28-22 : “原初の闇”
「……?」
重たい
「
2つの金属光沢をした金色の
「余は、“
その声に導かれるようにして光が筋を伸ばしていくと、白亜の床に転げ落ちた“
「……淵、王……貴様、は……不死か……?」
シェルミアと同じく、その“少女の姿をした何か”の声で目を開けたアランゲイルが、玉座に座したままリザリアの首を見て言った。
「余は不死ではない。“死なぬようになっている”というだけのこと」
生首が、何でもないというふうに、淡々と言葉を返した。
「どういう、ことだ……?」
「……人の命は短すぎる。余が何度、
感情のないリザリアが、それでもどこか
「
――。
「盟約を忘れ、魔族の地を欲するならば、
――。
「それでも
“
「決して、あの
「北の地を守護していたものを、リンゲルトと言った。あれは最も外郭を成す結界たる“明けの国”を落とさんとした。ゆえに余は、この“原初の闇”の力で
リザリアの生首が語る言葉を聞いて、シェルミアが眉をひそめた。
「……リンゲルト……? “誰のことを、言っているのですか”……?」
「語るだけ無意味ぞ。“元より存在せぬ者”のことを、これ以上言って聞かせる道理はない。余だけが覚えている夢のようなものに過ぎぬ」
リザリアの首が話す横で、闇が見る見るうちに玉座の間に満ちていく。気のせいか、シェルミアにはその純粋な闇が、何か意思のようなものを持っているようにも感じられた。
「余を傷つけること、あまつさえ
闇が、ドレスを
「余とて、始まりはただの魔族の女に過ぎぬ。余の役割は、ただ、この“原初の闇”とともに在り続けること――この身の朽ちる可能性を
女の形の影法師としてくっきりと浮かび上がった闇が、宵の玉座の上で
「私、は……そうか……消える、のか……」
深く長い呼吸を繰り返しながら、アランゲイルが闇を見つめる。
「まぁ、いいだろう……誰も、覚えていなくても、構わんさ……私が、私自身を、納得させる、ことが、できた……それだけで、十分だろう……」
そう言って、人の身でありながら魔族の王の玉座へまで至ってみせた王子が、鼻で
「アラン、ゲイル……っ」
シェルミアが、眠るに任せていた身体を再び起こそうと
「ははっ……やめて、おけ、シェル、ミア……お前も、
「忘れ、ません……! 忘れる、ものですか……!!」
そう言って歯を食いしばるシェルミアの頬に、涙が次々に伝い落ちていった。
「はは……なら、ば……せい、ぜい……
そう
「“原初の、闇”よ……」
焦点も定まらなくなった目をうっすらとだけ開けて、アランゲイルが女の形の闇を見た。
「お前に、消されると、しても……私の、この死は……私の、ものだ……」
ニヤリと、王子が口角を
「わ、たし、の……勝ち、だ……は、はっ……ざまぁ、ない……な……」
そして最期に、もう一度だけ、アランゲイルが鼻で
「…………」
宵の玉座に座したまま、王子は2度と、目を開けなかった。
ドレスを
「忘れたり゛、なんか……しま゛せんっ……! お兄様……!」
“明星のシェルミア”の絞り出すような声が、闇に向かっていつまでも語りかけ続けていた。
……。
……。
……。
■■■。
■■■。
■■■。
「――大義ぞ」
“
金属光沢のある金色の瞳が、玉座の間をじっと見つめる。
「何を泣いておるのか、シェルミアよ」
興味があるわけでもない様子で、リザリアが問いかけた。
「……分かりません……」
シェルミアが、玉座の前にぺたりと座り込み、ただ小さく首を横に振りながら、両手に顔を埋めて泣いていた。
「なぜ、涙が流れるのか……自分でも、分からないのです……ただ、とても悲しくて……涙を流さなければいけないと、心の中で、私ではない私の声が、
そこまで言って、
「そう、か。……大義であるな」
リザリアのその声はわずかだけ震えていたが、涙が止まらないシェルミアには、その違いは分からなかった。
――“王■ア■ンゲ■ル”、宵の玉座へと至り、直後、死亡。“原初の闇”により、存在そのものを抹消。
――“明星のシェルミア”、実兄と凶王との因果の果てに、生還。
――“第3結界:大回廊の4人の侍女あらため
――“第1結界:
……。
……。
……。
――中央戦役、決着。
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