28-18 : 凶しき王
獣じみた低い姿勢から、凶王が全身を
鉄の
「私の剣は! 私に初めて稽古をつけてくれた、“あの人”から教えてもらったもの!」
シェルミアの美しい剣筋が、
「ケケケッ! ソンナモノハ捻ジ伏セル! 叩キ壊ス! 握リ潰ス! ケケケケケッ!」
まるで数百の虫の羽音が重なり合ったような
両者の剣が火花を散らして
「くっ……!」
そのまま腹を抱え込んで倒れていても不思議ではない状況で、しかしシェルミアは肩幅に開いた両脚でぐっと耐えて立ち塞がった。
「私の信念は……! 穏やかで大きかった“あの人”の背中を見て……! そうなりたいと夢見たもの……!」
「夢ハ裏切ル! 理想ハ朽チ果テル! 無力ガ願イヲ腐ラセル! 信ジラレルノハ、チカラノミ! ケケケケケッ!!」
凶王が左の手のひらを前に突き出すと、ズチャリという水音とともにその手甲が波打って、肥大化した左手が巨大な盾の形に変わってシェルミアの剣を受けきった。
「ケケケケケッ! チカラヲ欲セヨ! チカラダケヲ求メヨ!」
盾に成り変わった左手がずいと前に出て、シェルミアの視界を覆い尽くす。その裏で凶王が真紅の剣と一体になっている右腕を自分の背中に回すと、奇妙な姿勢のまま右腕が軟体生物のようにぐにゃりと曲がった。
人体の構造を完全に無視して、元の何倍もの長さにまで伸びた右腕が凶王の背中をぐるりと一周回り込み、盾で塞がれたシェルミアの視界の外を更に大きく
「あ゛……ぐっ……!」
痛みに
「チカラニ身ヲ委ネヨ! 蹂躙ト! 虐殺ト! 圧政ヲ! タダ暴力ノママニ! タダ滅ビルママニ!」
凶王の右腕が再び蛇のように伸びて
「はぁっ……はぁ……! 私、を……“明星の、シェルミア”を……! 大きくしてくれたのは! 強くしてくれたのはっ!……“あの人”……!」
そして、銀の
「ゲギャァアア!」
凶王の虫の羽音が重なったような声が
「こ、れで……!」
ぐらりと身体をよろけさせながら、凶王から呪剣を切り離すことに成功したシェルミアの顔に、祈るような表情が浮かんだ。
「ヌ゛ガァァァアアア!!!」
しかし凶王が
「モハヤ呪剣ハ我ガ血肉ノ一部ニ過ギヌ! ケケケッ、ケケッ! コノ身コノ骨コノ血潮コソ、一片残ラズ、我ガ呪イナリ!! ケケケケケッ!!!」
真正面からの盾の殴打で、
「うっ……!」
それでも
「ケケケケケェェェッ‼」
まるで、盾の向こう側に屈強なヒイロカジナが何頭も群れているかのようだった。とてつもない馬力で凶王が盾を押すと、それを支えようとするシェルミアの足は木っ端を掃いて散らすようにズルズルと
風を切る勢いのまま、全く速度を緩めることなく、凶王が自らの身体を玉座の間の壁面へ
「ぁ゛……かはっ……!」
巨大な盾と壁とで板挟みにされたシェルミアの身体から、一瞬で全ての空気が締め出された。急性の呼吸困難に陥った姫騎士の口と目が、必死に空気を求めてかっと開かれる。
「ケケケケケッ! ケケケェエッ‼」
シェルミアが息をしようと
衝撃が玉座の間を揺らし、パラパラと砂埃が落ちる。
「あっ……! う゛……っ」
「ケケケケケッ! ケケケケケッ‼」
2度、3度……そして4度。凶王は
「ぁ゛……はぁ゛……ァ゛、ぁ゛……っ」
壁に埋もれて脱力したシェルミアが、だらんと四肢を垂らして虫の息で
「ケケケケッ! 奏デ聞カセヨ。
天を仰いで絶叫を上げた凶王が、斬り落とされて
どこから差し込んでくる何の明かりなのかも分からない
「ケケッ、ケケケッ、ケケケケェッ!」
虫の息のシェルミアの姿を正面に捉えていた凶王が、己の首をまるで関節などないかのようにグネリと真後ろに向かせた。兜の顎部が、凶気に
「次ハ、貴様ヲ切リ刻ム……食イ散ラス! 引キ千切ル! 磨リ潰ス! ケケケェッ!!!」
背中に向かって
「
凶王が、再び絶叫を上げた。そしてそれとは相反するように、
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