第2話 回想

○ 回想。日本の食堂


  同僚の木村(40)と向かい合う倭。

木村「倭さん、中国人と結婚するんだって?」

倭「うん」

  面食らっている木村にうつむき加減にうなずき返す倭。

木村「なんだって中国人?日本人でいいじゃないか」

倭「そうなんだけど……なかなか出会いもないし……」

木村「お相手はいくつ?」

倭「23歳。おれが43だから20歳年下」

木村「年齢差20!犯罪だ」

倭「これもご縁です」

木村「まさかもう決めたんじゃないだろう」

倭「決めた。金も振り込んだ」

木村「……いくら?」

倭「いいふらすなよ……いろいろと三百万ほど……」

木村「さ、さんびゃっ!」

  口ごもる倭に思わず腰を浮かす木村。

木村「倭さん、あんただまされているんじゃないのか」

  周囲をキョロキョロと見回し小声になる二人。

倭「まさか」

木村「いい話はきかないよ。それどころか悪い噂ばかりだ」

倭「たとえばどんな?」


木村「倭さんの結婚話を聞いてから心配になって調べてみた」

  木村はポケットからメモ帳をとりだした。

木村「まずおはようの挨拶ぐらい気軽に嘘をつく。ソースは中国出張の多いわたしだ」

倭「かなり主観がはいってないか」

木村「奴らとつきあってみればわかる」

  苦々しい表情の木村。

木村「いちばん驚いたのが国際結婚の離婚率。何パーぐらいだとおもう」

倭「20、いや30か?」

木村「なんと45パーセント、ほぼ半数は離婚している勘定だ」

倭「……木村くん、世の中には三つの嘘がある。知ってるか?」

  倭はわざとらしく真剣なまなざしをおくった。

木村「なんの話?」

倭「それは大きい嘘と小さい嘘、そして最後に統計の嘘だ」

木村「倭さん、いまあなた現実から逃げましたね」

倭「さて……」

  倭は視線をそらした。

木村「それでお相手はどんな人なの?」


○ 結婚相談所


林「ナマエは楊小雪。二十三才。職業は教師。再婚」

  マオカラースーツの林所長(63)がソファーの倭に一枚のA4紙を手渡した。

倭「きれいな人ですね。でもバツイチということは子供さんは?」

  印刷された写真と簡単な身上書を凝視する倭。

林「バツイチ?ああ離婚ネ。子供いても中国はヒトリ子政策ですからすべて男の親、引き取る」

倭「ああそうですか……えーと林さん、学歴が高卒になっているけど教師って?」

林「ちゅ、中国では高卒でもなれる、です!」

  胡散臭いが倭は写真に見とれていて気づかない。

林「気にイたら、顔見て話する。いいですか」

倭「顔見て話?」

林「テレビ電話。わたし通訳するから大ジョブ」


  髪を撫でつけドキドキしながらパソコンの前に座る倭。

  画面にはすでに自分の姿が小さなウィンドウに表示されている。

倭(うわ、おれってテレビ映り悪いんだ)

林「もうすぐ映像くるよ」

  上辺から黒髪が現れ、塗り替えるように映示される。

楊<倭さん>

  呼びかけてきたのは女装した杉山だった

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