミネラルを奪われた身体に嬉しい味わいだ。
「もう、こうするしかないな」
茶碗を手に、麺を啜っては米を喰らう。
ああ、なんて米の進む麺であろうか。
ご飯に麺を乗せて喰うまである。
だが、それだけで終わっては勿体ない。
「今度は海苔で」
スープを浸した海苔で米を巻いて頂く。
「豚骨醤油おにぎり……」
握ってないがそこは気分だ。
三枚の海苔で三つのおにぎりをバクバクといく。
麺も追加でいただけば、糖質によって脳にガンガンぶちこまれる多幸感。
そこそこ幸せを味わったところで、新たな幸せを求め席に備え付けのおろしにんにくを投入する。
「こいつは、精が付くな」
濃いめの味にパンチが加わって、心地良い刺激が脳に伝わってくる。
食欲が加速されていく。
麺とご飯を主体にしていたため大分残っていた具材を勢いで喰らうことにする。
うずら玉子を一口でいただけば玉子の甘みでほっと一息。そのまま豚豚しいチャーシューも喰らい、ほうれん草でサッパリ締める。
定番だけに安心の組み合わせの具材だった。
さぁ、後は麺米スープ麺米スープ……めくるめくスーパー糖質タイムだ。
どちらも大盛にして正解だった。
幸せが長続きしている。
しかし、無限ではない。
段々と終わりが近づいてきたところで。
「最後はこっちも入れるか」
備え付けの豆板醤を匙に軽く一杯投入すれば、白っぽいスープに赤みが差す。
見た目だけでなく、
「やっぱり、味もガラッと変わるなぁ」
だからこそ、終盤まで控えていたのである。
最後の〆でアリシンにカプサイシンも加わり、夏対策バッチリの食事になった。
後は、麺と米を食い尽くすのみ。
食い終わるころには、糖質をキめてすっかり気分がよくなっていた。
そのまま、丼に残ったスープもゴクゴクといってしまう。
少々ショッカラいが、夏だからセーフ。
一気に飲み干してしまう。
まくり成立だ。
店員に声を掛け、細々としたサービスを受けられるまくり証明書を手に入れ。
最後に、水を一杯飲み干して一息吐き。
「ごちそうさん」
店を後にする。
「少々食い過ぎたな」
腹ごなしに歩こうかと思ったが、容赦なく照りつける太陽光の攻撃力に辟易とする。
「無理はしないに限る」
腹ごなしで熱中症になっては無意味だ。
「帰ろう」
寄り道せず、最短距離で帰るべく駅へと向かう。
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