第4話 ノーベル賞にクレームする少女
「金、返せ」
授賞会見に突然、細いけれども澄み切った声が響き渡った。
報道関係の人間たちも瞬間に静まりかえった。
「金、返してよ」
少女、と言って差し支えない年齢だろう、おそらく。カネ、という言葉を二度繰り返し、33歳の若さでノーベル物理学賞を受賞した帝大の田辺博士の会見席にその少女は歩んできた。
警備員が取り押さえようとすると、
「どけ!」
と逆にその少女が怒鳴りつける。余りの怒りの発露に周囲が圧倒される。
「元金580万円と損害金840万円。父さんとわたしとで返した。その為にわたしは高校を中退した」
ガン、と少女は報道機関のマイクやICレコーダーが置かれたテーブルを蹴り上げる。
「この子、誰です?」
「・・・僕の従妹です・・・」
そっと訊いた会見の主催者に田辺が呟いた。
「聞いてんの?伯父さん・・あなたの父親のことだよ!学資ローンか奨学金か知らないけど、わたしの父さんまで巻き込んで。自分はさっさと自己破産してさ。結局借金であなたは他人に尻拭いしてもらって研究続けてきたんじゃないの!」
あるテレビ局の記者が諭す。
「ねえ、君、これ、ノーベル賞の授賞会見なんだよ。全国の人が祝福してるんだよ」
「知らないよ!ノーベル賞取ったからって、お金返ってくるの?わたしもう一回高校に通える?」
少女は田辺を睨みつける。
「仕事しろよ!働けよ!あんたの研究、わたしから見たらただの道楽なんだよ!」
田辺の前に置かれていたマイクを力任せに叩きつけ、少女は会場を出て行った。
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