28-19 : 黒い淀み
「……黙して見聞しておれば、何と醜く騒がしいものよ」
“
「その獣にも劣る
「ケケケケェッ! 殺ス! 殺スッ‼ 殺スゥッ!!! コノ世ニ王ハ2人モイラヌ!」
身体はシェルミアを向いたまま、頭だけを真後ろに座すリザリアへ向け、首の捩じ折れた人形のような奇妙な姿勢をとったまま、凶王が肩の関節を無視して右腕を背後に向けた。そのまま前後が逆になったような後ろ歩きの動作で、“
「滅ビヲ導ク凶王ニコソ、ソノ玉座ハ相応シイ! ケケケケケッ‼」
「そうまでしてこの玉座を欲するか。ならば、好きにするが良い」
リザリアが、一切の感情のない冷たい瞳で、人であったことを捨てた真紅の存在をじっと見つめた。
「されど、凶王よ――余の下へ至るには、
「ケケッ……?」
「――あぁぁあああ……っ!」
凶王の正面から――背中へ向けて
銀の
「――凶王ぉおっ!」
シェルミアの満身
「……グルル……」
凶王が、鬱陶しげに喉を鳴らした。それ以上の動きは、何もなかった。
――コッ。
リザリアの方へ首を
「――ウフフ」
“侍女の形をした呪い”が、
「……!!? なっ――」
「――ンフフッ」
「――クスクス」
次の瞬間、新たにその場に現れた2体の“侍女の形の呪い”が長いスカートを
「っ……え゛は……!?」
「――フフフ」
そして背後で、4体目の“侍女の形の呪い”が無慈悲に笑った。天に向かってスラリと伸ばされた真紅の脚線美が風を切り、シェルミアの首元めがけて
――コッ。カッ。カッ。コッ。
“4人の侍女の形の呪い”が、シェルミアの四肢にそれぞれヒールの先端を立てる軽快な音が響いた。スカートをたくし上げた呪いたちが、ゆっくりと力を強めながらぐりぐりと細いヒールを
やがて
「うあっ……う゛……あぁ……っ!」
手足に突き刺さったヒールに
「何度邪魔ヲスレバ気ガ済ム、死ニ損ナイガ……!」
幾万の羽虫の羽ばたきのような凶王の声が、
凶王の足が、うつ伏せに倒れているシェルミアの頭部を踏み潰すほどの勢いで
「はぁ゛……はぁ゛……っ゛……えぇ、何度、だって……邪魔しま゛す……! 宵の、玉座へ……至り゛、たいのな゛ら……! 私を゛……殺して、い゛きなさい……!」
「グルルル……!」
凶王の肩が怒りで上がり、シェルミアの頭を踏みつけている足に体重と力がぐっと乗った。その動作に合わせて“4人侍女の形の呪い”たちも姫騎士に突き刺さったヒールに体重をかけ、足首をグリグリと回して傷口を広げた。
「……あ゛っ゛……ふぅっ、ふぅっ……! どうし、ましたか……! まだ、私は……っ……生きてい゛るぞ……凶、王゛……!」
踏みにじられて
「グルルル……! 殺ス……殺ス……殺ス殺ス殺ス! 殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺スゥゥゥゥゥゥ!!!!!」
「はぁ゛、はぁ゛……――“運、命……剣……”っ!」
手足を
「…………」
魔導器の魔力が体内の壊れた魔力の流れに干渉する激痛でもがき苦しむシェルミアの声は、そこには聞こえなかった。
「…………」
無言のまま棒立ちになっているシェルミアには、もう「痛い」と悲鳴を上げる
「因果ヲ、断チ切ル……」
“明星のシェルミア”と真っ向から
「玉座ヘ至リ……宵ト明ケニ終ワリノ刻ヲ……」
“人造呪剣ゲイル”が頭上に高く振り上げられて、それを囲うようにして“4人の侍女の形の呪い”がひらりと舞踏の構えを取った。
「死ネ、シェルミア……グルルルァ!!!」
真紅の呪いたちを従えて、凶王が剣を振り下ろした。
……。
……。
……。
「――“運……命……剣”」
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