4.我が高校の七不思議
岬からメールが届いたのは、そろそろ日付が変わる頃だった。着メロの鳴るスマホを取り出してチェックしてみると、2通到着している。1通目は女の子と生徒会長について、2通目は女の子が『消えた』ことについて、がっつり詳しい情報が載っていた。
あ、ラインはあんまり使ってないんだよねえ。一度話始まると延々と続くのめんどいし、ニーミもうざがってるし。こんな時の情報なんかはメールで十分だから、それでいい。
ま、それはともかくとして、だ。
『んー? 何、情報来た?』
「うん。生徒会長は、気がついたら学校にいたって言ってるそうよ。それと女の子だけど、該当しそうなのは1人。『
『よつや、かおり? そーいや、あーちゃんがよつやさんって言ってたっけ』
枕元にある専用布団の上にのっかったニーミが、私が口にした名前を繰り返した。少し興味がありそうだったので、メールの先を読んでやることにする。
「うん。学校に来てれば今3年のはずなんだけど、2年前に自分ちのベランダから落っこちたんだって。一応休学中、ってことになってるみたい」
『うわ、痛そう。で、それ以外は何て?』
おい、それだけか小石。まあいいわ、それくらいしか四ッ谷さんの情報はないし。だから、私は2通目のメールを開いた。おや、これは……なるほど。
「あとはねえ。岬いわく『最後の七不思議』なんじゃないかってさ、この話」
『へ? あー、その話かあ』
メールの文面に出てきた言葉を口にした私は、ニーミと顔を見合わせた。小石に顔があるか、というツッコミはもう受け付けない。感覚で分かってほしい。
ニーミはいつも私と一緒だから、私の知っている話は大体知っている。そしてこの言葉は、うちの高校に今いる生徒ならみんな知っている話。
最後の七不思議。
うちの学校で今年に入ってからささやかれている噂だ。つまり私たちが入学してからだけど。
そもそも、うちの学校に伝わっている七不思議は、ざっと並べるとこんな感じ。
1、ルーが夜中に、防犯ベル代わりのピアノリサイタル。そのうちあーちゃんも加わるんだろうか。
2、講堂の鏡に、いないはずの人物が映る。
鏡にニーミと同じような付喪神が宿ってて、こっちはお姉さん。鏡はもともと鏡台か何かに使われていて、数年前にリサイクルされたもの。これにはこっそり、三段壁先生が絡んでるとか。
3、屋上に上がる階段の段数が増えたり減ったりする。
創立間もない頃に進路問題で屋上から飛び降りた、学校付きの地縛霊さんのしわざ。今は同じ悩みを持つ子が上ってきたら、自分みたいにならないようにわざと屋上に辿りつけなくしたりするらしい。
4、運動場を走る人影。
事故で死んだ、生きてたら私より年上になる近所の子供の地縛霊なんだよね。走るのにあきたので、そろそろ成仏しようかなとか言ってた。覚悟が決まったらお迎えを呼んでもらう予定。
5、珍しく高校在住のトイレの花子さん。と言っても、廃校になった小学校から移住してきたんだけど。
ぱっと見はけっこう可愛い、おさげの女の子。ちなみに綺麗好きで、トイレ掃除の手を抜くとドアノックやら水を流す音やらで抗議するとのこと。なお男子トイレでも抗議は行います。
6、ガラスの割れる音。音のした場所に行ってもガラスは割れていない。
実は3と同じ地縛霊さんのしわざで、屋上に来る人がいなかったりして暇になると出張するんだそう。寂しいんだろうなあ。
以上が確定済み。その原因とは、何だかんだで知り合いになってしまっている。何で高校に入って半年もしないうちに人間じゃない知り合いがこんなにできるんだか。しかも校内限定で。
そして、最後の7番目。
噂自体は『空き教室に幽霊がいる』というものなんだけど、その幽霊の正体が2タイプに別れていて特定されていない。どちらもそこそこ最近の話というか元の話を知っているのが今の3年生なので、噂が混じらずに伝わってしまってるのだ。
1つ目。かつてその教室を使っていたクラスに在籍した女の子。彼女の名前が、多分『四ッ谷佳織』さんなんだろうな。メールにはベランダから落っこちた、としか書かれてなかったけど、きっと何かあったんだ。
そして2つ目。確か2年前、警察に追われて学校に逃げ込んで、うっかり足滑らせてコンクリで頭打って死んじゃった下着泥棒。若い男の人だった。こっちの方は当時、噂好きの友人から来たメールに写真が付いていたので、いかにもって感じのあごの細い顔は覚えてる。名前もあったんだけど、さすがにそこまでは覚えてないなあ。
「で、その泥棒と四ッ谷さんで最後の七不思議の座を争っている、と」
自分の中で整理を付けるためにここまでを口にした私に、岬お手製ベッドの中から石ころが呆れたような声を上げた。
『争うもんなんか、それ?』
「知らないわよ。私幽霊じゃないし」
首らしい部分をひねったニーミの疑問には、私もそう答えるしかない。大体、人間が勝手に噂を楽しんでるだけだろうし。
『……にしてもさあ、秋野』
こととん。
布団からいつの間にか出ていたニーミが、ベッドの棚板を叩く。それはいいけれど、こやつの口調が半ば呆れ気味なのは何でだろう?
「何よ?」
『さっきの着メロ、新しくしたんだって思ってたけどやっぱ
「む。何よあんた、私の趣味に口はさむ気?」
あのね。七不思議についてだと思ってたのに、何で私の携帯の着メロ話になるんだ? まあ、ただいま人気絶頂の2枚目半アイドル
みんな歩人の曲を着メロにしてるけど、これはちょっと珍しいはず。そらニーミ、携帯にディフォルメ歩人のストラップ着けてあるから、よーく見なさい。
『かーちゃんのタイプなんだよな、こいつ』
「まあ、タイプっちゃタイプかな? かっこいいだけじゃなくてバラエティもOKでさ、話の仕方も面白いの。やっぱ男は顔と話術よ」
『ふーん』
しげしげと自分よりほんの少しだけ大きいストラップマスコットに見入る小石に、歩人の良さを拳握って解説する。この前見たバラエティ番組で歩人は、自分の失敗談をおもしろおかしく話して他のタレントたちを笑わせてた。ああいう男の人っていいよなあ。
……って、何やってんだろう、私。
『そっかー。じゃあかーちゃん、オレもこういう感じに頑張ってなるー』
「どうやってよ」
生意気言うなちび石が、と指先で軽く弾いてやると、ニーミはまたこととんと音を出した。まるで私に文句を言っているように聞こえたのは、気のせいだと思おう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます