30-4 : “改竄剣リザリア”
■■■――“
金属光沢を
「……何が……起きたのですか……?」
シェルミアには、目の前で起き、過ぎていった事物が何だったのか、まるで理解できないでいた。
彼女に問いかけられたリザリアは、目を閉じたまま、無感情に深く息を吸い込んでみせる。
「……。……逃げ
「……――“
ポツリと、“
「何、なのです……それは……」
「名を付けぬ訳には、
リザリアが、吸い込んだ息を長い時間をかけて、憂うように吐き出していく。
「……真紅の呪いと、それへ形を与えた凶王の器……人の“想い”の、何と強いことか」
孤独な玉座に覆い
「それだけの想いの強さがあるならば……
思いを
……。
「……シェルミア――」
“
「分かっています、“宵の国”の王」
シェルミアが横目に、リザリアを振り返る。
「あれを、追います。
1つだけとなった
「“
そこまで言って、彼女は軽く首を振る。
「いいえ、私だけのものではない。あれからは、数え切れないたくさんの“孤独”を感じました。過去を壊してしまう剣……何て邪悪で、何て……
自然と、シェルミアの両目から再び涙が
「あれは、私たちが
シェルミアに核心を突かれても
「……。……是非もない。それが“
「そんなことは、させません」
“明星のシェルミア”が、剣を抜く。
未来を選択する剣を。
この世で最も
「“
剣を手にするシェルミアの左腕に、彼女の壊れた魔力の流れが魔方陣として浮かび上がっていく。枝葉を伸ばした魔方陣はやがて彼女の
……。
次の瞬間には、出入り口の存在しない
「……“運命剣リーム”……」
玉座に独り残った“
「
感情のないリザリアの声が、
「『――誰も悲しまぬ、幸せな世界であるように』、か」
シェルミアの
「思い出した……
……。
……。
……。
「懐かしきものよ……」
……。
……。
……。
「まことこの世は、
***
“
幾何学の暴力――“原初の闇”をこの地に封じる結界としてそこに在った無限回廊は、今は何の変哲もない巨大なだけの通路として存在していた。
閉塞した運命さながら、無限に閉じていたそれをこじ開けたのは、人間の想いであった。
たった1人の、人間の騎士。その後ろ姿が回廊の一角を歩いている。
“明けの国騎士団”の象徴たる銀鎧ではなく、
自身の片割れ、誰よりも近い半身そのものであった双子の弟との別れを経て、長く伸びた銀髪を揺らし。
二度と空気を震わせることのない声で、誰よりも雄弁に語り。
“魔剣のゴーダ”の紫血を
失った左腕に、“封魔盾フリィカ”が形を変えた
その封魔と破邪の拳で
“明星”が守護騎士――“右座の剣エレンローズ”。
「……」
大回廊をゆっくりと歩いていきながら、エレンローズは何かを探して瞳を左右に泳がせる。
その灰色の目に一時はごうごうと燃え盛っていた紫炎の光……今はそれも、残り火ほどのちらつきにまで落ち着いていた。
それは、ゴーダから輸血され体内を巡っていた魔族の紫血が、魔力の激しい燃焼を経て、人間の赤い血へと還元される過程の発露であった。
宿縁“烈血のニールヴェルト”との、全てを出し切った死合の中で負った致命傷も、魔人化による爆発的な治癒力で半ば完治しかけてすらいる。
「……!」
やがて大回廊の片隅に探していたそれを
生身の腕と、封魔の義手。その異なる両の腕でひしと抱き締めたのは、“守護騎士の長剣”。
彼女の愛剣。この大戦の中で折れ失われ、ただ一振りだけ残った双剣の片割れ。
そして彼女の主君、“明星のシェルミア”との間に交わされた、死後も決して切れぬという最上級の誓約――“守護騎士の契り”の
ニールヴェルトとの激闘の中で一時は手放してしまっていた“守護騎士の長剣”を、エレンローズはもう二度と手放すまいと胸に抱く。
そしてそのすぐ足下には、これもまた無限回廊の中で千切り落とした金の
「…………」
エレンローズの拾い上げたそれは、今ではブツリと途切れて
それでも。たとえ薄汚れた
彼女の長剣と並ぶ、“守護騎士の契り”を証明するもの。
ポッキリと、一度は音を立てて完全に折れてしまった彼女の心を
それぞれの因縁に決着をつける
――シェルミア様……。
染み込んだ血を
――私は、
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